Vol.03 ウィーンにおける舞踏会の“今日”

第一次大戦後、共和制となり、公には貴族の地位はなくなったオーストリアでは、今日、多くの舞踏会は基本的には誰でも行けるものとなりました。ウィーンの人びとにとっての伝統は、日常の大切な文化となっています。ただしたくさんの数の舞踏会が開かれ、「誰でも行けるようになった」とはいっても、やはり現代でも「格」というのは存在します。

例えば王宮では由緒ある大規模な舞踏会が多く、主催者や参加する人びとの社会的地位、参加費、服装規定(ドレスコード)、来賓、そして世間の評判などから、その舞踏会の“ランク”を推し量ることができるのです。そんな中で、国際的にも社交界の最高峰とされるのが、ウィーン国立オペラ座で開かれる『オペラ座舞踏会・オーパンバル』です。

舞踏会へのドアが開きました。きょうも朝まで踊るのでしょうか。
ところでウィーンの舞踏会は、世界各国や日本でも行われている、いわゆる社交ダンス競技会とは目的も、趣もまったく異なります。ウィーンの舞踏会は、伝統を受け継ぐ一方で、老いも若きも、踊りの苦手な人も、誰もが優雅に踊って楽しめる場。コミュニケーションの手段として必須となるダンスは、競技やショーではなく、大人の教養として身につけるものなのです。ですので、ウィーンのたいていの家では、子供が高校生位になるとダンス学校へ通わせます。そこは、ダンスのみならずマナーをも教え、ウィーンではダンスを身につけることは、大人としての常識ともいえるのです。

そして舞踏会は、ただダンスが好きな人たちのためだけのお祭りではなく、親しい人たちとの、そしてまた新しく知り合う人たちとの、社交の場、ハイソサエティの人たちのみならず、市民みんなが楽しむものである、ということができます。

数ある舞踏会の中でも、華やかで有名なものとしては、大晦日から王宮で新年を迎える『皇帝舞踏会』、ウィーンフィルの演奏をバックに……の『ウィーンフィル舞踏会』、そして『オペラ座舞踏会・オーパンバル』は、オーストリアの「三大舞踏会」と言われ、これらに参加するのはステータスとなっているようです。他にも、仮面を付けて参加するユニークな仮面舞踏会などまさに、ウィーンの冬の風物詩とも言えるシーンが繰り広げられます。

それでは次回より、実際の舞踏会の様子を、私の“実況中継”で、いくつかご紹介して参りましょう。