『スパイダーマン』のヒロイン役は、ミスキャスト?

キルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)
キルスティン・ダンスト
(Kirsten Dunst)
弱冠19歳ながら、『スパイダーマン』のヒットにより、その名を世界中に知らしめた、キルスティン。ですが、彼女が脚光を浴びたのは、これが最初ではありません。3歳のころからテレビCMなどで活躍してきた彼女は、その才能を期待されている、若手の実力派なのです。

1982年、ニュージャージー州に生まれたキキ(キルスティンの愛称)。彼女には持って生まれたカリスマ性があり、実に生き生きした表情で、70本以上の CMに出演するほどの売れっ子でした。1989年には、『ニューヨーク・ストーリー(New York Stories)』で映画デビューを果たします。学校が終わると、母親と一緒にニューヨークに通うという生活をしていたキルスティンですが、1992年家族でロサンゼルスに引っ越しをし、本格的に映画に打ち込めるようなりました。そして、一躍脚光を浴びるキッカケとなる作品に出演します。それが、1994 年の『インタビュー・ウィズ・バンパイア(Interview with the Vampaire)』の少女役です。

彼女は、この作品で、吸血鬼になったがために、成長をすることも、大人の女性の体になることもできず、深く嘆き悲しむ少女、クローディア役を演じます。その様子はとてもリアルで、かつエロティックで、見る人に強烈なインパクトを与えました。私も見ましたが、とても12歳の少女とは思えないほど、妖艶な色気がありました。キルスティンの演技は、ゴールデングローブ賞にノミネートされるほどで、共演したトム・クルーズやブラッド・ピットが霞むほどの存在感を示したのです。トムは「この少女は、まるで35歳の女優並みの経験があるように見える」とまで言っています。

そんな彼女でしたが、その後、あまりメジャー作品には出演していません。2000年には、『チアーズ!(Bring It On)』で、元気いっぱいの、陽気で純朴なチアリーダー役を演じました。そうかと思えば、その翌年の『クレイジー・ビューティフル(Crazy/Beautiful)』では、金持ちの家に生まれながらも、反抗的で、ドラッグ中毒の高校生役を演じるなど、意欲的に自分のイメージをガラリと変えてみせたりもしました。この映画ではやや濃厚なラブシーンもあったのですが、共演者や監督から、「なぜそんなに落ち着いていられるのか」と驚かれるほど、彼女はベテラン女優のように、リラックスして臨んでいました。メジャー作品ではないにしても、大人の女性の魅力を兼ね備えていった彼女は、着実に評価を上げていたのでした。そして、ついに『スパイダーマン』への出演を果たすのです。

彼女をトップスターへと押し上げた『スパイダーマン』のヒロイン役は、大抜擢だとは思います。ですが、私としては、この作品で彼女の個性が生かされたとは思えません。彼女は、こういったCGを駆使したスーパーヒーローもののヒロインなんかよりも、もっと人間味のある深い作品に出演してほしいと思っています。個性と演技力が問われるような作品ほど、彼女の本領が発揮されるのですから。

ハリウッドのトップスターともなれば、出演依頼もたくさん来るようになり、当然、脚本を選ぶこともできます。キルスティン本人も、自分の実力に自信を持っていますし、目的意識もはっきりしています。ただ、ハリウッドでは出演作を選ぶ場合、本人の意向よりも、所属エージェントが決定の鍵を握るケースが多いのです。莫大な出演料が入るからといって、目先のことに惑わされ、彼女の実力が発揮されないような作品に出演してほしくはありません。きちんと将来を見据えて、彼女がこれからも成長できる、作品選びをしてくれることを期待しています。そして、ヒラリー・スワンクや、ジュリエット・ルイスのような、独特の存在感を持った女優に育ってほしいものです。

キルスティン・ダンストは、本物の大女優になる可能性を秘めている、“金の卵”なのですから。
カオリ・ナラ・ターナー
日本人初のメイクアップ・アーティスト・ユニオン正式会員であり、ハリウッドで働くメイクアップ・アーティスト。アカデミー賞受賞作品『アメリカン・ビューティー』や人気テレビ番組『アリー・myラブ』などで活躍する他、後進の日本人の指導にも精力的にあたっている。