よりどりみどり〜Life Style Selection〜


トリノオリンピックを楽しめ!

トリノオリンピックが予想外に面白い。

な〜んて書くと、たぶんあちこちからブーイングが起こるんだろうな。鳴り物入りで代表に選ばれた日本選手達の成績が思った以上に悪く、いまだにメダルが1個も取れないと言う状況。表彰台に登る日本選手の姿をリアルに見ようと、気合いを入れて大型のハイビジョンテレビを購入し、深夜の番組録画用にHDDビデオまで揃えた方々は、確かにかなりがっかりしていることだろう。

私はもともと冬季オリンピック自体を、世界的なスポーツの祭典と認めていない。だって、雪も降らなきゃ氷もはらない国がたくさんあるのに、そりゃ不公平でしょう? それを、世界の国々が一つとなる“オリンピック”の名の下に競うなんてどうかと思うのだ。でも、ウインタースポーツを否定しているわけではないですよ。スキーもスケートも芸術的でエキサイティングで楽しいと思う。つまり、オリンピックじゃなくていいのだよ。『世界ウインタースポーツすっごいヤツ祭り』とかさ。もっと軽いノリで開催したほうが、選手ものびのびできるし、観ているほうも、気軽に楽しめる気がするのだ。

だいたい、現在ゲレンデで主流のスポーツ「スノーボード」なんて、スケボーの親戚なんだから、どちらかというと遊びである。スポーツと遊びの境界線を決める必要もないとは思うが、オリンピックとして競うにはちょっとね。でも、『世界ウインタースポーツすっごいヤツ祭り』と思って観れば、全然OKでしょ。ハーフパイプの会場にベース音バリバリのhip-hop系の音楽が流れてたって、選手がiPodで音楽を聴きながら、叫び声を上げてイケイケで飛び出して行ったって許す! 「Yeah!」てなもんだ。「絶対すごいことやる!」と豪語して大コケして予選敗退した成田童夢にも、「まだまだ世界を甘く見ちゃいかんよ! 次頑張んな!」と笑って言えるし、同じく転倒して担架で運ばれた妹の今井メロにも、「デカイアメリカ女相手によく頑張った!」と、同じちびっ子日本女としてねぎらいの言葉をかけたくなる。

スキーのモーグルとかエアリアルなんて、あれはアクロバットショーなんだから、上村愛子が3Dの大技「70」をきっちり決めたら、それでもう「スッゲエ! パチパチパチ!」なのである。

そして、今大会で注目を浴びたカーリング。あれって、スポーツなのか? 肉体的、運動能力的に特別な才能を必要とするものなのか? 私には、どう見てもゲームにしか見えない。あれをオリンピック種目とするなら、ボーリングやビリヤードも、夏季オリンピックの種目にするべきでしょう。でも、そんな疑問も、『世界ウインタースポーツすっごいヤツ祭り』だったら、どうでもいいやと認めてしまえる。実際、今回の日本女子チームの集中力は素晴らしかったし、見ていて結構ドキドキハラハラしてとても楽しめたのだから。正直、カーリングがどんなものか、一度やってみたいなとも思った。

他にも、ボブスレーやリュージュの技術の差はどこにあるのか? 体重の問題だけじゃないのか? とか、フィギュアやアイスダンスは、エンタテイメント点というのを作れば、もっと楽しくなるんじゃないかとか、冬季オリンピックに関しては、IOCからお叱りを受けるくらい独断と偏見に満ちた疑問と私感をもつ私。でも、だからこそメダルに関係なく、勝手な解釈で、どの種目も楽しめてしまうのである。

かく言う私も、大学時代は4年間、2月から3月にかけてはスキー場に住み着いているというほど、スキーに没頭した。ホームゲレンデは山形県の蔵王。サンライズゲレンデという、麓の蔵王温泉街から近いゲレンデにあるロッジ『ペチカ』(今もあるのかなあ?)を定宿にし、スキー部でもないくせに、1か月近く滞在していた。もちろん、一部屋に雑魚寝の状態で、毎年同じ部屋を私がキープし、最初から一緒に行って途中から帰るヤツ、途中から参加するヤツ、ちょっと来てすぐ帰るヤツなどなど、いろんな友達が出たり入ったりし、私だけ最初から最後まで牢名主のごとく居続けて、すべてを仕切っていた。

スキーを初めてやったのは、高校のスキー教室。決して早くない。ただ、その1回で見事にハマってしまった。たまたま高校3年の時の担任の女の先生がスキーのインストラクターだったので、授業とは別に、スキースクールに連れて行ってくれ、基礎はちゃんと教えてもらった。ある程度滑れるようになると、いろいろなゲレンデで滑りたくなる。蔵王は、表情の違うゲレンデがたくさんあるので、飽きなかった。もちろん、ナイター設備もある。サンライズゲレンデからリフトを乗り継いで、パラダイスゲレンデ、ユートピアゲレンデと登っていき、標高1736mの地蔵岳の山頂まで登ると、快晴のときは、蔵王連峰を見渡す最高の眺め。そして、そこから今度は、山岳コースをノルディック気分で歩き、各ゲレンデを滑りながら、半日かけて麓まで降りる。これがたまらなく楽しかった。

山頂からすぐのところに『ざんげ坂』と呼ばれる難所がある。狭い上にコースがえぐれて、ちょうどスノボのハーフパイプ(あそこまでデンジャラスではないが)のミニチュアみたいになっているのだ。谷をスイスイ滑れない初心者がジグザグに滑ると、これまたハーフパイプみたいにスイングするので、まるで懺悔しているように見えることから、この名前がついたのだそうだ。みんなが同じリズムで行ったり来たりのスイングをすれば問題ないのだが、そこは初心者。だんだんリズムが崩れると、両側からパイプの底に向かって滑ってきた人同士が、みごとに谷でぶつかって転倒。すると、谷をスイスイ滑っていた上級者もそこにぶつかりまた転倒。坂は巻き添えを食った転倒者続出……だから難所なのである。あのころはスノボなんかなかったからまだその程度だったけど、今はもっとスゴイ難所になってるのではないかと思う。

我々も、キャーキャー言いながら、よく転んだ。数回スキー教室でレッスンを受けただけで、あとは自己流で自称1級を名乗っていた私は、とりあえずどこでも滑れた。斜度38度と言われる通称・横倉の壁に滑降の選手気取りでトライし、何度かアイスバーンに足を取られ、顔面で滑り降り、顔半分の感覚がなくなったことがある。また、竜山ゲレンデという、モーグルのコースみたいにこぶだらけのゲレンデにトライし、こぶに飛ばされ、目から星が出て危うくむち打ちになりそうになったこともある。蔵王名物の『モンスター』と呼ばれる巨大な樹氷群の中を滑っていて、樹氷に激突し、木の根本に落ち込んで遭難しそうになったこともあった。

それでもスキーは楽しかった。それは、私にとってスキーはスポーツというより、雪遊びだったからだ。雪山という自然と、友達との温泉旅行が合体した最高の遊び。だから、ナイターでみんなでタテに重なってイモ虫みたいにボーゲンで滑る遊びもやったし、お約束どおり途中で全員グシャグシャになって倒れ、やれお前が悪いだの、やれスキーに傷がつただの言い合って、みんなで大笑いした。大学を卒業して社会人になってからは、周りにスキーをやる人がいなかったせいもあり、全くやらなくなってしまったので、スキーは正に青春の思い出でもある。

トリノオリンピックの選手のコメントには、「楽しく滑りたいと思います」とか、「滑りを楽しみたいと思います」というのが多いように思う。やっぱり、雪とか氷の世界は、真っ白で、透明で、人間を童心に返らせる魔力を持っているのではないか。転げ回って、笑い合って……。だから、メダルに関係なく、頑張って失敗して転んで、涙して、でも最後に笑顔の選手を見るのは楽しい。爽快な気分になる。元気と勇気をもらった気分になる。

あらためて私は、『世界ウインタースポーツすっごいヤツ祭り』のすっごいヤツ全員に、拍手を贈ります。