「恋をすると美しくなる」
とは、よく聞く言葉である。それは本当かと訊ねたら、はたしてダイエット塾の七尾先生曰く「本当です」だそうだ。詳しい説明は端折らせていただくが、ようは恋をしてホルモンの分泌が盛んになることが、ダイエットには効果的らしい。
「恋」といっても、例えば誰かと付き合うとか、セックスするなどの直接的なことだけでなく、アイドルタレントなどにときめいたりするだけでも、ホルモンの分泌はよくなると言う。
つまりは誰にときめくこともなく、「男? 興味ないね」などとのたまっていると、肌のツヤもなくなり、代謝も鈍り、ブクブクと太っていくということか。七尾先生はこの連載の最初の頃から、「みかんさんも、恋をしなさい」と仰せられいた。
しかし「そうか、恋をすれば美しくなるのね!」と単純に思えるほど、「恋」による効用を私は信じていない。
第一に、私もこの年になるまで何人かの人と付き合った経験くらいあるのだが、まさに恋をしていたはずのラブラブ期、「いつも太った」という経験に基づく疑惑。第二に、付き合ってから太っていくならばともかく、今現在、こんなにも突き出た腹を抱えて、はたして恋は始まるものであろうかという純粋な疑問。
このふたつの問題を解決せねば、女性ホルモンの活性化は図れないのである。
「私は彼氏がいる時のほうが太るんですが…」
と七尾先生に言ったところ、
「それは、かなり珍しいですね」
と言われた。よっぽど安心しきって付き合っている「幸せ太り」か、相当に辛いことばかりの「ストレス太り」かのどちらかだろうと言う。
そのどちらであったのかは、元彼氏たちの名誉のためにも言わずにおくが、何しろこの連載スタート時の体重になったとき、私は1年で10kg太るという快挙を成し遂げており、ちゃんと付き合っている相手もいたのである(連載が始まる前には別れていたが)。
この時に限らず、私の記憶にある限り、「太り始める時期」というのはたいてい彼氏がいた時だ。もしかしたらその時期の私の肌はツヤツヤしていて、ちゃんと女性ホルモンは活動していたかもしれないが、少なくとも「恋」はダイエットに何の効果も示しはしなかった。
では、太った肉体を残して「恋」が去った後、再び恋をすれば痩せるのであろうか? もしかしたら痩せるかもしれないが、これにははてしなく難しい問題が内包されている。なぜならば、アイドル歌手にときめくくらいの「恋」ならばともかく、この年で現実的な「恋」をすれば、そこには当然「一線を超える夜」というものが付いてくるからだ。
それはスッポンポンになって、まさに「恋する人」相手にこの肉体をさらす夜のことである。そんな勇気が恋する女性にあるものだろうか? 少なくとも私にはない。「せめてあと10kg、イヤあと3kg痩せてからでなければ、愛する人の前に素っ裸で立つことはできないわ」と躊躇しているうちに、体重ではなく相手がいなくなった経験を、挫折続きのダイエッターなら一度ならずしているはずである。恋をすれば痩せられる。でも痩せてからでないと本格的な恋には突入できない…。
ダイエットが先か恋が先か。それはつまり、脂肪をさらすのが先か、さらして燃焼させるのが先かということである。まるでニワトリと卵の関係のように、この問題は奥が深い。