よりどりみどり〜Life Style Selection〜


憧れのロイヤルコペンハーゲン

昔から食器に目がない。
洋食器だろうが、和食器だろうが、ちょっと素敵なものを見つけると、すぐに欲しくなってしまう。しかも、皿1枚、茶碗1個と吟味して揃えるならともかく、セットで買ってしまうクセがあるから始末が悪い。

「たくさん持ってるんだから、やめておきなさい」
と、天使の声が囁く一方で、
「でも、友達を呼んだときにセットであるほうが便利じゃない!」
と、悪魔くんが叫び、いつも悪魔くんが勝利してしまう。だから、一人暮らしだというのに、ウチの食器棚には、家族5人が充分生活できるぐらいの量の食器が並んでいるのだ。

画像1その中でも、いちばん思い切りよくドカッと買い揃えたのが、ロイヤルコペンハーゲンのカップ&ソーサーとケーキ皿のセットだ。コーヒーカップ&ソーサー6客、ティーカップ&ソーサー6客、ケーキ皿6枚、そしてティーポットとリーフ型のお皿1枚と、おつまみ皿1枚、計32ピース。かれこれ10年以上も前に買ったものである。

当時、麻布十番に住んでいた私は、通っていた広尾のレディス・ゴルフ・スクールで、同じマンションに住むK美と友達になった。私が9階、K美が10階。階段で簡単に行き来ができ、電話の子機も通じる距離だったので、あっと言う間に大の仲良しになった。

彼女は、JALの元国際線のスチュワーデス。それまでスチュワーデスに知り合いのいなかった私には、彼女の存在がとっても新鮮だった。とにかく、世界中のお買い物情報に詳しい。どこで買えば何が安い、誰々が今度フライトでどこへ行くから、あれを買ってきてもらう……などなど、引退後も後輩を使って、現役の如くお得なお買い物を楽しんでいた。

私が仕事でパリに行くときなどは、わざわざ、JAL職員割引で買える化粧品屋を教えてくれ、「どうせ日本人なんかみんな同じ顔に見えるんだからわかんないわよ!」と、写真入りの彼女のIDカードまで貸してくれた。私と彼女はどう見ても似てないし、だいたい彼女はもう退社してるというのに、それがパリで見事に通用してしまったのにはビックリだった。スチュワーデス強し!

そんな彼女の家の食器棚に、前から私が憧れていたロイヤルコペンハーゲンのいちばん伝統的な柄のシリーズ、ブルーフルーテッドが並んでいたのだ。二枚貝のような細かい溝のある生地に、フリーハンドで描かれた唐草模様。1枚の皿を仕上げるのに、なんと筆を1197回動かさなければならないという、ペインターの魂がこもった逸品だ。真っ白い生地に、ブルーが映えて、ゴージャスでありながらシック。和にも洋にも合うので、カップをセットで買うならこれ、と以前から決めていたものだ。

「コペンハーゲンの空港にJAL職員が割り引きで買える店があるの。そこで買うと、船便の送料入れても日本の3分の1よ。みどりも欲しい?」

この、「みどりも欲しい?」に、私は全く弱かった。「うん、私も!」と、バッグやら何やら、日本より安というだけで、いったいいくつ買っただろう。でも今回は、なんたって破格の3分の1よ!! なんて素敵なんでしょう! 欲しい! 欲しい! 買う! 買う! 物欲は止まるところを知らない。

さっそくカタログを借りて、いろいろ悩んだ挙げ句に決めたのが、この32ピースだった。
「ちょうどコペン(なんて略して言うところがスチュワーデス!)に飛ぶ後輩がいるから、その子に頼んであげる。でも、航空便だと送料が高いから船便。4〜5か月かかるわよ。それでもいい?」

いい! いい! どうせすぐ必要なわけじゃないから。だったら、買うなって話だが、物欲にそんな理屈は通じない。だって、欲しいんだも〜ん!

というわけで、総額¥30数万のものを、送料込み¥10万ちょっとで手に入れた。春先に頼んで、日本に届いたのが秋口。ワクワクしながら待つ5か月っていうのも、楽しいもんである。おまけに待っている間に、K美がこんな話をするのだ。

「この間頼んだ子、届いたらカップが1客割れてたのよ。で、手紙を書いて送ったら、全部割れてたと勘違いしたらしくて、カップが6客セットまた送られてきたの。全部で12セットになっちゃたの。そういうこと、よくあるのよね」

なになに、そんなラッキーな間違いもあるわけ? んじゃ、1、2個割れてくれてもいいなあ……と、どんどん不届きな妄想まで拡がっていく。
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そして、願いがかなったのか、届いた私の32ピースの内、コーヒーカップが1客ひび割れていたのだ。がっかりどころか、大喜びですぐに言われたとおりに手紙を送る。つたない英語のほうが勘違いしてくれるかも……なんて計算しなくても、もともと私の英語なんか、とってもつたない。ウフフ、これであと6客手に入っちゃうかも……。

しかし、1か月して届いたのは、割れたものと同じカップ1個だけだった。世の中、そんなに甘くはない。正直に生きよう!

このロイヤルコペンハーゲンのセットは、何かと出番が多く、本当に買ってよかったなと思う。そのきっかけが、実は「安く買えるから」だったのがちょっと小市民的だが、まあいい。とっても大事に使っているので、いまだに一つも割っていない。ポットの注ぎ口をシンクにぶつけて折ってしまったが。アロンアルファで完璧に修復できた。また、当時、川崎汽船でOLをやっていた妹が、「これ、お姉さんのと同じじゃない?」と、同じブルーフルーテッドの栓抜きを持ってきたので、現在アイテム数は33個。

ちなみにこの栓抜き、たまたま妹が会社のデスクの整理をしていたら、引き出しの奥から出てきたという拾いモノだとか。さすが海運会社、転がってるものが違う。カタログを見て、この栓抜きが1万円以上もするとわかったときは、姉妹で手を取り合って大喜びした。こんな妹も、今は中学校の教師になり、拾ったものは交番に届けろなどと、すました顔で教壇に立っている。

K美はその後、洋食器の絵付け教室に通い始めた。最初は軽い暇つぶしの趣味だったのに、何やら深みにはまってしまい、今では立派な絵付けの先生になっている。家の中は、無地のカップや皿やらが、段ボール何個分も転がっていて、大変な騒ぎだ。ウチの食器の量なんて目じゃない。

『ROYAL COPENHAGEN』 http://www.royalcopenhagen.co.jp/