よりどりみどり〜Life Style Selection〜


バットマンカー発進!

私は車が大好きだ。
と言っても、やたらと車種に詳しかったり、エンジンやパーツを自分でいじったりする、いわゆるカーマニアってわけではない。車のボンネットなんか、ガソリンスタンドで見てもらう以外、ほとんど自分で開けたことがないし、タイヤ交換も、オイル交換も、JAFやオートバックスがやるもんだと思っている、どうしようもないぐうたらドライバーである。

でも、車の運転は大好き。駐車場不足や渋滞で時間が読めないという問題さえなければ、どこへでも車で行きたいくらいだ。自分の空間を確保したまま、好きなペースで移動できるなんて、最高だと思う。重い荷物だってかさばるものだってOK。実際に私は車で旅行するとき、自分の枕を積んで行くことがある。旅館やホテルの枕が合わないと、熟睡できないからだ。枕を抱えてフロントに行く格好悪ささえ我慢できれば、皆さんにも是非オススメしたい。

好きな音楽を聴きながら、ときどきお菓子をつまみ食いしたり、自分のペースで休憩することだってできる。そして、移り変わる風景を眺めながら、あれやこれや考えることができる一方で、ドライバー同士の駆け引きや、信号通過や車線変更のタイミングという、ちょっとしたゲーム感覚もあるから、適度にスリリング。ホント、車って楽しい!

現在の私の愛車は、黒のSupra(スープラ)だ。車に詳しい人は、おいおい、スープラかよ! と驚いたことでしょう。そう、あのGT選手権で毎回優勝をかっさらい、リミッターを外してチューンナップすれば、優に時速300kmをたたき出すという、国産車一速い車である。な〜んでまたそんな車を……と思うだろうが、何のことはない、あの目玉の形と流線型のボディ、つまりスタイルに一目惚れしただけである。デザイン、走り具合とも、私の性格にピッタリなので、もう10年も乗り続けてるカワイイ奴だ。

かなりマニアックな車で受注生産のため、契約してから2か月も待たされた。9月末に頼んで、なんとしても年内に欲しい! とわがままを言ったので、納車はなんと12月24日のクリスマスイヴ。ちょうどその日は、武道館のコンサート取材の仕事が入っていたので、友達に九段下のホテル・グランドパレスまで届けてもらった。イヴの夜中に、ホテルの駐車場で、黒光りする新車とご対面! まるでバットマンカーみたいだった。うれしくて、そのまま初乗りで横浜まで高速を飛ばしたのを覚えている。

黒ということもあり、見た目かなりごついのだが、意外と運転のしやすい車だ。3000ccの上に、225馬力とパワーがあるので、走りに余裕がある分、楽なのである。これが外車だったら、もとゴリゴリのクセのある車になってしまうのだろうが、さすが国産車は万人ウケにできている。

もともとは、かつて一世を風靡した初代セリカの最上級車「セリカXX(ダブルエックス)」の、海外輸出型の名前で、それを日本で逆輸入発売したものだ。ヘッドライトが開閉する70型スープラからモデルチェンジして、私が購入した80型が出た。初代のデザインを思い切って変えた80型は、かなり話題になったようだ(走り屋の間でだけどね)。

リアスポイラーが羽根みたいにやたら大きくて派手な雰囲気を醸し出しているが、それも結構気に入っている。タイヤが思いっきりぶっといので、高速道路での安定感は最高だ。120キロぐらい出しても、一般道を法定速度で走っている感覚。ちなみに、買ったばかりの頃、普通の車の感覚で一般道を走っていたら、あっという間に80キロも出ていて、ビックリ。おかげで、慣れるまではこまめにスピードメーターをチェックしなければ危なかった。

いちばんの自慢は運転席である。ジェット機のコックピットをイメージしてデザインされたパネルは、ドライバーを取り囲むような作りになっていて、運転席に座ると、まさにコックピット感覚。助手席からは、メーターはおろか、時計までも、身を乗り出さないと見えない。早い話、運転する人間のことしか考えてない車なのである。

車高は、地面から13センチという低さなので、シートも当然低く、助手席に女の子が乗ると、窓からやっと首が出るかたちになってしまう。隣に乗った私の友達はいつも、

「な〜んかこの席って、孤独! お風呂入ってるみたいだしさあ!」

と文句を言う。

見た目もデカイが、幅が181センチあるので、実際かなりデカイ。そのくせ、4人乗りとは名ばかりで、前に体の大きい男二人乗ってしまうと、後部座席の人は、足が入らない。それだけでなく、リアウインドウが斜めに後部座席の上まで来ているので、日差しが直撃! 夏はめちゃくちゃ暑い。まあ、二人乗りと考えたほうが正しいだろう。っていうか、助手席も孤独なのだから、ほとんど一人で走ることを考えた車と言える。それにしては、無駄にデカイけど……。

このデカイ車を、よくもまあ乗りこなしてきたと思う。麻布十番に住んでいたときの駐車場は、回転式のケージに乗せるタイプだったが、ケージの幅が185センチ。左右2センチずつしか余裕がなかった。鏡を見ながらケージに乗せるテクニックは、これでかなり鍛えられたと思う。

鍛えられたと言えば、麻布十番という街は違法駐車の天国なので、両側にびっしりと止められた車の間を縫うように進まなければならないため、切り返しやバックの操作も、思い切り鍛えられた。一方通行の道に入ったとたん渋滞! と思ったら、その先でやくざのベンツが荷物下ろしをしていて、有無を言わさずバックをさせられたこともあった。私の前の佐川急便のお兄ちゃんが、勇敢にもどいてくれるように言ったのだが、

「うるせえな! おめえらがバックしろ!」

と一喝され、喧嘩したところで時間の無駄なので、みんなで一斉にバックした。私は駐車場が目と鼻の先だったので、よっぽど文句を言おうかと思ったのだが、そんなことで買ったばっかりの車に蹴りでも入れられたらやぶ蛇だ。泣く泣く従った……けど、慣れないデカイ車での、狭い道のバックは、本当に冷や冷やもんだった。

買ってから2年ぐらいは、嬉しくてしょっちゅう遠出をしていたものだ。名古屋まで行ったこともあるし、伊豆、箱根、富士山方面から、長野、軽井沢方面など、日帰り圏内はほとんど走った。今は仕事が忙しくて、なかなかドライブというわけに行かなくなってしまったが、東京近郊の仕事には、必ず車で出かける。私のスープラは、既に仕事仲間の間では有名なので、もうあまりビックリする人はいなくなった。それでも、葬儀に参列する場合は、控えるようにしているが。

乗り続けて10年。無事故無違反……と言いたいところだが、この車を買ったという時点で、既に「私はスピード違反をしちゃうかもしれませ〜ん!」と、手を上げているようなもんなので、何かと目を付けられ、お陰でスピード違反が2回。内1回は、横浜に行った帰りに神奈川県警にマークされ、湾岸道路で捕まった。後ろからサイレンの音がするから、救急車かと思って左に寄ったら、横に並んだ車から、男の人が何か言っている。「はい?」と首をかしげて微笑んだら、ジェスチャーで左に寄って止まれと言うではないか。それで初めて覆面パトカーだとわかった。80キロ制限の所を118キロで、38キロオーバー。3万円近い罰金を払わされた。ちょうどもうすぐ免許書き換えで、ゴールド免許取得目前の優良ドライバーであることを、何気なくアピールしてみたが、

「あ、そうでしたか。いやあ、残念でしたね〜〜」

のひと言で終わった。やけに丁寧で優しい口調が、この時ほどむかついたことはない。あんまり頭に来たので、

「118キロなんて、みんな出してるスピードじゃない。私なんか、普通は130キロぐらい出しても問題なかったですよ!」

と、危うく余罪まで自白してしまいそうになった。

もう1回は、青梅街道でねずみ取りに捕まった。のんびり走っていたら、後ろから似たような車に煽られ、うるさいなあと思ってアクセルを踏んだら、いきなり警官が笛を吹きながら、おいでおいでをしている。75キロで15キロオーバー。ちなみに煽ったほうの車は、そのまま走り過ぎて行った。

「私のスピードオーバーは認めるけど、それだったらうしろの車も捕まえてよ!」

と、猛烈に抗議したのだが、ダメだった。

かと思えば、夜遅くまで路上駐車していたら、そこがねずみ取りの本拠地になっていて、私の車の周りがおまわりさんだらけになっていたという、信じられないこともあった。飛んで火に入る夏の虫たあこのことでい! 覚悟を決めてそっと車に乗り込んだとたん、窓をとんとん! 来た、来た! 神妙に開けると、

「すみません、飲酒運転のチェックなんで、ハーッてやってもらえますか? はい! 大丈夫です! ご協力ありがとうございました!」

だと! 飲酒運転の取り締まりの時は、それしか取り締まらないという、いかにも日本の警察らしいバカさのおかげで命拾いしたが、「ありがとうございました」でいいわけ? 「ここは駐車違反になるので気を付けてくださいね」ぐらい言えっつ〜の!……と、違反した私が言うのも変だけど。

個性の強い車に乗っていると、そんなこんなで意外なことがわかってなかなか面白い。だから、スープラに乗ってから、私はもっと車が好きになった。信号待ちで、同じスープラや、スカイラインGTR、RX7なんかと並ぶと、こちらが女ということで、みんなやけに意識して出足を仕掛けてきたりするのも面白い。相手にせずにゆっくり出るか、思い切り踏み込むかは、その日の気分。

さて、このスープラだが、排ガス規制や環境保護という点では時代に逆行する車なので、同種のGTRなどと共に、去年ついに製造中止になってしまった。そろそろ買い換えないとと思っていたのだが、もう作っていないとなると、よけいに手放すのが惜しくなる。エンジンの調子はすこぶるいいし、何よりも、国産車にこだわってきた私が、次に欲しいと思う車が今のところ見つからないのだ。この加速感覚に慣れてしまったら、普通の車じゃ納得できないだろうし、かといって、スポーツカーばっかり追求したら、きりがない。そして何よりも、私が一目惚れするような、ときめくデザインの車が全く見当たらない。

似たようなデザインの車ばかり作ってる国産車メーカーに告ぐ! 早くカッコイイ車を作らないと、外車に乗り換えちゃうぞよ!