Vol.09 伝統と、決まりと……そして現代の社交界

舞踏会のお土産です。ヴァレンチノの香水などなど……。これらの小物も赤で統一されています。
それにしても、同じヨーロッパの“舞踏会”とはいっても、その国の歴史、気候・風土そして国民性が違うように、雰囲気はまったく異なるものです。

けれども少なくとも共通していたのは、舞踏会では単なるパーティーではなく、伝統や、格式といったものがあるということではないかと思うのです。それをどのような演出で表すか、ハイソサエティーといってもどのような方たちが参加するのかなど、それぞれの主催者や主旨などにより独自性があるのですね。

もちろんそこには、フォーマル性や社交マナー、ドレスコードなどは最低限かつ暗黙のルールとして存在します。ただモナコの舞踏会ではドレスコードに関してひとつ、私が意外だったことがあります。

……ブラックタイ以上、いわゆる「正装」のドレスコードの場では、女性はストッキング着用、かかとやつま先が隠れている靴、というのが一般的な決まりとされていますので、今回も真夏にもかかわらず私は(もちろん同行者も)それに従っていったのですが、なんと、王女の方々は素足にサンダルだったのです。

ウィーンで、貴族である友人にマナーを習った時に言っていたことを思い出しました。マナーというのはもちろん“決まりごと”ではあるけれど、それに縛られるのではなく場合に応じて応用させていけばいいのです、そのためにはまずその“基本”を知らなければならないのは当然ということなのだと。社交界の中心である王女の“素足にサンダル”は、そのTPOのよい例と言えるのでしょう。

世界の中でもそんなに多くはない、王家(皇室)を持つ国の一員として、王室主催の舞踏会に出席し、さらに大公とも言葉を交わし握手ができたことは、とても光栄な出来事でありました。と同時に、王室が率先してチャリティーの場を提供されているという、ヨーロッパならではのご活動や、国際色豊かでしかも他にあまり類を見ない程の富裕な社交界の存在を、今やモナコの魅力のひとつにもしているという、ある意味で新しいあり方が、古い王家や伝統と、うまく共存できているようにも見えました。

アルベール大公は、日本が大変お好きとのこと。いつかそんなお話や、一緒に踊っていただける機会がありますことを期待しながら、舞踏会の翌日、“宝石箱”のふたをそっと、閉めてきたのでした。

「地中海の宝石箱・モナコ王室舞踏会の夜」は今回で終了いたします。
次回からは「輪舞(ワルツ)は夢、そして文化〜ウィーン舞踏会への招待状〜」をお送りいたします。