Vol.28 ウエディングの小さな流行

ツユムシこんなに暑い夏はなかったのではないか、というほど猛暑だった日々。そんな中、ふと訪れた場所で、心和む小さなものを発見しました。葉でつくった繊細な虫。もしかしたらツユムシをイメージしてつくられたものでしょうか。水辺にチョコンととまっているようなその姿に、思わず心惹かれ、私自身も水浴びでもしてしまいたい気持ちになりました。

このような、夏真っ盛りの日々ですが、資材屋さんではそろそろクリスマスの資材などが店頭に並ぶころで、ハロウィンを思わせる器などはすでに目にするほどです。毎年のことながら、8月が終わると、連休のある9月はあっという間に過ぎ、忙しい12月へのカウントダウンが始まるようですが、その前に秋のウエディングシーズンが訪れます。

思い返すと、ウエディングフラワーにも、様々な流行がありました。ブーケだけを見ても、何十年か前には胡蝶蘭、その後、ユリのカサブランカ、そしてユーチャリスなど、芸能人が持ったブーケの花が流行の発端となったりもしました。そして、ひとつ流行ると、皆さんそれ以外の花は見えなくなるほど、その花に思いを寄せてしまうのか、ある意味、花の人気の偏りのようなものがあったようにも思います。

花冠

アーティフィシャルでおつくりした花冠

最近は、そのようなことも少なくなってきた気もしますが、小さな変化ながらも、やはり流行だと感じるものがあります。まず、そのひとつが“花冠”。 ここ数年間は、ウエディングフラワーの必須アイテムとなっているようで、とても人気のように思います。先日、何かの記事で見ましたが、なんと最近は、花冠をつけて街を歩く女子中高生もいるらしいのです。確かに私も一度、電車のホームで、普段着に花冠をつけた若い女性を見たことがあり、かなりの違和感を覚えましたが、お姫さま気分になれるということで、若い女子中高生に人気のようなので、ウエディングドレスを身にまとう女性にとっては、より一層魅力的なもの、というのも納得です。

ウエディングの花冠は、花一輪ずつにワイヤーをかけ、それらを組み合わせてつくる、かなり繊細な作業を必要とするものです。生花だけではなく、アーティフィシャルフラワーでつくることもあります。たとえば、お色直しで花冠をつけたい場合などで、挙式場所までのお届けに時間がかかる時は、保水の充分でない生花でつくることで花の水が下がってしまうよりは、そのような心配のない、アーティフィシャルでつくるほうが安全という考え方もあるのです。もちろん、ブーケが生花であれば、花冠も生花でつくるのがベストですが、ブーケの生花にピッタリのアーティフィシャルを選んでつくるのも、選択肢のひとつではないかな、と思います。ちょうど、そのようにしてアーティフィシャルで最初におつくりした花冠が、「Vol.20 失敗が、不思議なご縁に…」に記した、お色直し用のものでした。

シェアブーケ

花嫁用ブーケとは別にご用意した、ミニシェアブーケ

そして、もうひとつ、流行かなと感じられるのが“シェアブーケ”。ブーケを差し上げるのを一人に限定せず、何人かの方に差し上げたい、という思いから始まったもののようです。ウエディングで定番のブーケトスをおこなう場合、花束タイプでないブーケや、キャスケードブーケなどの大きなものを投げてしまうと、ブーケの破損が考えられたり、受け取る側も危ないですから、花束タイプの小さなクラッチブーケを別にご用意し、それをブーケトスとして投げ、一人の方が受け取る、というのが一般的でした。また、ブーケから何本かのリボンが下がり、そのうちの1本がブーケとつながっていて、ブーケを受け取れる、という形式のブーケプルズも、プルズ用としてリボンがついたブーケを別に用意したりもし、ブーケを受け取る方はお一人でした。ただ、ご自身が持ったブーケを、複数の方に差し上げたいという花嫁もいらっしゃり、いくつかに分割できるブーケ、つまり“シェアブーケ”を依頼される方が、増えてきたように思います。小さな花束タイプのブーケを2〜3合体させ、ひとつのブーケに見えるようなものです。花嫁が持つブーケとは別に、シェア用ということで、小ぶりなミニシェアブーケをご用意する場合もあります。ブーケが分かれる=別れる、ということで、言葉として少々気になることを解消しようと“シェアブーケ”という名がついたのだと思いますが、ひとつのブーケと思いきや、サプライズ演出のような形で、数人にプレゼントというのは、とてもよいアイディアではないかと思います。

シェアブーケ

ご新郎のご家族に差し上げたいとご依頼を受けた3シェアのブーケ

先日シェアブーケをご依頼いただいた花嫁は、地方在住で、新居も地方になるとのことでしたが、ご新郎の実家がある東京で、挙式とご親族のパーティーをされるとのことでした。生花のブーケをご注文されましたが、新郎新婦と花嫁のご家族は、飛行機でお帰りになるとのこと。そこで、当日花嫁が持たれたブーケは、ご新郎のお母さま、そしてお姉さまと妹さんに差し上げたいという、心優しい思いから、3つにシェアできるブーケを、というご相談を受けました。じつは、そのお姉さまというのは、10年ほど前のご結婚の際、私にブーケを依頼くださった女性で、そんなご縁から、今回のブーケもお引き受けすることになりました。そのお姉さまからは、ご結婚時のブーケのご依頼を受けて以降、母の日をはじめ、何かの折に、フラワーギフトのご注文をいただいていましたので、ご家族のお花好きは、私も知っていました。シェアブーケは、いくつかの小さな花束タイプのブーケを合体していながら、ひとつのものに見えるようにつくるので、手間もかかり少々難しい場合もあるのですが、受け取ったご新郎のご家族はきっと喜ばれるのでは、と私も確信しました。

今回のシェアブーケは、オフホワイト色のバラに、淡い紫色の小花を添えたものでした。思えば、10年ほど前にご結婚され、私にブーケをご依頼くださったご新郎のお姉さまのブーケにも、似たようなバラを使ったのを記憶しています。偶然かもしれませんが、これも花の不思議な力のお蔭でつながったご縁があったからこそ、手がけることのできたシェアブーケのひとつだったと思っています。

〜シェアブーケを依頼する際のポイント〜

ブーケは、その形のみならず、つくり方にもいくつかの方法があるのをご存知かしら。現在主流なのは、ラウンドやキャスケードなどのように、ブーケホルダーと呼ばれる吸水性スポンジに花を挿してつくるタイプのものと、クラッチブーケのように花束のような要領でつくって、茎の切り口を揃えたものです。シェアブーケは、クラッチブーケがいくつかに分割される、逆にいうと、小さな花束が合体してひとつのクラッチブーケになっている、というイメージですね。というわけで、花の種類も、バラなどのように、クラッチブーケに適したものを選ぶことになるでしょう。また、いくつに分割するかについては、花の種類にもよりますが、5分割以内くらいにしたほうがよい気がしますね。そして、分割したあとの持ち帰り用紙袋や保水用ゼリーなど、私は必要数を用意し、ブーケと一緒に納品しているんですよ。ブーケに使う花の種類や、持ち方、分割方法のみならず、そのあたりのことまで細かくご相談されるとよいかもしれないですね。

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