「かわいげがないくらい元気ね」と言われていた私が、生まれて初めて自らの肉体の衰えというものを実感したのは、3年前の夏だった。
階段を登るとき、妙に息切れがする。発車間際のバスにダッシュで飛び乗ったのはいいが、その後、ハアハア! と、それはもう恥ずかしいくらいの呼吸の乱れ方。う〜ん、これは間違いなく体力が落ちている証拠だ。週2〜3回のペースでスポーツクラブに通っていても、やはり年と共に、体力というものは着実に減退していくものなのだ。私は、その現実を真摯に受け止め、心肺機能向上のため、有酸素運動に励もうと心に決めた。
そんな矢先、追い打ちをかけるように届いた、定期健康診断の「要再検査」の通知。近頃の体力の衰えは、もしかして……そんなバカな! もちろん、すぐに行きつけの病院で検査を受けた。そして、そこで宣告されたのが、『貧血』だったのである。血液検査の結果、ヘモグロビンが、通常成人女性の場合11以上必要なのところ、私は6.5しかなかったのだ。圧倒的に少ない。若い医者は、検査結果を眺めながら、こう言い放った。
「貧血、というより大貧血ですね。今日、すぐにでも入院してもらって、造血剤を点滴したいくらいですよ。入院できますか?」
おいおい、貧血で入院かよ! そんな急に入院と言われても……。
「これだけ数値が低いと、もうフラフラでしょ?」
勝ち誇ったように医者が言う。しかし、私には立ちくらみとか、めまいといった自覚症状など全くなかった。それどころか、その数日前に、ロケで丸1日炎天下にいたけれど、な〜んともなかったわい! このやぶ医者が! ……と言いたいところを押さえて、
「いえ、特にそういうことはないです。まあ、階段でちょっと息切れがしたりして、体力が落ちてるな〜とは思ってますが……」
と、さらりと反撃すると、いきなり医者の目が険しくなった。
「息切れ!……それは、ヘモグロビンが足りなくて、酸素が体に回っていないからなんですよ。簡単に、体力とか年齢のせいにしてはいけませんね!」
そうか! そうだったのか! あの息切れの原因こそが、貧血だったのか! 目から鱗であった。な〜んだ、歳のせいじゃなかったんだ……と、喜んでいる場合ではない。さらに医者がたたみかける。
「爪が折れやすかったり、もろくなっていませんか?」
えっ? 何でわかるの? そう言えば、この半年前ぐらいから、人一倍硬くて丈夫だった手の爪が、押すと曲がるぐらい薄くなり、伸ばすとすぐに二枚爪になってしまうので困っていたのだ。爪がもろくなるのは、貧血の症状なのだそうだ。これもまた目から鱗である。たかが貧血、されど貧血。だから、目の前の医者は、入院しろとまで言っているのである。
「これだけ極端に数値が下がるということは、体内のどこかで出血している可能性が考えられます。とりあえず、全部調べたほうがいいでしょうね。だから、本当は、強制的に入院させたいところなんです。ただ、白血球の数値が正常なので、そこまで強く言えないんですけどね、ハハハ!」
脅かしたいんだか、安心させたいんだかわからない中途半端な言い方に腹が立ったが、少なくとも、入院だけは免れた。しかし、どこかでとんでもない病が進行してるのかもしれない、という不安は残った。こうなると、白血球が正常ということだけが、唯一の頼りだ。
それから、内視鏡検査やら何やらを徹底的に受けた。そして結果はというと、すべて問題なし。つまり、私はただの貧血女だったのだ。それも、世界一元気な貧血女。
「貧血になると、たいていは立ちくらみとかの症状があるもんなんですが、あなたの場合は体力があるので、少しずつ数値が下がっても、体がそれに慣れてしまったんでしょうね」
医者には、ここでも遠回しながら、元気であることを褒められる始末。そして、造血剤を飲んで治療することになったのである。この造血剤、いわゆる鉄剤ってやつで、実際に鉄の味がする。胃腸の弱い人は、気持ちが悪くなることもあるとかで、胃腸薬ももらったが、私はそんなもんなくても、なんともなかった。ただ、この薬を飲むと、なんと排泄物が真っ黒になるのだ。毎朝、トイレでビックリだった。自分の体から、こんなエイリアンのような物体が出てくるのを目の当たりのすると、かえって具合が悪くなりそうだった。
こんなもん、長く飲み続けたくはない。私は毎日せっせとほうれん草やレバーを食べることにした。そして、レバーが効いたか、造血剤の効果かわからないが、ヘモグロビンの数値が正常に戻ると、「あと3か月ぐらいは飲み続けてくださいね」という医者の言葉を無視して、現在に至っている。鉄分不足の恐ろしさがわかったので、食べ物には注意するようになった。おかげで、あれ以来、ヘモグロビンの数値はいたって正常である。
なお、薄くなった爪だが、これは元の状態に戻るのに、時間がかかった。徐々に硬くなってはいるが、ちょっと伸ばし始めると、どれか1本が二枚爪になり、仕方なく短くする。その繰り返しで、なかなか全部きれいに伸ばせない。スクエアにカットして、きれいにマニキュアを塗っていた頃に戻れるのはいつの日やら……。と諦めていたら、ある日救世主が現れた。以前、ネイルアートの本を作ったときに監修をお願いした、ネイルアーティストの井上由美さんが、不揃いな私の爪を見て、
「小野さん、これちょっと試してみて」
とくださったのが、『Nail Tek』という爪の補強剤だった。
これを、ベースコートとトップコートに使う。そして、1日おきに、上からまた塗り重ねていくのだ。それまで、補強剤入りのベース&トップコートは何度か試したが、あまり効果はなかった。まあ、これもどんなもんだか……と、半信半疑で試したら、これが効果てきめん!! ボトル半分使った頃には、私の爪は、すっかり元通りになっていた。
この「Nail Tek」、アメリカ製で、市販はされていないが、ネイルサロン用に輸入されているらしい。爪の弱さによって3段階に分かれていて、私は「nail program II」というのを使って、効果絶大だった。しかしその後、日本で否認可の成分が指摘されたらしく、この「nail program II」は、輸入中止になってしまったという話を耳にした。アメリカに行ったときには、探して是非買ってこようと思っている。
この貧血騒動以来、息切れすることもなく、相変わらず私は元気を売り物にして生きている。ただ、一つだけ学んだのは、体の変調を、「疲れてるから」とか、「最近寝不足だから」とか「歳だから」と、勝手に自己診断してはいけないと言うことである。
いつまでも若いということは、いつまでも若い頃と同じことをしているということではないのだ。年相応の自分を知り、自分をコントロールしてこそ、本当の意味で老いを克服できるのではないか。
そんなことに今頃気が付いているのだから、やっぱり私は、脳天気なくらい元気なしあわせものなのだろう。
『Nail Tek』 http://www.nailtek.com/
階段を登るとき、妙に息切れがする。発車間際のバスにダッシュで飛び乗ったのはいいが、その後、ハアハア! と、それはもう恥ずかしいくらいの呼吸の乱れ方。う〜ん、これは間違いなく体力が落ちている証拠だ。週2〜3回のペースでスポーツクラブに通っていても、やはり年と共に、体力というものは着実に減退していくものなのだ。私は、その現実を真摯に受け止め、心肺機能向上のため、有酸素運動に励もうと心に決めた。
そんな矢先、追い打ちをかけるように届いた、定期健康診断の「要再検査」の通知。近頃の体力の衰えは、もしかして……そんなバカな! もちろん、すぐに行きつけの病院で検査を受けた。そして、そこで宣告されたのが、『貧血』だったのである。血液検査の結果、ヘモグロビンが、通常成人女性の場合11以上必要なのところ、私は6.5しかなかったのだ。圧倒的に少ない。若い医者は、検査結果を眺めながら、こう言い放った。
「貧血、というより大貧血ですね。今日、すぐにでも入院してもらって、造血剤を点滴したいくらいですよ。入院できますか?」
おいおい、貧血で入院かよ! そんな急に入院と言われても……。
「これだけ数値が低いと、もうフラフラでしょ?」
勝ち誇ったように医者が言う。しかし、私には立ちくらみとか、めまいといった自覚症状など全くなかった。それどころか、その数日前に、ロケで丸1日炎天下にいたけれど、な〜んともなかったわい! このやぶ医者が! ……と言いたいところを押さえて、
「いえ、特にそういうことはないです。まあ、階段でちょっと息切れがしたりして、体力が落ちてるな〜とは思ってますが……」
と、さらりと反撃すると、いきなり医者の目が険しくなった。
「息切れ!……それは、ヘモグロビンが足りなくて、酸素が体に回っていないからなんですよ。簡単に、体力とか年齢のせいにしてはいけませんね!」
そうか! そうだったのか! あの息切れの原因こそが、貧血だったのか! 目から鱗であった。な〜んだ、歳のせいじゃなかったんだ……と、喜んでいる場合ではない。さらに医者がたたみかける。
「爪が折れやすかったり、もろくなっていませんか?」
えっ? 何でわかるの? そう言えば、この半年前ぐらいから、人一倍硬くて丈夫だった手の爪が、押すと曲がるぐらい薄くなり、伸ばすとすぐに二枚爪になってしまうので困っていたのだ。爪がもろくなるのは、貧血の症状なのだそうだ。これもまた目から鱗である。たかが貧血、されど貧血。だから、目の前の医者は、入院しろとまで言っているのである。
「これだけ極端に数値が下がるということは、体内のどこかで出血している可能性が考えられます。とりあえず、全部調べたほうがいいでしょうね。だから、本当は、強制的に入院させたいところなんです。ただ、白血球の数値が正常なので、そこまで強く言えないんですけどね、ハハハ!」
脅かしたいんだか、安心させたいんだかわからない中途半端な言い方に腹が立ったが、少なくとも、入院だけは免れた。しかし、どこかでとんでもない病が進行してるのかもしれない、という不安は残った。こうなると、白血球が正常ということだけが、唯一の頼りだ。
それから、内視鏡検査やら何やらを徹底的に受けた。そして結果はというと、すべて問題なし。つまり、私はただの貧血女だったのだ。それも、世界一元気な貧血女。
「貧血になると、たいていは立ちくらみとかの症状があるもんなんですが、あなたの場合は体力があるので、少しずつ数値が下がっても、体がそれに慣れてしまったんでしょうね」
医者には、ここでも遠回しながら、元気であることを褒められる始末。そして、造血剤を飲んで治療することになったのである。この造血剤、いわゆる鉄剤ってやつで、実際に鉄の味がする。胃腸の弱い人は、気持ちが悪くなることもあるとかで、胃腸薬ももらったが、私はそんなもんなくても、なんともなかった。ただ、この薬を飲むと、なんと排泄物が真っ黒になるのだ。毎朝、トイレでビックリだった。自分の体から、こんなエイリアンのような物体が出てくるのを目の当たりのすると、かえって具合が悪くなりそうだった。
こんなもん、長く飲み続けたくはない。私は毎日せっせとほうれん草やレバーを食べることにした。そして、レバーが効いたか、造血剤の効果かわからないが、ヘモグロビンの数値が正常に戻ると、「あと3か月ぐらいは飲み続けてくださいね」という医者の言葉を無視して、現在に至っている。鉄分不足の恐ろしさがわかったので、食べ物には注意するようになった。おかげで、あれ以来、ヘモグロビンの数値はいたって正常である。
なお、薄くなった爪だが、これは元の状態に戻るのに、時間がかかった。徐々に硬くなってはいるが、ちょっと伸ばし始めると、どれか1本が二枚爪になり、仕方なく短くする。その繰り返しで、なかなか全部きれいに伸ばせない。スクエアにカットして、きれいにマニキュアを塗っていた頃に戻れるのはいつの日やら……。と諦めていたら、ある日救世主が現れた。以前、ネイルアートの本を作ったときに監修をお願いした、ネイルアーティストの井上由美さんが、不揃いな私の爪を見て、
「小野さん、これちょっと試してみて」
とくださったのが、『Nail Tek』という爪の補強剤だった。
これを、ベースコートとトップコートに使う。そして、1日おきに、上からまた塗り重ねていくのだ。それまで、補強剤入りのベース&トップコートは何度か試したが、あまり効果はなかった。まあ、これもどんなもんだか……と、半信半疑で試したら、これが効果てきめん!! ボトル半分使った頃には、私の爪は、すっかり元通りになっていた。
この「Nail Tek」、アメリカ製で、市販はされていないが、ネイルサロン用に輸入されているらしい。爪の弱さによって3段階に分かれていて、私は「nail program II」というのを使って、効果絶大だった。しかしその後、日本で否認可の成分が指摘されたらしく、この「nail program II」は、輸入中止になってしまったという話を耳にした。アメリカに行ったときには、探して是非買ってこようと思っている。
この貧血騒動以来、息切れすることもなく、相変わらず私は元気を売り物にして生きている。ただ、一つだけ学んだのは、体の変調を、「疲れてるから」とか、「最近寝不足だから」とか「歳だから」と、勝手に自己診断してはいけないと言うことである。
いつまでも若いということは、いつまでも若い頃と同じことをしているということではないのだ。年相応の自分を知り、自分をコントロールしてこそ、本当の意味で老いを克服できるのではないか。
そんなことに今頃気が付いているのだから、やっぱり私は、脳天気なくらい元気なしあわせものなのだろう。
『Nail Tek』 http://www.nailtek.com/