
Kimono Master 山龍
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「渚」の単衣仕立て。白地にいろいろな色の糸を、手でランダムに織り込んで微妙な色合いの縞を描いた、上品でありながら、モダンな生地です。所々に、ネップという節のある糸を入れているので、生地に凹凸感があるのがまた素敵!
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「渚」は、試作品が上がって来たとき、私が一目見て「素敵!」と思った生地だった。張りのある素材感と、ランダムに入ったストライプの何ともいえない表情。そのままパリッとシャツに仕立てたら、高級ブランドのクチュールものの存在感を醸し出せそうな気がした。シャツで着たいのだから、単衣にはピッタリというわけだ。
この季節の着物には、襦袢もサラリと涼しい薄地の綿や麻でいいという。「リュックサック型のクーラーができたら、ナンボ出しても買う!」と常日頃からいっているくらい、暑いのが嫌いな山龍だから、夏場には襦袢にも寛大なのである。肌襦袢に至っては、タンクトップでもいいとまでいい切る。
さっそくタンクトップに綿の二部式(上下が分かれている襦袢)の薄い襦袢を買い込み、単衣に仕立てた「渚」で、いざ初陣! 初夏の日差しの中、袖を通り抜ける風も清々しく、裾捌きも軽やかに〜〜!
しかし、そんなはしゃいだ気分は、ほんの数分で消し飛んだ。
6月中旬だというのに、その日の東京の気温は28℃。信号2つ分ほど歩いたあたりで、体から汗がじんわりと吹き出してきた。特に、補正のタオルや伊達締め、帯板、帯で完全武装のお腹のあたりは、ほっかほかの蒸し立て饅頭の気分である。暑い! 着物は、思った以上に暑い!
気が付けば、通りかかったタクシーに手を挙げていた。
ハッキリいいます。今の時代、都会の夏を着物で乗り越えるのは至難の技です。クロップド・パンツに薄手の半袖チュニック、素足にサンダルの女の子が闊歩している中、重ね着して、手も足も出さず、腹巻き巻いて、足袋はいて……。これで勝てるわけがない。必勝法は、気温が10℃台に下がる夕方以降の外出=夜討ちか、エアコンの効いた車でドアtoドアの、お姫様作戦しかあり得ません。そして、30℃を越えた真夏日は、こんな日に着物なんか着ていられん! と、堂々と棄権する。これしかないでしょう。
「そう! 真夏は無理して着物を着る必要はない!」
楽しんでこその着物。だから私も、敢えて棄権も厭わない。
それに、夏にはゆかたという風物詩があるじゃないですか。夏ど真ん中の次回は、山龍のゆかたの着こなし術と行きましょう。
と、山龍が不機嫌そうに言った。
「ゆかたは着物やあらへん! 寝間着や! 僕は、ゆかたなんて作ったことないで!」
エエエエ〜〜ッ! どうするっ、私!? 続く〜っ!!
(2007.6.28)
