Vol.35 歴史息づくお城のプリンセス その6〜プリンセスとのお話3

プリンセスとご一緒のランチ。ルクセンブルグ宮廷式のテーブルセッティングになっていたため “どのナイフとフォークから使うのかしら……”と、少々どぎまぎしてしまいました。
ドナウ川のほとりにたたずむお城に、ハプスブルグ家末裔のプリンセスをお訪ねしております。“こんなことをお聞きしてよろしいかわかりませんが”と、前置きをしてからの私の次の質問は、「帝国がなくなってしまったことを、残念に思っていらっしゃいますか?」でした。

「私はアニータ・ホーヘンベルグ個人として、そして“プリンセス”として、帝国の崩壊はヨーロッパ全体にとても大きな影響を及ぼしたと思っています。私たちの国が“立憲君主国”でなくなったのを残念に思う点は、君主がいれば“より高い質のモラル”が存在するということです。政治家たちは賄賂も贈れば嘘もつきます、彼らは自分の任期4年の間が何より大切だからです。けれども、君主は収賄することはできません。また君主は嘘をつけません。もし嘘をつけば、それは自分の国民に帰結してしまうからです。君主制にも欠点はありますが、この、政治におけるモラルの欠如、この点だけが、私たちが君主を持っていないことの残念な点だと思います。これはとても重要なことです」

“政治家の世界では、同じ顔ぶれが当選しては、嘘はつく、お金に執着する……”のところで、私が「どこの国でも一緒ですね」と言うと、「その通り!」と、一緒にお話を聞いていたプリンセスのご子息も合いづちを打ってくださいました。

「でも、君主はそんなことはできない。なぜなら君主は選挙で……つまりお金や、嘘で選ばれるのではないからです。政治家は何かミスをしてもいつも他の人のせいにできるけれど、君主はできません。君主の語ることや行動は、国民に対して責任があり、その嘘やミスは彼自身にその帰結を招き、また国民にも帰ってくるからです。人間は誰もミスを犯すものだけれど、君主は誤ったことをしないよう常に努めているものです」

「かつて、国民は国や帝国に誇りを持てました、でも現代ではどうでしょう。多分……音楽や食べ物くらいには誇りを持てるのでしょうけれど……」

その後も「今のオーストリアの政治家は……」と、プリンセスのお話は続きました。この部分は差し障りがあるといけませんので割愛させていただきますが、オーストリア人としての誇りを持ち続けて生きていきたい、と語ってくださった一方で、政治の現状にプリンセスが満足されていないのは残念なことでした。それにしても、一国の頂点に立つべき者としての責任感や意識、政治に対する価値観などが、日本の若者とはまったく違うと、私は感心しながらおふたりのお話を聞いていました。“帝国”はなくなっても、“帝王学”のような精神は、この国では世代を超えて受け継がれていることを感じたのでした。