よりどりみどり〜Life Style Selection〜


明るく暮らそう!

ある晩、顔を洗おうと化粧室の照明のスイッチを入れたとたん、大きな鏡の上に埋め込まれたライトがプチッと切れた。

「あっ!」と言って、思わず立ち尽くし、ライトをにらみつける。電球というのは、スイッチを入れた瞬間にいちばん負荷がかかるのか、点けたとたんに待ってましたとばかりに切れることが多い。それがちょっとだけ腹立たしく、つい毎回天井をにらみつけて、唇を噛みしめてしまう私は、まだ人間としての器が小さいのか……。

切れたのは、洗面台の上に左右に離れて2個埋め込まれた、小さなハロゲン球の片方だった。マンションを買ったときに付いていたものだから、4年半ぐらいもったことになる。点けている時間にもよるだろうが、リビングや廊下の埋め込み式のダウンライトに使われている白熱球は、1か月に1個ぐらいのペースで、入れ替わり立ち替わり切れやがるから、それに比べたら、超ご長寿様である。磨りガラスのカバーを外してみたら、お亡くなりになったのは、真空管みたいな形をした、1.5センチぐらいのちょっと変わった形のチビっこいハロゲン球だった。こんなに小さいのに4年以上頑張っていたとは! ご長寿様の秘めたるパワーに感動である。

さっそく新しい電球を買いに行った。そのへんのスーパーなんかにはなさそうなシロモノなので、仕事の帰りに東急ハンズに寄った。ご長寿様の亡骸を店員に見せると、

「ああ、ミニハロゲンの10ワットですね」

と言って、たくさん並ぶ電球の中から、同じ物を持ってきてくれた。なるほど、そういう名前の電球だったのか。私は確かに間違いないか確認しようと、ミニハロゲン球の入った小さな袋を裏返した。そして、そこに貼られていた値段のシールを見て、我が目を疑った。な、な、なんと、たった1個なのに¥800! 高〜〜〜い! ハロゲン球は高いとは聞いていたが、チビでもこんなにするのかあ。それじゃあ、4年くらいもってくれなきゃね。ご長寿様の有り難みも、あっさりと地に落ちた。

家に帰って、さっそく電球をはめ込む。このミニハロゲン球は、ねじ込むのではなく、2本の針みたいな足をはめ込むようにできている、何やら精密機械チックなヤツなのだ。はめ込んだとたんに、ハロゲン球独特の、金属的な光がキラキラリ〜ン。化粧室はまばゆい光で満たされた。気のせいか、もう片方の電球より、若々しく明るく見える。思えば、もう片方だって、お亡くなりになった電球と同じ年頃。切れるのも時間の問題だから、ついでにもう1個買っておけばよかった。値段にビビって1個しか買わなかった自分に腹が立つ。

それから1か月ほどたった頃だ。

やはりスイッチを入れたとたん、化粧室のハロゲン球がプチッと切れた。ほ〜ら、来た来た、また取り替えなきゃ。と、ライトに手を伸ばしたとき、私は大変なことに気付いた。切れたのは、もう片方のハロゲン球ではなく、この間取り替えたばかりのほうなのである。嘘だろっ!

接触不良だろうと思い、何度も外したり差し込んだりしてみたが、点かない。これはどうもおかしい。頭に来て、さっそく東急ハンズに持っていき、不良品ではないかと調べてもらった。

「いやあ、これ、切れてますね〜」

店員の答えはいたってシンプル。

「でも、これ1か月前に買ったものよ。ウチにある、もう1つの電球は、4年以上たっても、まだ点いてるのに」

店員は、ウ〜ンとしばらく考え込んでから、おもむろに口を開いた。

「あの〜、本当はこんなことを教えてはいけないんですけどね……」

何やら、声を少しひそめて言う謎めいた言葉に、私もあたりをうかがいつつ、店員に顔を近づけた。店員が耳元で囁く。

「実は、電球の寿命っていうのは、あってないようなモンなんです。一応だいたいの目安はありますが、物によって、かなり違うんですよ。長持ちするものもあれば、すぐ切れるものもある。それは、使ってみないとわからないんです」
「あ、そう……じゃあこれは、ハズレな電球だったってこと?」
「そういうことになります」
「で、ウチにあるもう1個は、ものすご〜くアタリだったってこと?」
「たぶん」

わかったような、わからないような説明だが、つまり私は、大当たりと大ハズレをつかんだ、珍しい消費者ということらしい。よく、人生は辛いことも楽しいことも50:50なのだと言うが、たかがハロゲン球で、その教訓を目の当たりにした私。結局、新しいミニハロゲン球をまた買って取り替え、今に至っている。取り替えた電球は、かれこれ1年半以上たっているが、元気そのもの。そして、大当たりのご長寿電球は、その後さらに1年ぐらい経ってから、やっと切れたという、長生き振りだった。これを教訓に、私はいつも多めに予備の電球を用意しておくことにしている。

私の家は、リビングや廊下、寝室などにダウンライトがたくさんあり、しかもリビングと寝室は、下がり天井の裏側に間接照明がセットされている。だから、天井の真ん中に、シーリングライトやシャンデリアなどをセットする器具があるものの、それを付けなくても充分に明るい。というか、シーリングライトなんかで部屋全体を明るくするより、間接照明だけのほうが、部屋に陰影ができて、ずっと雰囲気があるのだ。

以前住んでいたマンションは、最初からシーリングライトが付いていたので、部屋は明るくて当然、と思っていたが、自分でマンションを買い、明りを好きにデザインできる間接照明の魅力を知ってから、すっかり照明器具にハマってしまった。そしてわかったのが、日本には素敵なライトが少ないということ。いいなあと思うライトは、たいていイタリア製だったり、ドイツ、北欧のものだったりする。

日本は、太陽の光を大切に考える文化なので、自然の光を生かす住まいを良しとする。だから、照明というジャンルに、力を入れてこなかったのだろう。逆に、東欧、北欧などは、太陽自体があまりあたらないので、光に対する憧れが強いのだと思う。特に北欧は、夏でも太陽が低く、冬は白夜などという、一年中薄暗い地域なので、明かりで光を演出する文化が発達した。ドイツのフロスや、デンマークのルイスポールセンやヤコオブソンといった、世界的に人気のあるデザイナーものが多いのもうなづける。

そんなわけで、都内の照明器具屋やインテリアショップを歩き回って、気に入ったフロアスタンドや、小さなライトを探し回った。花をモチーフにした、イタリア製のフロアスタンドと、テーブルになったライトは、『グラン青山店』(今はなくなってしまいました)で、一目惚れして買ったものだ。

私が照明好きなのを知っている友達が、北海道の木工芸アーティストの知り合いに頼んで送ってもらったという床置きのランプや、エッフェル塔型のアロマランプなどは、プレゼントにもらったもの。エッフェル塔のアロマランプは、くれた友達が、

「前の緑さんのマンションは東京タワーが見えたけど、今度は見えないって聞いたんで、東京タワーのデザインというだけで、即決めちゃった!」

と、嬉しそうに言っていた。これがどこから見てもエッフェル塔であることをどのタイミングで言おうか、困ったのを覚えている。結果、言ったとたんにみんな大爆笑でしたが……。

今は、個性的なシャンデリアを物色中である。ソファに寝っ転がって天井を見つめていたら、この天井に、光で模様を描いて見たくなったのだ。お城にあるようなゴージャスな感じのものではなく、理想はちょいモダンで、アイアン・アートっぽい風合いのもの。電球の交換が面倒? 大丈夫です。天井まで届く脚立、ちゃんと持ってますから。