Vol.32 「歴史息づくお城のプリンセス」その3〜現在の城主、プリンセス・アニータ

エリザベート皇后夫妻の甥で、1914年のサラエボ事件で暗殺された、当時のオーストリア次期皇位継承者、故フランツ・フェルディナンド大公夫妻の墓所もあるアルトシュテッテン城は、代々ハプスブルグ家によって継がれてきました。

アルトシュテッテン城の現在の城主は、HSH(Her Serene Highness)プリンセス・アニータ・ホーヘンベルグです。ハプスブルグ家末裔、プリンセス・アニータは、故フランツ・フェルディナンド大公の曾孫にあたり、ルクセンブルグのプリンセスをお母様に持つ、由緒正しきプリンセス。フェルディナンド大公のお妃は伯爵家出身であったためハプスブルグ家とは認められなかったことから、それ以降大公夫妻に与えられた、「ホーヘンベルグの名」と、お城を守り続けています。

私が訪問した時、プリンセスは真夏にも関わらず、美しいグリーンの刺繍のジャケットをきちんとお召しになっていました。お城の一角には、先祖の納骨所や、故フェルディナンド公博物館があり、そこには多くの遺品や世界各国からの土産品が収蔵されています。それらのひとつひとつを自ら説明し、私を案内してくださったのです(恐縮する私に「大丈夫よ、噛み付きやしないから」と冗談をおっしゃるくらい、プリンセスは気さくな方でした)。博物館をひと通り見せていただいた後は、プライベートのお部屋に移り、しばし、色々なことをお話ししてくださいました。

マリーアントワネットの母、女帝マリアテレジア以降のハプスブルグ家の家系図
プリンセスのお母様でルクセンブルグのプリンセス、HRH(Her Royal Highness)エリザベス妃殿下は、現在のルクセンブルグのアンリ大公殿下の叔母にあたります。つまりプリンセス・アニータはアンリ大公とはいとこ同士。ご幼少のころは、ルクセンブルグの宮廷で育ったのだそうです。

「他の国々の貴族や王族とは、もちろん交流があります。ヨーロッパの王族は、たどっていくとたいてい、つながっているものです」と、語ってくださったプリンセス。さらに、「残念ながら、日本のプリンセス・マサコには“まだ”お会いしたことはありませんが……」

……ここまで聞いた時点で、私はハイソサエティーの世界の話に、少々腰が引けてしまったのでありました。