先月、13年ぶりに来日したマドンナのコンサートを見に、東京ドームへ行ってきた。私の中の永遠のミューズであるマドンナは、40代後半という年齢にもかかわらず、いろいろな意味で最高のステージを見せてくれた。
今から19年前の1987年に、彼女が初のワールドツアーで来日したときのステージを見に行って、私はすっかり彼女のファンになってしまった。あの、鍛え抜いたボディラインもさることながら、圧倒的なダンステクニックと、ステージパフォーマンスの素晴らしさ。そして、何と言っても感動的だったのは、そのステージから伝わってくる、彼女のプロとしてのひたむきさだった。当時はまだ東京ドームが建設中で、その隣にあった後楽園球場での野外コンサート。3万人の異国の観客を前に、マドンナは自分の持てるすべてを出し切って、観客に熱を伝えようと頑張っていた。そう、“頑張っていた”という、世界のスーパースターに対して言うにはとても失礼な表現が、なぜか自然に思えるくらい、彼女は全力投球であり、健気だったのだ。
「なんてカワイイんだろう……」
そう思った。筋肉に包まれた、女性にしては硬質すぎる肉体や、したたかな眼差しを、カワイイというのも変なのだが、彼女のアーティストとしての心意気が、カッコイイではなく、とても可愛く思えてしまったのである。同時に、恐らく世の男達の大半は、こういう女を“かわいげがない”と思うのだろうなとも思った。弱さや媚びを見せない女は、だいたいそう思われる。その後ろに封印された涙や悔しさに気付かないから。そんなマドンナの心の奥が、ちょっとだけ私には感じることができた。自分も、似たところがあるからかな……。
今でこそ、日本も海外のアーティストにとって、大事な市場になっているのでそんなことはなくなったが、当時はまだ、“外タレ(海外アーティスト)は、日本では手を抜く”というのが一般的だった。実際、「リズムネーション」が大ヒット中のジャネット・ジャクソンが来日したときは、始まって30分以上はプロモーション・ビデオを流すだけで、本人が出てきたら1時間でステージが終わったなんていう、ナメきったステージだった。それでもチケット代は同じなんだから、バカにするのもいい加減にせい! という話だ。
そんな中、マドンナは2時間以上歌い、踊った上、度々のアンコールにも、しっかり応えてくれた。その一生懸命さが、彼女がクールに挑発的に装えば装うほど、可愛くて、涙が止まらなかったことを覚えている。
このときは、もうひとつアホらしい思い出がある。
マドンナの初来日、しかも初めてのワールドツアーの皮切りが日本からという鳴り物入りで、チケットは争奪戦だった。今みたいに電話予約とかではなく、ハガキで申し込み、抽選という厳しさ。新聞に掲載されたこの広告を見て、よっしゃ! とばかり、私は応募することにした。どうせならと、編集者仲間の分も合わせて8枚! 応募ハガキは、複数出すと無効になるので、たった一枚に命を賭けた。
で、その1枚のハガキが、なんと当たったのである。自慢じゃないが、私は悪運は強いが、くじ運がものすごく弱い。その証拠に、この時以来、何にも当たっていない。なぜマドンナのチケットだけ、それも8枚も当たったのか、今でも謎だが、とにかく公正な抽選で見事にゲットできてしまったのだ。しかも、10列目ぐらいの、ものすごくいい席だった。大喜び! 友達達は、もっと大喜び!
「みどりちゃん、凄いじゃな〜い! ありがとね!」
感謝と感激の声の雨あられ……ちょっと気持ちいい。
しばらくして、チケットが送られて来た。並びの席で8枚。やった〜〜! 友達に話すと、コンサートまでまだ3週間もあるし、どうせみんな一緒に行くからということで、チケットは、当日まで私が持っていることになった。
それから2週間ほどしたときである。そろそろコンサートだっけなあと思い、机の引き出しを開けると、そこにしまったはずのチケットの束が見当たらない。ゲッ!! 顔から血の気が引いた。落ち着け、落ち着け! 引き出しの中味を全部出し、丁寧に探す……ない! な〜〜〜〜い!
そう言えば、昨日、この中にごちゃごちゃあったDMとか封筒とかを整理したのだ。まさか、あのとき間違って捨てちまった? そ、そんな馬鹿な! うそ〜〜〜!
もう、心臓はバクバク、目は涙目。ゴミ箱の中味は、今朝、しっかり燃えるごみで出してしまった。何度も、何度も探し、結局、チケットはなかった。
一生に一度の運でゲットしたチケット、それも8枚全部を、よりにもよって捨てしまうなんて、なんて間抜けなんだろう? 後悔してももう後の祭りだ。当然、チケット8枚分の代金は払わなくちゃいけない。それよりも悔しいのは、当日、間違いなくそこに私たちの席が8席あるにもかかわらず、私たちは会場に入れず、前のほうの垂涎の席が、8席ごそっと空席になるという事実である。その風景を想像しただけで、涙がちょちょ切れる。悔しい〜〜〜! ……って、全部私が悪いのだ。
翌日、その悪魔の事実を友達に伝えた。さぞののしられることだろうと思っていたが、みんな少しがっかりしただけで、優しく慰めてくれた。まあ、みんなにしては、どうせ棚ぼただったのだから、諦めがつくのだろうな……と思っていると、Nちゃんがニコニコ顔で言ったのだ。
「きっと見つかるわよ! 絶対に捨ててないって! みどりちゃんは大丈夫よ! 絶対あるから」
常日頃、物事の管理だけは抜かりのない私の性格を知っての、力強い言葉だった。でも、だからこそ、私は落ち込んでいるのだ。はあ〜〜。
そしてそれから2〜3日したとき。家で原稿を書いていて、ふとノートを取り出したとき、何と、チケットが入った封筒が、ひらりと落ちてきたではないか。あった〜〜〜! あった、あった! 私が入れたと思っていた引き出しとは別の引き出しの中に、ちゃんとノートに挟んで入れてあったのだった。友達の「きっと見つかるわよ!」の言葉がよみがえった。宝くじに当たったような(当たったことはないが)気分だった、ばんざ〜い!
Nちゃんに
「ほらね、だから言ったでしょ。私は絶対あると思っていたよ」
と、自慢げに言われたのが少し悔しかったけれど、チケットが無事に見つかって何より。お陰で、このマドンナのコンサートは、当日、後楽園球場に入れたという事実だけで、すでに感無量だったのだ。
あれから月日が流れ、マドンナも48歳、2児の母親になった。あいかわらず筋肉質な体はしているものの、以前よりは張りが違う。ダンスも、全曲ガンガン踊るわけではない。しかし、アクロバティックなダンサーとのからみや、ギターの弾き語りなど、新しいマドンナの姿を存分に堪能できた。ステージの後ろいっぱいにLEDの見事な映像を流し、世界の国々の風景や季節を表現し、ダンサーの野性的な本能の動きで、人間の躍動感=命を表現し、彼女の訴えたいことが、昔よりもハッキリと伝わってきた。今のマドンナの強烈なメッセージ。そして、それを伝えようと頑張っているマドンナの姿は、昔と全く変わっていなかった。
17歳のときに、たった35ドル握りしめてNYに一人出てきて、Times Squareに立ったとき、
「絶対に有名になる! 神よりも有名になる!」
と誓った少女は、有名になった責任と使命を胸に、ステージで輝き続けている。素晴らしきミューズの生き様を、しっかり心して見ておきなさい! そんな意味で、あのときチケットは、一度姿を隠したのかも……。
なんて、柄にもないロマンティックなことを考えてしまった、秋の夜でした。
マドンナ公式HP http://www.wmg.jp/madonna/
今から19年前の1987年に、彼女が初のワールドツアーで来日したときのステージを見に行って、私はすっかり彼女のファンになってしまった。あの、鍛え抜いたボディラインもさることながら、圧倒的なダンステクニックと、ステージパフォーマンスの素晴らしさ。そして、何と言っても感動的だったのは、そのステージから伝わってくる、彼女のプロとしてのひたむきさだった。当時はまだ東京ドームが建設中で、その隣にあった後楽園球場での野外コンサート。3万人の異国の観客を前に、マドンナは自分の持てるすべてを出し切って、観客に熱を伝えようと頑張っていた。そう、“頑張っていた”という、世界のスーパースターに対して言うにはとても失礼な表現が、なぜか自然に思えるくらい、彼女は全力投球であり、健気だったのだ。
「なんてカワイイんだろう……」
そう思った。筋肉に包まれた、女性にしては硬質すぎる肉体や、したたかな眼差しを、カワイイというのも変なのだが、彼女のアーティストとしての心意気が、カッコイイではなく、とても可愛く思えてしまったのである。同時に、恐らく世の男達の大半は、こういう女を“かわいげがない”と思うのだろうなとも思った。弱さや媚びを見せない女は、だいたいそう思われる。その後ろに封印された涙や悔しさに気付かないから。そんなマドンナの心の奥が、ちょっとだけ私には感じることができた。自分も、似たところがあるからかな……。
今でこそ、日本も海外のアーティストにとって、大事な市場になっているのでそんなことはなくなったが、当時はまだ、“外タレ(海外アーティスト)は、日本では手を抜く”というのが一般的だった。実際、「リズムネーション」が大ヒット中のジャネット・ジャクソンが来日したときは、始まって30分以上はプロモーション・ビデオを流すだけで、本人が出てきたら1時間でステージが終わったなんていう、ナメきったステージだった。それでもチケット代は同じなんだから、バカにするのもいい加減にせい! という話だ。
そんな中、マドンナは2時間以上歌い、踊った上、度々のアンコールにも、しっかり応えてくれた。その一生懸命さが、彼女がクールに挑発的に装えば装うほど、可愛くて、涙が止まらなかったことを覚えている。
このときは、もうひとつアホらしい思い出がある。
マドンナの初来日、しかも初めてのワールドツアーの皮切りが日本からという鳴り物入りで、チケットは争奪戦だった。今みたいに電話予約とかではなく、ハガキで申し込み、抽選という厳しさ。新聞に掲載されたこの広告を見て、よっしゃ! とばかり、私は応募することにした。どうせならと、編集者仲間の分も合わせて8枚! 応募ハガキは、複数出すと無効になるので、たった一枚に命を賭けた。
で、その1枚のハガキが、なんと当たったのである。自慢じゃないが、私は悪運は強いが、くじ運がものすごく弱い。その証拠に、この時以来、何にも当たっていない。なぜマドンナのチケットだけ、それも8枚も当たったのか、今でも謎だが、とにかく公正な抽選で見事にゲットできてしまったのだ。しかも、10列目ぐらいの、ものすごくいい席だった。大喜び! 友達達は、もっと大喜び!
「みどりちゃん、凄いじゃな〜い! ありがとね!」
感謝と感激の声の雨あられ……ちょっと気持ちいい。
しばらくして、チケットが送られて来た。並びの席で8枚。やった〜〜! 友達に話すと、コンサートまでまだ3週間もあるし、どうせみんな一緒に行くからということで、チケットは、当日まで私が持っていることになった。
それから2週間ほどしたときである。そろそろコンサートだっけなあと思い、机の引き出しを開けると、そこにしまったはずのチケットの束が見当たらない。ゲッ!! 顔から血の気が引いた。落ち着け、落ち着け! 引き出しの中味を全部出し、丁寧に探す……ない! な〜〜〜〜い!
そう言えば、昨日、この中にごちゃごちゃあったDMとか封筒とかを整理したのだ。まさか、あのとき間違って捨てちまった? そ、そんな馬鹿な! うそ〜〜〜!
もう、心臓はバクバク、目は涙目。ゴミ箱の中味は、今朝、しっかり燃えるごみで出してしまった。何度も、何度も探し、結局、チケットはなかった。
一生に一度の運でゲットしたチケット、それも8枚全部を、よりにもよって捨てしまうなんて、なんて間抜けなんだろう? 後悔してももう後の祭りだ。当然、チケット8枚分の代金は払わなくちゃいけない。それよりも悔しいのは、当日、間違いなくそこに私たちの席が8席あるにもかかわらず、私たちは会場に入れず、前のほうの垂涎の席が、8席ごそっと空席になるという事実である。その風景を想像しただけで、涙がちょちょ切れる。悔しい〜〜〜! ……って、全部私が悪いのだ。
翌日、その悪魔の事実を友達に伝えた。さぞののしられることだろうと思っていたが、みんな少しがっかりしただけで、優しく慰めてくれた。まあ、みんなにしては、どうせ棚ぼただったのだから、諦めがつくのだろうな……と思っていると、Nちゃんがニコニコ顔で言ったのだ。
「きっと見つかるわよ! 絶対に捨ててないって! みどりちゃんは大丈夫よ! 絶対あるから」
常日頃、物事の管理だけは抜かりのない私の性格を知っての、力強い言葉だった。でも、だからこそ、私は落ち込んでいるのだ。はあ〜〜。
そしてそれから2〜3日したとき。家で原稿を書いていて、ふとノートを取り出したとき、何と、チケットが入った封筒が、ひらりと落ちてきたではないか。あった〜〜〜! あった、あった! 私が入れたと思っていた引き出しとは別の引き出しの中に、ちゃんとノートに挟んで入れてあったのだった。友達の「きっと見つかるわよ!」の言葉がよみがえった。宝くじに当たったような(当たったことはないが)気分だった、ばんざ〜い!
Nちゃんに
「ほらね、だから言ったでしょ。私は絶対あると思っていたよ」
と、自慢げに言われたのが少し悔しかったけれど、チケットが無事に見つかって何より。お陰で、このマドンナのコンサートは、当日、後楽園球場に入れたという事実だけで、すでに感無量だったのだ。
あれから月日が流れ、マドンナも48歳、2児の母親になった。あいかわらず筋肉質な体はしているものの、以前よりは張りが違う。ダンスも、全曲ガンガン踊るわけではない。しかし、アクロバティックなダンサーとのからみや、ギターの弾き語りなど、新しいマドンナの姿を存分に堪能できた。ステージの後ろいっぱいにLEDの見事な映像を流し、世界の国々の風景や季節を表現し、ダンサーの野性的な本能の動きで、人間の躍動感=命を表現し、彼女の訴えたいことが、昔よりもハッキリと伝わってきた。今のマドンナの強烈なメッセージ。そして、それを伝えようと頑張っているマドンナの姿は、昔と全く変わっていなかった。
17歳のときに、たった35ドル握りしめてNYに一人出てきて、Times Squareに立ったとき、
「絶対に有名になる! 神よりも有名になる!」
と誓った少女は、有名になった責任と使命を胸に、ステージで輝き続けている。素晴らしきミューズの生き様を、しっかり心して見ておきなさい! そんな意味で、あのときチケットは、一度姿を隠したのかも……。
なんて、柄にもないロマンティックなことを考えてしまった、秋の夜でした。
マドンナ公式HP http://www.wmg.jp/madonna/