LADYWEB 今回は男女とも出場したアテネ・オリンピックを振り返ってみたいと思います。まず男子のほうは残念ながらグループリーグ敗退をしてしまいましたが、試合内容的にはどうだったのでしょうか。
KOH先生 そうですね、たいへん残念な結果に終わってしまいました。それも2試合を終了した時点でグループリーグ敗退が決まってしまったというのは、正直ガッカリですね。試合内容も、本来の日本らしい戦いが見られませんでした。 LADYWEB 今回のチームであれば、決勝トーナメントへ行く力は充分にあったのでしょうか、それとも、やはり厳しかったのでしょうか。 KOH先生 日本はパラグアイ、イタリア、ガーナと同組で、大会前から「死の組」と言われていたグループです。確かにそうだったと思います。例えばアルゼンチンがいるグループでは、アルゼンチンが圧倒的に1位抜けするだろうけど2位争いは充分可能というような、そういう面もありますよね。でも、日本のいたグループは抜きん出る国は1つもなくて、しかも強豪揃いというグループでした。それでも戦い方によっては、日本はグループリーグ突破の可能性はあったと思っています。逆に3連敗もありうるとも思っていたので、ある意味ギャンブルな大会になってしまいました。 LADYWEB 1戦ずつ振り返ってみたいのですが、3-4で破れた初戦のパラグアイ戦はどうでしたか。 KOH先生 これはもう誰が観ても、前半立ち上がりの対処でしょう。パラグアイは伝統的に堅い守りからのカウンターが鋭いスタイルですが、日本戦では立ち上がりから3トップ気味にして日本ゴールに襲いかかってきました。日本は3-5-2なんですが、トップ下を置いているので3-4-1-2と言ったほうがよいでしょうか、特に左ウイングバックの後ろ、3バック左の前のスペースを突かれてきました。研究されていましたね。 ただ、パラグアイが立ち上がりから攻撃を前面に押し出した戦いをしてくるということは、このグループで日本から確実に勝点3ポイントを奪おうと考えられていたのかもしれません。言い換えると、日本だけが少し力が落ちると考えられていたのかもしれません。それで3ポイントを確実なものにするために、試合開始直後からゴールを奪いにきた印象があります。南米のチームが、力の劣ると見なした相手に対してよくやる戦い方でしょう。 LADYWEB 次に、2-3で破れたイタリア戦ですが。 KOH先生 この試合も初戦と同じですね。立ち上がりにやられてしまった。試合への入り方に問題があったと言わざるをえないでしょう。しかもイタリア戦では、ずっとやってきた3バックを4バックに変更してきました。この土壇場でチームマネジメントに迷いが生じたのでしょうか、あれだけの強化期間と強化試合を行ってきていながら、残念でしたね。 ともかくパラグアイ戦にしてもイタリア戦にしても、前半だけで3失点もくらうようでは、どんなチームでも非常に難しい戦いになるでしょう。それからこの試合で1-3で折り返した後半立ち上がりに、松井大輔が相手キーパーと1対1になった場面、あれを決めきれないどころか、後ろから追って来た相手ディフェンダーにシュートをさせてもらえなかったというのは、本当に情けないというか、ため息モノでした。 LADYWEB 最後のガーナ戦には1-0で勝ちました。 KOH先生 この試合はよく勝ったと思います。グループリーグ敗退が決まっているのに集中を切らさず、ガーナも決勝トーナメント進出がかかっていたわけで、その相手に対してようやく日本本来の戦いができたと思います。 LADYWEB 日本代表のよかった点と悪かった点はどこですか。 KOH先生 攻撃面において、最後までアグレッシブなプレーを見せてくれたことはよかった点だと思います。日本の選手たちについては、テクニックも悪くないという評価ですからね。それも、きれいごとになってしまわず、きれいなプレーをしようとせず、最後まで懸命にゴールを奪おうという姿勢を見せ続けてくれた点です。もっとも、相手ディフェンスを崩してのゴールチャンスというのは少なかったですから、しばしば決定力などと言われる最後のシュートの場面だけでなく、相手を崩せるイマジネーションや意外性ある攻撃力をもっと磨かなくてはなりません。 悪かった点は、これはもう第一にディフェンス面と言わざるをえないでしょうね。このチームは、立ち上げ時からずっと観てきて、ボールの落ち着かせ所が最後までなかったように思えますね。それがチェンジ・オブ・ペースもできないで、ズルズルと失点を重ねる要因の1つだったように思います。もう1つ、このチームとしての戦い方が最後まで定まらなかったのが残念です。谷間の世代などと言われていますが、タレントは揃っているわけです。でも、そこそこの駒が多すぎて、軸が安定せず、結局チームとしては完成しなかったという感じでしょうか。 LADYWEB オリンピック本番で、失点が多かったですね。 KOH先生 最終ラインで1対1の勝負を挑まれたら、身体能力的に劣り、歴史的・国際的なディフェンス経験値の高くない日本は絶対的に不利です。実際に、最終ラインでの1対1で何回もやられてしまっていますよね。ですから、最終ラインの前でのディフェンスというのが、非常に重要になってくるのですが、今回のチームではチーム全体の連動性あるプレッシングやディフェンスというのが見られなかったように思うんです。もちろん、最終ラインでも経験値が少ないなりに、もっと体の寄せを厳しくしていくとか、そうした部分も甘かったように思います。 これまでの国際大会での強豪相手の日本の戦い方というのは、まず相手の長所を消す、それは特にディフェンス面において、そういう戦い方だったように思います。今回のチームは、もしかしたら山本昌邦監督の大いなる実験だったのかなあ、と考えたりします。つまり、相手の長所を消すということを敢えて第一義とせずに、ある程度のリスクを承知の上で、特に攻撃面における豊富なタレントと思われた人材を生かして真っ正面からぶつかった時に、現在の日本全体の力量としてどこまで戦えるのか、そういうトライアルを実践してみたのではないでしょうか。もちろん、オリンピックという舞台でそういうトライアルを行うことが適切だったかどうかは、わかりません。ただ、いつかは実践してみなければならない過程・テーマでもあり、山本監督としては、それにチャレンジしてみたのかもしれません。そしてその結果は、ご覧のとおりです。まだ日本は、相手の長所を消すことから入っていかなくてはならない力量・底力だということでしょう。 ただし、そんな風に言うと、山本監督のトライアルを評価しているような発言になってしまいますが、決してそういうつもりではありません。あれだけの長い強化期間と強化予算を与えられ、それにもかかわらず、最後までチーム戦術やフォーメーションを含めて実験のようにすら見えるチームづくりに終始してしまった点は、多くのサッカーファンに限らず私も不満というより不納得です。本番で突然3バックから4バックに、しかも今までやったことのない選手起用・配置をしてみたり、最後の最後までチームの基本線を明確にできなかったのは、先に述べた大いなるトライアルがあったとしても、納得できるものではありません。 |