1年間の公開ダイエットを終えて……2か月後の今

ダイエッター諸君! その後のダイエットの成果はいかがですか。

私、杜野みかんは、この連載が終了してからも日々精進を重ね、着々とスレンダー美人への道を邁進中である。というのは嘘で、連載終了時とまったく同じ体型を維持しております。イヤ「維持」といえるかどうかも定かではなく、一時期、連載終了の開放感からか、食欲が旺盛になり、ちょっとだけ増えたりした時期もありました。

何しろ1年間という長期にわたり、人様の前に無様な体型を晒し(今も晒されているが)、体重やら体脂肪やらを晒し、食生活まで暴かれていたのである。連載が終了すれば、少なくとも食生活を克明に表す必要がなくなるため、「あら、みかんったら、ダイエットしているくせに、こんなもの食べている」とか、「こんな生活しているから痩せないのよ」などと言われることがないのだ。

ちょっと思い切りビールを飲んでも、脂っこいもの食べても、3日続けてケーキを食べても、誰も文句は言わない。ダイエット塾の七尾先生にもお叱りを受けることはない。別に終了直後にこのような不埒な考えを持って、「よし、今日から食べるぞ!」と思ったわけではないが、不埒な思いは緊張から解き放たれた私の心に徐々に染み入り、いつしかダイエッターとしての私を堕落させていった。悪魔の囁き声のようなものだ。

3日連続ケーキを食べるようなことはなかったものの、やはり飲み会に行った時には、「今日くらい久し振りに飲んじゃおうかな」と思ったし、「今日は腹いっぱい食べようかな」と思ったし、実際、ダイエット連載中にはあり得ないくらい飲んだり食べたりしたことがあったことを、私は正直に認めよう。

それに私の周囲にいる親しい人は、私がダイエットの連載をしていたことを知っている。そしてそれが終了したことも。だから「やっと連載終わったんでしょ。じゃ、今日くらい飲んでもいいじゃん」と、悪魔の囁きを声に出して言うのである。自分でも「今日くらいいいか」と思っているところに「今日くらいいいじゃん」と言われれば、「いいよね」という気にもなろうというもの。

しかし、何人もの人と食事に行くたびそんなことをしていると、それは決して「今日だけ」ではなく、日常になってしまう。夜、家に戻って体重計に乗れば、その「日常」によってもたらされる肉体の変化は、確実に現れる。数字を見て、「ヤバイ!」とは思うものの、「じゃ、明日から気をつけよう」と、ダイエット成功者の驕りで、「ちょっと頑張れば痩せられるさ!」と考えてしまう。この悪魔の誘惑と、自分自身の弱さから、現実へと引き戻してくれるもの、それがあったから、私は現在、終了時の体重を維持していられるのだ。

それは時々お話をする七尾先生の、「体重はどうですか?」という言葉である。その言葉を聞くたび、私は体重計に乗った時以上に強く、「ヤバイ」と思う。そして慌てて気を引き締めなおす。サボりがちな毎晩の体操に力を入れ、暴飲暴食とさよならする。1年かけて痩せた体は、実際、一晩くらいの暴飲暴食にはきちんと耐えることができる。連載中もそうであったように、少しでも体重が増えたときには、数日間きちんとした食生活をすることで戻せるのだ。

しかし、連載中と違い、いったん引き締めた気持ちにも、再び誘惑の魔の手が伸びる。「今日だけ」「今日くらい」「明日からでいいじゃん」「たまには息抜きしたら」元々根性のない私は、あっさりと誘惑に負けて、「そうだね、今日くらいいいじゃん。連載はないんだから」と思ってしまう。そしてすっかり脂肪が緩み、そろそろ増えた体重が体に定着しますよという頃、またまた七尾先生の「体重はどうですか?」のお声が掛かる。

そして再び……と、連載終了後の2か月、これを繰り返し続けていた。もしも七尾先生の「天の声」がなかったら、私は「悪魔の声」に誘惑され続け、堕落しきっていたかもしれない。

ダイエットが一生ものである以上、これではいけない! と思うのだが、世の中にはとっても誘惑が多いのである。特に他人は私を強く誘惑する。太っている時は「痩せたほうがいいよ」とか言うくせに、痩せ始めた瞬間から、「無理なダイエットはよくないよ」「ちゃんと食べたほうがいいよ」などと言う。ここの読者はご存知の通り、私は無茶なダイエットなどしていないし、普通のダイエットに比べたらとてもたくさん食べていると思う。お酒も飲んだし、甘いものも食べたし、揚げ物も食べていた。

それでも世間には、「ダイエットは無茶な方法が多い」と思っている人が多く、「たまには思い切り食べたほうがいい」と言われるのだ。私は自分の心の弱さも憎いが、私を誘惑する人も憎い。そういうことを言う人は、たいてい私より痩せているから、なおさら憎たらしい。そんなふうに、自分の弱さを棚に上げ、他人を逆恨みしていると、再び天の声が聞こえてきた。

「その後のみかんの報告を書いてください」

私はその声にうめき声で答えた。思わずのけぞった。それって「抜き打ち検査」じゃないか! そんなことがあるとは露とも思っていなかった私は焦りに焦り、連載最終日よりわずかでも痩せねば! イヤせめて、「維持」だけでもしてなくては! と自分をそそのかす声には耳を塞ぎ、再びダイエットに集中した。

そのお陰の「維持」である。
この2か月、私が再び見てしまった体重の最高数字は「54.5kg」である。それも一瞬のことで、いくら誘惑が多いとは言え、1年間で培ってきた食生活はそう簡単には変化しない。相変わらず果物や野菜が中心で、あまりこってりしたものは身体が欲しがらないのだ。それでも緊張感が緩んだ心には、さまざまな声が聞こえてくる。今は「52.5kg」だが、本来目指していた体重にはまだ程遠い。

連載スタート時に目指した体型&体重を手に入れるために、天の声がなくても日々ダイエットに精進できる強い心を持って、これからも頑張っていこうと、いつ抜き打ち検査があるかわからないと悟った私は、決意を新たにしたのだった。


(2003.6.21)


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