Vol.13 夢のような時が過ぎて〜デビュタントの翌日(番外編)

舞踏会の余韻もまだ冷めやらぬ、翌朝。

ホールへと降りてみると、「非現実」の時間が昨夜、確かにそこに存在していたことを思わせるものはもはやかけらもなく、すでに豪華なホテルのロビーという、「普通の非日常」へと戻っていました。

格子柄の大理石のフロアー、窓、宝石の飾られた棚すべて、同じはずなのに、昨夜はまったく違って見える空間が出現していた、そんな不思議な感覚の中で、チェックアウト前のわずかな時間にそれらを写真に収めていました。

と、そこへ毛糸の帽子をかぶった普通の男性がふらっと現れ、フロントでチェックアウトをしているようです。その顔に見覚えが……そう、フィル・コリンズでした。「あっ」という表情で恐らく見ていた私にむこうも気づき、すれ違いざまに「あれ?」という反応、次に私は“昨夜は楽しまれましたかと話しかけようか”、と思っている数秒の間に結局、その人はホテルを去っていきました。

私の同行者にも「あなたの顔に見覚えがあるっていう感じだったわネ」と言われるや、それからしばらくの間、「話しかければよかった……」と言い続けていた私はやはり、ミーハーマキコですね……。

それにしても、娘に「ただの、父です」と言われた世界的ミュージシャンは、「普通の人」として去る時も、やっぱり素敵な方なのでした。

「花の都巴里(パリ)・デビュタント物語」は今回で終了いたします。
次回は、「地中海の宝石箱・モナコ王室舞踏会の夜」をお送りいたします。