
Kimono Master 山龍
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今年山龍がユナイテッドアローズの主力として提案した、有松鳴海の総絞りのゆかた。各1点ずつ約点集めて、仕立て上がりをズラリと並べた。圧巻です。
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この帯を見つけて、本気でゆかたをやる気になったという、桐生の半幅帯。絣の花柄がとても素敵です。
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アパレル各社が、7月の夏物セール終了からお盆明けまでの、売り上げが落ちる端境期を乗り越えるために、取り敢えずゆかたで稼いでおこう、へっへっへっ! と姑息に触手を伸ばしてきたのとは違って、あくまでも、着物への導線を意識しているあたりが、Kimonoマスターとしてのこだわりと意地である。
「ゆかたが数万円で売られているのは、それだけ量産しているからで、たくさん出回ってる分、どこにもないゆかたっていうのはあり得へんのよ。有松絞りかて、戦前からずっとあって、何も珍しいもんやあらへん。でも、生地で売ってはって、仕立て上がりがなかった。だから、仕立ててダ〜っと並べただけ」
コーディネイトと見せ方で、山龍ワールドを作ることはできたけれど、言葉の端々から察するに、まだまだ本人、納得できていないらしい。
某ゆかた専門誌によると、ゆかたを着ていく場所は、夏祭り、花火大会、屋形船、遊園地、下町散策、居酒屋……だそうで、その背景には、遊び、庶民、カジュアル、若者というキーワードがある。
つまり、間違いなくゆかたはシックで優雅な大人の着物とは一線を画すものなのである。ほんまもん……正統派着物の神髄を究めたい山龍の、夏場の葛藤はまだまだ続きそうだ。
ゆかたの未来
ここ数年のゆかた特集で気になるのは、ゆかたと帯だけでなく、中に襦袢を着たり、帯締めや帯揚げを組み合わせた、夏着物的な着方の提案が増えてきていることだ。やはり、もともと湯上がり着、寝間着だったゆかたをファッションにまで引き上げるには、着物と結びつける必要があるということなのだろう。「本気でゆかたを集めて思ったんやけど、やっぱり首周りに半襟がないゆうのは、下品に見えるな。これはどうしようもあらへん。白カラーを入れた詰め襟着てる学生と、長ラン着てる学生の差みたいに、実に下品にみえんのよ、僕には」
なんちゅう例えじゃ! ま、言いたいことはわかりますけど。
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山龍ならではのコーディネイト。帯の存在感が、総絞りのゆかたをよりおしゃれに見せてくれる。
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「ゆかたは綿やし、どうしても衿がクタクタヨレヨレになんのよ。下前の剣先だけ縫製をほどいて、芯を入れると、シャキッと衣紋も抜けてキレイやで」
これは、絶対に参考にしていただきたい。着物と違って、動いている内にどうしてもクタクタになってくるのがゆかたの宿命。でも、襟元がピンとしているだけで、女っぷりが全然違いますから……。
しかしねえ、やっぱりこのクタクタ感がある限り、しょせん、ゆかたはゆかたなわけで、あとは、素材にこだわっていくしかないのだろう。
「そうや! ゆかたは花柄のワンピースと同じや思うねん。各ブランドがシフォンのワンピとか作ってるやん。そのへんのクオリティのものは、ワンピでも10万円以上するやん。だったら、ゆかたもそのクオリティのものを作ったらエエ思うよ」
ゆかたは夏のワンピース……なるほど、言えてます!
カジュアルファッションが全盛の今、夏と言えば短パンにTシャツ、タンクトップ、クロップドパンツにチュニックばかりだが、サマードレス=ロングの夏ワンピという世界もあったではありませんか。そして、足下まで花柄で覆うゆかたこそ、日本古来の夏ワンピだという考え方、素敵だと思いません?
だったら、カシニョールの絵のように、素敵なオープンカフェの木陰にも似合うようなゆかた、欲しいなあ。屋形船や下町散策じゃなくて、リゾート地に映えるゆかた、欲しいなあ。少しお値段が張っても、それなら納得でしょう。
せっかくこれだけアパレルが参入しているのだから、ゆかたを、あの手ぬぐいのようなクタクタの素材に限定せずに、ワンピースに使っているような上質のプリントの生地をどんどん使って作るくらいのことはやって欲しい、と山龍は熱く語る。
そして、作り手としての山龍自身は、来年こそ、オリジナルのゆかたに挑戦するらしい。
「一つは麻のゆかた。素材にこだわると、やっぱり絹か麻になるんやけど、絹は暑いから、やっぱり麻やな。あとは、唐棧織り(とうざんおり)を今集めてる。先染めの綿の縦縞柄の織物なんやけど、その上から、木版で柄を乗せて、限定でやろうかなと……」
唐棧織りとは、細い木綿の先染めの糸で織られた縦縞の生地で。江戸時代の町人達が着ている、あれである。川越唐棧、館山唐棧など、東京近郊でたくさん織られていたらしいが、今はほとんど消滅しており、織っていたところの在庫を集めているのだそうだ。それに柄を乗せ、縦縞の薄い色の部分から柄が透けて見えるようなイメージにしたいのだとか。
ポリエステルOK! ゆかたは夏ワンピ! と叫びつつ、自身は、あくまでも伝統的な織物技術にこだわるあたり、いかにも山龍らしくていい、いい!
「都会で着たら、絶対かっこエエで。田舎で着たら、ただの田舎の子やけどな(笑)」
最後のひと言がなければ、もっといいんだけど……。
(2008.6.15)


