もともと映画はかなり好きなほうだ。ただ、なかなか映画館に出向く時間がなく、最近はもっぱらビデオで鑑賞することが多い。ウチから歩いてすぐのところにあるTSUTAYA恵比寿ガーデンプレイス店が、私のビデオライブラリである。ビデオの在庫6万本と、都内随一。当然ロードショーとして公開された大作や有名な作品はすべて網羅されているが、棚をぐるりと見て回ると、聞いたこともない作品がこんなにも世の中にはあるのか!と、いつも驚く。
以前、この膨大な数の作品を、片っ端から見てやろう! と、暇つぶし的なチャレンジャー魂を燃やしたことがあった。まず、とりあえず何か1本借りる。ビデオには、たいてい本編が始まる前に、何作か同時期の作品の宣伝映像が流れる。その中で気になったものを、返却に行ったときまた借りる……という芋づる作戦で、ジャンルも何もアットランダムに見まくった。
そんなことをして、なんとなくわかったことがある。。
まずは、やはり無名の作品というのは、選別の篩にかけられ、落とされたものであることは間違いなく、たいていは安作り、手抜き、しょうもない駄作だということだ。役者が三流だったり、台本がなってなかったり。中には、ひどすぎて腹が立ってくるものもある。
しかしその一方で、間違いなくB級、二流でありながら、妙に心に残る作品が、たまにではあるが、確かにあるのだ。こういう作品に出会うと、とても得した気分になる。どこかに自分の感性と響き合う何かが潜んでいるのが、無性に嬉しいのだ。そして、自分だけの名作を見つけ出した優越感から、そういう作品は、なぜだか人に薦めたくなる。
そんな私だけの名作の1本に、『ビースト』というスペイン映画があった。同タイトルで、イカのばけものが出てくる海洋モンスター映画があったが、それではない。これは悪魔退治のオカルトものである。スペインでナントカ賞をとったという説明書きにひかれて見たのだが、これがやたらと面白かった。
黙示録を研究していた神父が、その中に悪魔が誕生するというメッセージが隠されていることに気づいてしまう。なんとかして食い止めねばと使命感に燃えた神父は、急いでマドリッドへ旅立つ。そして、悪魔に近づくためには、そうだ、悪事を働けばいいのだ! と、空港でいきなり他人のスーツケースを盗んだり、あちこちで悪いことをする……という発想からして既におかしい。神父の格好のまま、真面目に悪事を働く姿が、実に笑えるのだ。それだけではない。悪魔のメッセージは、ヘビメタの中にあると信じて、レコード店のヘビメタ野郎の店員も巻き込み、その結果、アイアン・メイデンのレコードを逆回転すると、悪魔を呼び出す呪文になることを発見。
いったい、どういう発想なんだ! そこにインチキオカルト研究家も加わり、狂気の世界が繰り広げられるわけだが、とにかく当の神父が、真剣かつ真面目なので、ドタバタにならずにすんでいるのだ。最後にはしっかり悪魔も登場し、立派なオカルト映画としての面目も保たれていた。笑わせたいのか、怖がらせたいのか、よくわからないけど、きっちり作ってあるところが偉い! へんてこりんな名作であった。
この話を、やはりビデオ好きのA女史にしたところ、なんと彼女も、最近、へんてこりんなスペイン映画を見たばかりなのだと言う。タイトルは『世界でいちばん醜い女』。確かにタイトルからして既にだいぶ怪しい。
「とにかく、変な映画なの、是非見てね、ウフフ」
と、よくわからない笑みを浮かべて彼女が薦めてくれなかったら、恐らく一生見る気にはならなかっただろう。で、これがまた、みごとに私のツボにはまる、へんてこりんでおかしい映画だったのだ。
スペインのある町で、ものすご〜く醜い女の子が生まれる。母親はあまりのショックで死んでしまい、その醜さ故、子供の頃からいじめられっぱなし。「人間の美しさは外見ではなく、心にあるのだよ」なんて、優しい言葉で彼女をなぐさめてくれる唯一の理解者は、盲目の修道女……なんて、すっごくブラック! で、その少女が大人になり、DNAの臨床実験を受けて、絶世の美女になり、歪んだ復讐心から、ミス・スペインを片っ端から殺害していく。こんなストーリーなのだが、少女時代の醜い顔は、いっさい画面に見せない。
設定は近未来でSFっぽさを出したかったようなのだが、音声認識テレビが出てくる割には、警察も病院も、やたらレトロで古めかしい。美しい殺人鬼を描いたサイコ・サスペンスかと思えば、事件を追う中年刑事が妙にどろくさくて、刑事コロンボか? でも、その子分の刑事が間抜けなアホたれで、このへんのノリは、クルーゾーか、はたまた古畑任三郎かという感じでもある。そして、見せ場は終盤の、ミス・スペインのコンテストシーンなのだが、これがどう見ても、ラスベガスの色っぽいショーみたいなのだ。
ラストは、薬が切れて、主人公が醜い素顔に戻ってしまうのだが、ここで初めてスクリーンにどアップで映し出される姿は、醜いというより、奇形? エレファントマンそのものなのである。特殊メイクにこんなに頑張らなくてもいいのに。そして、やけになって会場を爆破しようとする彼女に、刑事が、自分も同じ痛みをもつ人間なのだという証に、かつらと入れ歯と義眼を取ってカミングアウト。涙ぐむ女……なんなんだ〜〜これは! そんなことで凍った心が解けるのかよ! 最後は、囚人となった彼女と面会に来た刑事が、手を握り合って、見つめ合うという、無理矢理のハッピーエンドでまとめてあった。ハッキリ言って、SFとサイコサスペンスと犯罪アクションとコメディとモンスターものを足して全然割ってない……そんな映画であった。A女史の言うとおり、本当に変な映画である。
『ビースト』といい、『世界でいちばん醜い女』といい、笑いながら見たらいいのか、シリアスに見るべきなのか、ハラハラドキドキするべきなのか、見る側がいかなるスタンスをとって臨めばいいのかがわからない。この立ち位置不明のノンジャンル感がスペイン映画の特徴なのだろうか? スペイン映画といえば、ず〜っと昔に見た『汚れなき悪戯』のマルセリーノ坊やの純粋無垢な心……と思っていたが、どうやらそれは大きな間違いだったらしい。
そして、だめ押しの決定打が『13〜みんなのしあわせ〜』という作品だった。不動産会社の営業ウーマンのおばさんが、ひょんなことからアパートの部屋で孤独死している老人を発見。その部屋から、老人が隠してあった大金を見つけだしてしまう。しかし、この金は20年前にtotoで当てた金で、それを知った同じアパートの住人13人が、いつかその金を奪って山分けしようと、老人が逃げ出さないようにずっと監視し続けていたのだ。そのため老人は一歩も外に出れず、衰弱死。この時点で、話はかなり恐い。
ところが、よそ者の不動産屋おばさんがその金を横取りしてしまったから大変。13人の住人は、おばさんがアパートから出られないよう、いろいろ手を尽くす。必死に金を持ち出して逃げようとする不動産屋のおばさんと、アパートの強欲な住人との激しい攻防戦は、だんだんエスカレートし、殴る蹴るから、血みどろの世界へ。血は飛び散るは、エレベーターに挟まれて、胴体真っ二つになっちゃう奴がいたり、おばばがマトリックスのように、ビルからビルへジャンプしたり、地べたに叩きつけられてぺしゃんこになったりと、いやはやすさまじい。
それでもって、ラストは不細工なダースベーダーマニアの若造とおばさんが、まんまと大金をせしめて、ラブラブなハッピーエンドときた。こんな内容が、手間ひまかけて全体的にはコメディとして描かれているのだ。サスペンス、恐怖、アクション&スプラッターの混ざったコメディなのである。
後で調べたら、『13〜みんなのしあわせ〜』の監督、アレックス・デ・ラ・イグレシアは、なんと『ビースト』の監督でもあった。この監督、『13〜みんなのしあわせ〜』をコメディにしたことについて、「コメディを作るという抵抗しがたい気持ちには勝てなかった。笑いはドラマに深みを与える重要な要素だと思う」なんてコメントを、マジにしているから恐ろしい。もっと恐ろしいのは、この作品、スペインでは150万人動員するという大ヒットになり、主演の不動産屋おばさんを演じたカルメン・マウラは、スペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞主演女優賞を取ったそうなのだ。悲しみだろうが、憎しみだろうが、強欲、信仰、勇気さえも、最後には笑い飛ばしてハッピーエンド! これぞラテンのDNA、スペイン魂か。
あの、巻き舌で早口のスペイン語の響きと、終わりよければすべてよしの脳天気さに、私が長年育んできた大和撫子魂は、すっかり翻弄されっぱなしの今日この頃である。
以前、この膨大な数の作品を、片っ端から見てやろう! と、暇つぶし的なチャレンジャー魂を燃やしたことがあった。まず、とりあえず何か1本借りる。ビデオには、たいてい本編が始まる前に、何作か同時期の作品の宣伝映像が流れる。その中で気になったものを、返却に行ったときまた借りる……という芋づる作戦で、ジャンルも何もアットランダムに見まくった。
そんなことをして、なんとなくわかったことがある。。
まずは、やはり無名の作品というのは、選別の篩にかけられ、落とされたものであることは間違いなく、たいていは安作り、手抜き、しょうもない駄作だということだ。役者が三流だったり、台本がなってなかったり。中には、ひどすぎて腹が立ってくるものもある。
しかしその一方で、間違いなくB級、二流でありながら、妙に心に残る作品が、たまにではあるが、確かにあるのだ。こういう作品に出会うと、とても得した気分になる。どこかに自分の感性と響き合う何かが潜んでいるのが、無性に嬉しいのだ。そして、自分だけの名作を見つけ出した優越感から、そういう作品は、なぜだか人に薦めたくなる。
そんな私だけの名作の1本に、『ビースト』というスペイン映画があった。同タイトルで、イカのばけものが出てくる海洋モンスター映画があったが、それではない。これは悪魔退治のオカルトものである。スペインでナントカ賞をとったという説明書きにひかれて見たのだが、これがやたらと面白かった。
黙示録を研究していた神父が、その中に悪魔が誕生するというメッセージが隠されていることに気づいてしまう。なんとかして食い止めねばと使命感に燃えた神父は、急いでマドリッドへ旅立つ。そして、悪魔に近づくためには、そうだ、悪事を働けばいいのだ! と、空港でいきなり他人のスーツケースを盗んだり、あちこちで悪いことをする……という発想からして既におかしい。神父の格好のまま、真面目に悪事を働く姿が、実に笑えるのだ。それだけではない。悪魔のメッセージは、ヘビメタの中にあると信じて、レコード店のヘビメタ野郎の店員も巻き込み、その結果、アイアン・メイデンのレコードを逆回転すると、悪魔を呼び出す呪文になることを発見。
いったい、どういう発想なんだ! そこにインチキオカルト研究家も加わり、狂気の世界が繰り広げられるわけだが、とにかく当の神父が、真剣かつ真面目なので、ドタバタにならずにすんでいるのだ。最後にはしっかり悪魔も登場し、立派なオカルト映画としての面目も保たれていた。笑わせたいのか、怖がらせたいのか、よくわからないけど、きっちり作ってあるところが偉い! へんてこりんな名作であった。
この話を、やはりビデオ好きのA女史にしたところ、なんと彼女も、最近、へんてこりんなスペイン映画を見たばかりなのだと言う。タイトルは『世界でいちばん醜い女』。確かにタイトルからして既にだいぶ怪しい。
「とにかく、変な映画なの、是非見てね、ウフフ」
と、よくわからない笑みを浮かべて彼女が薦めてくれなかったら、恐らく一生見る気にはならなかっただろう。で、これがまた、みごとに私のツボにはまる、へんてこりんでおかしい映画だったのだ。
スペインのある町で、ものすご〜く醜い女の子が生まれる。母親はあまりのショックで死んでしまい、その醜さ故、子供の頃からいじめられっぱなし。「人間の美しさは外見ではなく、心にあるのだよ」なんて、優しい言葉で彼女をなぐさめてくれる唯一の理解者は、盲目の修道女……なんて、すっごくブラック! で、その少女が大人になり、DNAの臨床実験を受けて、絶世の美女になり、歪んだ復讐心から、ミス・スペインを片っ端から殺害していく。こんなストーリーなのだが、少女時代の醜い顔は、いっさい画面に見せない。
設定は近未来でSFっぽさを出したかったようなのだが、音声認識テレビが出てくる割には、警察も病院も、やたらレトロで古めかしい。美しい殺人鬼を描いたサイコ・サスペンスかと思えば、事件を追う中年刑事が妙にどろくさくて、刑事コロンボか? でも、その子分の刑事が間抜けなアホたれで、このへんのノリは、クルーゾーか、はたまた古畑任三郎かという感じでもある。そして、見せ場は終盤の、ミス・スペインのコンテストシーンなのだが、これがどう見ても、ラスベガスの色っぽいショーみたいなのだ。
ラストは、薬が切れて、主人公が醜い素顔に戻ってしまうのだが、ここで初めてスクリーンにどアップで映し出される姿は、醜いというより、奇形? エレファントマンそのものなのである。特殊メイクにこんなに頑張らなくてもいいのに。そして、やけになって会場を爆破しようとする彼女に、刑事が、自分も同じ痛みをもつ人間なのだという証に、かつらと入れ歯と義眼を取ってカミングアウト。涙ぐむ女……なんなんだ〜〜これは! そんなことで凍った心が解けるのかよ! 最後は、囚人となった彼女と面会に来た刑事が、手を握り合って、見つめ合うという、無理矢理のハッピーエンドでまとめてあった。ハッキリ言って、SFとサイコサスペンスと犯罪アクションとコメディとモンスターものを足して全然割ってない……そんな映画であった。A女史の言うとおり、本当に変な映画である。
『ビースト』といい、『世界でいちばん醜い女』といい、笑いながら見たらいいのか、シリアスに見るべきなのか、ハラハラドキドキするべきなのか、見る側がいかなるスタンスをとって臨めばいいのかがわからない。この立ち位置不明のノンジャンル感がスペイン映画の特徴なのだろうか? スペイン映画といえば、ず〜っと昔に見た『汚れなき悪戯』のマルセリーノ坊やの純粋無垢な心……と思っていたが、どうやらそれは大きな間違いだったらしい。
そして、だめ押しの決定打が『13〜みんなのしあわせ〜』という作品だった。不動産会社の営業ウーマンのおばさんが、ひょんなことからアパートの部屋で孤独死している老人を発見。その部屋から、老人が隠してあった大金を見つけだしてしまう。しかし、この金は20年前にtotoで当てた金で、それを知った同じアパートの住人13人が、いつかその金を奪って山分けしようと、老人が逃げ出さないようにずっと監視し続けていたのだ。そのため老人は一歩も外に出れず、衰弱死。この時点で、話はかなり恐い。
ところが、よそ者の不動産屋おばさんがその金を横取りしてしまったから大変。13人の住人は、おばさんがアパートから出られないよう、いろいろ手を尽くす。必死に金を持ち出して逃げようとする不動産屋のおばさんと、アパートの強欲な住人との激しい攻防戦は、だんだんエスカレートし、殴る蹴るから、血みどろの世界へ。血は飛び散るは、エレベーターに挟まれて、胴体真っ二つになっちゃう奴がいたり、おばばがマトリックスのように、ビルからビルへジャンプしたり、地べたに叩きつけられてぺしゃんこになったりと、いやはやすさまじい。
それでもって、ラストは不細工なダースベーダーマニアの若造とおばさんが、まんまと大金をせしめて、ラブラブなハッピーエンドときた。こんな内容が、手間ひまかけて全体的にはコメディとして描かれているのだ。サスペンス、恐怖、アクション&スプラッターの混ざったコメディなのである。
後で調べたら、『13〜みんなのしあわせ〜』の監督、アレックス・デ・ラ・イグレシアは、なんと『ビースト』の監督でもあった。この監督、『13〜みんなのしあわせ〜』をコメディにしたことについて、「コメディを作るという抵抗しがたい気持ちには勝てなかった。笑いはドラマに深みを与える重要な要素だと思う」なんてコメントを、マジにしているから恐ろしい。もっと恐ろしいのは、この作品、スペインでは150万人動員するという大ヒットになり、主演の不動産屋おばさんを演じたカルメン・マウラは、スペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞主演女優賞を取ったそうなのだ。悲しみだろうが、憎しみだろうが、強欲、信仰、勇気さえも、最後には笑い飛ばしてハッピーエンド! これぞラテンのDNA、スペイン魂か。
あの、巻き舌で早口のスペイン語の響きと、終わりよければすべてよしの脳天気さに、私が長年育んできた大和撫子魂は、すっかり翻弄されっぱなしの今日この頃である。