Vol.07 「初めての王宮舞踏会」〜ウィーンのカフェの歴史と文化〜

王宮(ホーフブルグ)を、英雄広場から眺めたところ。舞踏会への入口は、ちょうど左側の角にあります。
王宮で開催される「カフェオーナーの舞踏会」は、カフェハウスの普及と伝統の存続を主な目的としているカフェハウスオーナー連盟の主催で、1948年から開かれています。

過去にウィーンがトルコの襲撃を受けた際、トルコがコーヒー豆を“置き土産”して以来、ウィーンは独自の“カフェ文化”を育んできました。老舗カフェはかつて、ウィーンを代表する文豪・芸術家たちが芸術や文芸を輩出する場となっていました。そこで働くウエイターは単なるアルバイトではなく、きちんと蝶ネクタイをして、何十年も常連客とのいい関係を築いている、誇り高き職業と言われます。

そんなカフェは、地元の人々にとって単に、時間潰しや人との待ち合わせ、お茶をするためだけの場ではありません。ゆっくりと新聞を広げて(多くの“ちゃんとした”カフェには、さまざまな種類の新聞が木の枠を付けられて置いてあり、誰でも自由に読むことができます)のんびり自分だけの時間を楽しんだり、友人と長々と話をしたり、憩いの場としてまた人生の拠り所としての役割を担ってきたといわれています。ちなみに数年前からウィーンに出店しているスターバックスが、「カフェ文化のウィーンになぜアメリカのコーヒーチェーン店?」と、地元ではあまり快く受け入れられていないのは、言うまでもありません。

ウィーンのカフェの“コーヒー”といってもさまざまなものがあります。私がいちばん好きなのは「メランジェ」。コーヒーと泡立てた暖かいミルクが同量入っているもので、そのマイルドさはウィーンにぴったりの、上品な味です。飲めば口の周りに泡のおまけつき。冬の舞踏会シーズン中、寒いウィーンで時折、一人でお気に入りのカフェに入り、甘〜いケーキと共にまろやか〜なメランジェを飲むのが、私にとってのささやかな至福の時となっています。

私のウィーン滞在で気付いたことのひとつは、ウィーンのカフェには舞踏会のように「格」が存在する、ということです。カフェの歴史・伝統・評判はもちろん、店内の雰囲気、お客様の年齢層・服装・かもし出している雰囲気などがまったく違います。「舞踏会で朝まで踊ったあとはカフェで朝食を」……といった、伝統を持つカフェまであります。また面白いのは、待ち合わせの時にどのカフェを指定してくるかで、その人の好みや価値観などまでいろいろなことがわかるのです。例えば、ウィーンでも最も格式が高い、天皇陛下も泊られたホテル内のカフェで会ったのは貴族の男性でしたし、いつも自分のお気に入りの小さなカフェで会う友人、あえてフランス風のおしゃれなカフェという人、などなど。カフェの好みが合うかどうかでも、その人との相性がわかるのかも……しれませんね。