よりどりみどり〜Life Style Selection〜


QOLドック恐るべし!

アンチエイジング流行りの巷で、今、『QOLドック』とやらが話題になっている。QOL=Quality Of Life……つまり、質の良い生活を送るための検診というわけである。では、質の良い生活とは何ぞや? まさか人の生活のことを、「おっ、さすが上物ですな!」とか、「うわあ、どこから見ても粗悪品です」なんて表現はするわけないから、ひと言で言えば、健やかで明るいライフスタイルといったところだろうか。

『人間ドック』が病気をみつけるための検診だとしたら、『QOLドック』は、自分の体の健康状態を目に見えるかたちで把握して、悪いところがあったら、病気になる前に生活習慣を見直しましょうよ、明るい未来のために! という、よけいなお世話的ではあるけど、確かに前向きなものなのだ。

このありがたい『QOLドック』のお試しコースを受けてみませんかという話が来た。私はこのコラムでも再三自慢してきたように、スポーツジム歴は16年。健康によいという食べ物や栄養素、サプリメント情報には誰よりも敏感な自他共に認める筋金入りの“健康オタク”である。そして、雑誌の編集者という、不健康の代名詞のような仕事をしていた頃でも、健康診断では毎回オールAだったという頑丈な体の持ち主でもある。人間ドックで測った肺活量がかる〜く4000mlを超えて、後ろのオヤジにビックリされたこともあるし、スポーツクラブでやった体力測定の「反復横跳び」では、21歳のインストラクターくんに勝ったことだってあるのだよ。だから、こんなもん受ける必要はございません!……と言いたいところなのだが、実際に受ける検査の内容を聞いたとたん、意外にも私は二つ返事でOKしていた。

『QOLドック』の検査は、体の基礎的な機能を、脳・神経系、体組成系、生理運動機能系、心・血管系、ホルモン・自律神経系の5つに分類して行われる。で、これをどうやって調べるのかというと、全部最新技術の粋を集めた機械で行うのである。かねてから、健康番組の草分け的な『発掘あるある大事典』で、ゲストが血液の顕微鏡映像やら、骨の歪みが顕著にわかるレントゲン写真、サーモグラフによるセルライトの有無なんかを見て一喜一憂している姿に、「私もあれやってみたい」と思っていた私だ。それがついに実現するときが訪れたのだから、ラッキーとしか言いようがない。やった〜! 目指せ、Quality Of Life!

検診を受けたのは、去年、西新宿のパークタワーにオープンした、アンチエイジングの総本山『マリーシアガーデンクリニック』。朝10:30に予約を入れたあたりから、既に私はやる気満々である。まあ、そんなにモチベーションを上げてどうすんだ? って話ですが……。

この『マリーシアガーデンクリニック』は、パークタワーという丹下健三デザインの近代ビルの中にあるだけでも「やるな!」という感じなのだが、バリのリゾートホテルのようなインテリアと、館内に流れるヒーリングミュージックには、これぞQuality Of Lifeのほのかな香りが漂っている。人間ドックみたいに、いかにも病院! という感じは全くなく、スパにでも来た気分だ。

生活習慣や、アレルギーの有無などに関する問診票を書き込み、まずは検査着に着替える。人間ドックは数人のグループでやる場合が多いので、どの検査にも、ぞろぞろと知らないオヤジに混じって並ぶ面倒くささがあるが、ここは一人一人予約制でじっくりと検査してくれるらしい。担当の看護婦さんが、まるでホテルのサービス係のように、ロッカーのロックの仕方から、各検査室への案内、説明、ついでに「段差がありますので、お足元にご注意ください」な〜んてことまで言ってくれちゃう。う〜ん、Quality Of Life!

最初は、脳反応テストだった。脳の前頭葉の機能検査ということで、パソコンでゲーム感覚のテストをする。簡単なカードの仕分けゲームなので、要領がわかれば、もうお茶の子さいさいだった。でも、飲み込みの悪い人もいるだろうなあ、こういうのって。まあ、そんあこたあよけいなお世話である。結果にはかなり自信があったが、もう一回やったら、もっと高得点出せたと思う。

続いて「in Body」と呼ばれる体成分分析だ。いよいよ、最先端の機械のお出まし。体脂肪計付き体重計のスゴイやつという感じの計測器に乗り、両手にも何やら計測用のバーを握らされて検査を行う。これ1台で、体の細胞内液量、細胞外液量、タンパク質量、骨量、体脂肪量、筋肉量、体脂肪率、BMIなどがわかってしまうのだ。今のお前の体は、こんなもんで出来てるんだぞ、ということを教えてくれるありがたい機械なのである。私は全盛期(って何の?)、体脂肪率13%という筋肉女だったが、ここ数年、ガタッと運動量が減っているので、この数値は自分でも興味深いところだ。

続いて、姿勢や体のバランスを調べる機械。やはり体重計のようなモノに乗り、目を開いたときと閉じたときの両方を計測する。体の微妙な重心の移動を察知する手強いヤツなんだろう……と意識したら、何だか緊張して、必要以上に踏ん張って立っている自分がいた。こりゃ、精神面に問題あるなあ……って、競技じゃないんだから!

血管の状態をチェックする眼底カメラ撮影は、人間ドックでもやった経験がある。目の血管は、人間の血管の中で、唯一外から直接見えるものなので、これだけでいろいろな病気がわかるということを聞いたことがある。フラッシュを至近距離で浴びるので、眩しいのがちょっと難点。

自律神経の検査は、東洋医学的な良導絡検査というやつであった。いわゆる、経絡の流れを調べる検査なのだろう。手首や足首のいくつかのツボに電極のようなものを当てて調べる。東洋医学も、今や科学的になってきているのだなあと、なかなか新鮮だった。

そして最後は、いちばん楽しみにしていた血液さらさら検査だ。顕微鏡で見える赤血球や白血球を、モニターで見ることができる。自分の体内の、こんなミクロなものと対面するのは生まれて初めて。おお! 出た出た、私の愛しき赤血球! テレビで見たことあるけど、確か形がいびつなのは良くなかったはず。我が赤血球はみんなまん丸くて優秀だわ〜。

じっと画面に見とれていると、顕微鏡を覗いていたスタッフの女性が、にこにこ顔で言った。

「赤血球は、一つ一つが丸くて重なっていないのがいいんですね。ちょっと重なりがあるので、ややどろどろってことなんですね」

あらま! ダメじゃん! 結構運動していたのに、プチどろどろ? 自信があっただけに、ショックだった。ただ、血液は食事の後はどうしても普通よりドロドロになるそうで、朝食を取ってから2時間ぐらいしかたっていない私の場合は、その影響もあるという。朝、水分をどのくらい取ったかということも関係あるらしい。いろいろなぐさめてはもらったが、モニターで仲良く重なり合う赤血球は、離れる気配もなく、私は見事に「軽くドロドロ女」の烙印を押されたのであった。

意外な問題が暴露され、落ち込んだ私にだめ押しをかけたのは、検査結果の説明をしてくれた医者の言葉である。

「全体的には問題ありません。ただ、内臓脂肪が少し付き始めてますね。これは食生活と運動で落としましょう!」

な、内臓脂肪ですと! 肥満でもないのに、そんなところに脂肪が付き始めているとは……がっくりである。先生いわく、運動選手が急にやめたりすると、こうなりやすいとか。選手でもなんでもないくせに、運動しなくなったら運動選手並みというのは、どうしたものか……。

脳反応はすばらしく、実年齢より20歳は若いという。血管問題なし。筋量よし!(当然です!)、体脂肪率よし!、体はちょっと重心が左に傾いてるらしいが、利き足が左で、いつも荷物を右で持つ私は、これは想定内の結果である。パワーヨガでなんとかしよう。経絡の検査結果は、腎臓と肝臓の疲れと、ストレス少々。これも、漢方の先生からずっと言われていたことなので、やっぱりなという感じである。というより、漢方の先生は、これを脈診と舌診だけで診断したわけだから、やっぱり機械より、恐るべし中国4千年の歴史! と言うべきであろう。

今回の結果で明らかになったのは、私も年齢相応の成人病予備軍入りを果たしたということだった。もっとぶっちゃけて言えば、

「あんた、ちょっと運動ができるとか、健康に詳しいとか言って調子こいてるんじゃないよ! 目ん玉こじ開けて、自分の体ん中みてみい!」

ということであろう。

まずは己を知るべし! Quality Of Lifeへの道は、厳しいのである。

『マリーシアガーデンクリニック』 http://www.mareesia-gcl.jp/