Vol.48 ある“知られざる”舞踏会〜その8“家”を大切にするということとは

王宮での仮面舞踏会です。ここはメインホールではありませんが、とても美しいですね。
友人の“伯爵”に連れられて参加した舞踏会。オープニングセレモニーが終われば自由に、踊って、食べて、飲んで、おしゃべりをして、という時間です。“伯爵”とその彼女と一緒に会場内をぶらぶら歩いていると、彼はこの舞踏会に参加するのは何年かぶりと言っていたのにも関わらず、とても知り合いが多いのです。例えば「彼は伯爵−それも位の高い伯爵……のXX」、「彼女は○○国侯爵家のプリンセス」、「そして今挨拶をしたのは……」という具合です。

知り合いがたくさんいるのですね! と“伯爵”に驚いて言うと、ほとんどはこの舞踏会で知り合った人たちなのだとか。さらに、「中にはこの舞踏会でよく会うけれど、実は名前も、タイトル(貴族の称号)も知らない人もいます。でもマキコにも説明したように、この舞踏会には招待状を受け取った人たちしかこないのです。つまり、ここに集まっている人たちは多かれ少なかれ、似たような“レベル”(主催の協会に関係する人たちや、貴族、その知り合い)ということがわかっているので、タイトルや名前を知らなくても、同じソサエティ(社交界)に属しているという安心感があるのですよ」と、話してくれました。……私も束の間、彼らのソサエティに参加させてもらったと思ってもよいのでしょうか。

そんな中で“伯爵”の親戚という2人にも出会いました。やはりタイトルは“伯爵”で、1人は今、オーストリアには住んでいないそうです。「親戚といっても、100年前に自分達とは違う流れになったのだけれど、元を辿れば同じ祖先からでている親戚ということ」なのだとか。その2人は右手薬指におそろいのブルーの指輪をしています。家の紋章が彫られているのだと教えてくれました。オーストリアでは右手の薬指は結婚指輪なのですが、この指輪(あえて日本語に訳せば印章指輪?)は、未婚でもつけるそうです。特に舞踏会などの社交の場や、一族の集まりなどにはこの指輪を身に着けることが家系の一員としての証で、皆、誇りを持っているのだといいます。日本で例えると、結婚式やお葬式で家紋入りの着物や袴を着るのと同じことですね。昨今、“家”や“祖先”をあまり気にしなくなってきているのかもしれませんが、貴族に限らず“家”を受け継いでいくことは、自分の今がある“ルーツ”に感謝することでもあり、歴史ある国でこのように大切にされるのは素敵なことだと、私は思うのです。ちなみに……友人の“伯爵”のその大切な指輪は盗難にあってしまったそうです……。