第6回
「とにかく自己破産の準備をしよう」
そう決心したものの、自分を不安にする材料はいくつもあった。中でも一番不安だったのは、自己破産はしたものの、免責されなかった場合のことだ。破産管財人が入らなければ旅行や転居に関する自由はあるものの、カードも使えなくなり、「破産者名簿」に記載されるデメリットだけが残る。

そして問題の借金も丸々残ってしまうのだ。借金を返していくことを考えれば、今の収入だけではとても無理なのは明らかで、その上クレジットカードも使えないとなれば、すぐにも生活不能になる。借金をしなければ生活不能になるということは、明らかに「破産者」なのだが、自分でいくらそう思っていても、裁判所がそのように認めてくれるかどうかは、別問題である。

結局、そういう不安をなくすには、この手の問題に詳しい人に聞くなりするしかないのだが、いくら周囲を見渡しても、「自己破産に詳しい素人」など存在しない。そのために弁護士がいるのだろうし、本にも「収入と、どこにどのくらい借金があるかということを把握して弁護士に相談すれば、自己破産可能かどうか分かる」と書かれている。

弁護士に依頼するかどうかは別として、たいていの弁護士事務所では30分5000円ほどで相談にだけは乗ってくれるし、各都道府県には弁護士会の相談窓口などもある。また、自己破産が増えてから、東京では三弁護士会が「弁護士会法律相談センター」を開設し、やはり同じ料金で相談に乗ってくれるという。

けれど、他の商売と同じで「相談だけ」というつもりで行っても、結局「弁護士に頼まないと無理ですよ」などと言われて、高い弁護料を支払わされるのではないかという疑念があり、弁護士に頼むつもりがない以上、そういったところに相談に行く気持ちにはなれなかった。

これも本を読んで分かったことだが、弁護士に頼んだ場合と個人でやった場合では、自己破産や免責の決定が出る時期がまったく異なる。東京地方裁判所の場合、弁護士が入ると「自己破産の申立」と「免責申立」が同時に出来るが、個人では破産宣告がなされてからでないと免責申立ができないので、ここでかなりの手間がかかる。

また破産申立の書類を出してから裁判官との面接までも1か月近く待つのが普通だが、弁護士に依頼していると即日面接になるので、単純に考えて1か月短縮できる。期間的なこと以外にも、自分でやる場合、破産宣告されてから債権者に「私は破産宣告されました」と通知し、借金返済の督促などを止めてもらうのだが、免責されるまでは借金は残っているので、債権者は返済を要求し続けることが出来る。

けれど弁護士が入れば、弁護士が依頼を受理してすぐに、各債権者へ「今後は自分を通してください」という連絡をしてくれるので、債権者からの連絡は一切なくなるのだ。月末になるたび債権者からの電話に怯えている私にとって、一切連絡がなくなるというだけでも弁護士に頼みたい気持ちにさせられる。

それに破産宣告が出されるまで早くても1か月、その間にくる督促の連絡にどのように対応すればいいのか、それを考えるだけでも憂鬱である。債権者は破産宣告をされれば1円も回収できないため、免責が出るまでに少しでも取り返そうと、返済の催促が激しくなる場合もあるという。だから「自己破産の申立中だ」ということは言わない方が良いようなのだが、ではその間はどうやって切り抜ければいいのだろうか。

破産宣告がなされた後、どのような形で債権者に連絡すれば良いかということは本にも書かれているのだが、それまでのやり過ごす方法などは、もちろん説明されていない。その上、結果的に免責されなければ大変なことになる。自己破産の仕組みについて、知れば知るほど不安は増していく。

お金を何とか工面して、弁護士に頼んだほうがいいのだろうか、ついつい弱気にもなってしまう。けれどそれでも私は、今までのように「現実の問題」から逃げてはいけない。絶対に逃げないで、今抱えている「やらなければならないこと」に立ち向かわなければならないと、強く思った。

この問題を解決しなければ、私は一生変われない。このままずっと債権者からの電話に怯え、自分自身の問題から逃げ回り、また安易に借金を繰り返す。そんなことはいつか終わりにしなければならない。そしてそれは、今しかないのだ。

今度こそは逃げずに、どんな方法であろうと自分の力で解決して見せると、私はその夜、改めて誓った。