Vol.50 ある“知られざる”舞踏会〜その10 舞踏会でのあるシーン

王宮舞踏会にて、いつもウィーンで日本からの舞踏会参加者の方たちを支えてくれる、マティアス先生と一緒に。
王宮舞踏会にて、いつもウィーンで日本からの舞踏会参加者の方たちを支えてくれる、マティアス先生と一緒に。
通常ウィーンの舞踏会に参加する時は、まず参加費を払いますが、それ以外のテーブル席、飲み物やお食事はすべて、別料金となっています。けれども今回、私が参加したこの特別な舞踏会では、会場となっている大使館の敷地内に臨時の部屋が作られ、珍しく参加費にお食事が含まれていました。私を連れていってくれた友人の“伯爵”はそこでも、「ああ! 久しぶりですね」「元気でしたか?」と、多くの知り合いに出会っては、挨拶を交わしているのでした。

午後10時に始まった舞踏会は、気がつくとすぐに深夜となっていました。舞踏会では、それぞれに趣向を凝らした、深夜のだしものが企画されているのが恒例で、それを見るのも、舞踏会での楽しみのひとつなのです。今宵は、プロの人たちによる東欧民族風ダンスが披露されました。

その後は、再びダンスタイムです。私はウィーン滞在中、知り合いからアパートを借りていましたが、そのアパートの持ち主も、女性と参加しているのを見かけました。金髪で、グリーンのワンショルダードレスをまとった、とても美しい彼女は、ベルギーの貴族だということでした。

この日、私は友人の“伯爵”と、彼のガールフレンドであるエリーさん(仮名)の3人で参加していました。途中、友人は気をつかって、私とも何曲か一緒にダンスを踊ってくれましたが、ヨーロッパの社交の場では、やはりカップルが基本なのです。ということで、お邪魔虫な私は時折、彼らとは離れ、踊ったり、おしゃべりを楽しむ人々を一人で見ていました。

燕尾服の男性たち、素敵なドレスの女性たち……。踊ることが目的ではなく、おしゃべりや、乾杯や、それと同じ感覚で、フロアーでステップを踏んで踊られる、上品なウィンナーワルツ……。そんなシーンを、これまでにも色々な舞踏会で目にしてきました。今夜は特に、大きな舞踏会ではないけれど、招待状が送られてきた人しか参加できない、しかもそれを受け取るのは多くが貴族の人々という、特別な場。そこに、一員として参加できている実感と幸せをかみしめながら、ただ眺めているだけでも楽しんでいました。

……そこへ、「踊っていただけませんか」と、男性から声をかけられたのです。