Vol.24 生産者さんたちとの大切な出会い

雪都心でも、これほどまでに雪が降るものかと驚いた2月。予想を超える積雪量となり、"あたり一面銀世界"とは、こういうことかと思ってしまう日々でした。アトリエのテラスで、ほんの少しだけ芽を出した水仙が、キラキラとした白い雪に覆われた光景を見ながら、雪の中でも力強く芽を出す植物の姿に、いとおしさも感じました。しかし、小さな小さな春を告げようとしていたところに、それをさえぎるかのような雪が訪れたことを、少し残念に思った日々でもありました。

テレビでは、大雪による被害を伝えるニュースが幾度となく流れましたが、その中のひとつに、野菜や果物を栽培するビニールハウスが、大量の雪により倒壊し、産地が甚大な被害をうけている、というニュースも何度か放映されていました。そのような映像を見て、とっさに頭をよぎったのは、お花の産地さんたちは大丈夫だろうか、ということでした。

私がいつもお花を仕入れる市場では、仲卸業者の営業時間にあわせて、お花を生産している方々がいらっしゃり、交流を図れるという機会が、ここ数年、年間を通して何度もおこなわれています。どの生産者さんも、生産しているお花が、いちばん多く出荷できる時期にいらっしゃることが多いようです。その方々の手がけたお花を拝見し、向かい合って話をしながら仕入れられるチャンスがあるというのは、私たち、花に携わる仕事をしている者にとっては、非常に有意義なことです。また逆に、生産者の方々にとっても、お花を購入している私たちと、そのように話をすることで、実際にはどういうお花の需要があるのか、またどのような品種が売れ筋だったり、アレンジや花束に使いやすいのかなど、買い手である私たちからの参考意見を聞ける、というメリットもあるようです。

トルコキキョウ

荒川さんのトルコキキョウを入れたアレンジ

そのように生産者の方々のお顔を拝見して仕入れたお花が、どのような形でアレンジされ、お客さまのもとに届けられているのかを、生産者の方々も知りたいのではないかと思い、時々ではありますが、アレンジした写真をできるだけ彼らに送るようにしています。育てた子供たちは、こんなふうに羽ばたいています、ということを伝えたい私のささやかな気持ちでもあるのです。

今まで、写真をお送りした中のお一人、秋田県で様々な種類のトルコキキョウを生産する荒川さんへは、ピンク色で、フリフリとした、少し小ぶりな八重咲きのトルコキキョウが入ったアレンジの写真を送ったことがあります。季節は秋。フルートのリサイタルへのお祝い花ということで、華はあるけれど、おおげさではないものというリクエストで頼まれたギフトでしたので、少し大きなお花を入れたほうが映えるのでは、との思いから、赤いアマリリスを中央にのみ配置し、トルコキキョウは脇役としてアレンジしました。トルコキキョウが主役となっているアレンジではなかったので、写真をお送りしようかどうか迷ったのですが、思い切ってお送りしたところ、心温まるお礼があり、こちらのほうが感激してしまいました。トルコキキョウが主役ではなかったけれど、そのアレンジには、トルコキキョウが入ったからこそ、中央に配したアマリリスも際立ち、その花自体も輝いたのでは、と思っています。それは、たとえば、バラでも、カーネーションでもなく、トルコキキョウだったからこそ、そして、荒川さんが生産していらっしゃるトルコキキョウの中でも比較的小ぶりな程よい大きさだったこともあり、そのアレンジがお届け先の方にもたいへん喜ばれるように仕上がったのだと思っています。

ダイアモンドリリー

横山さんのダイアモンドリリーを取り入れたリース

さて、お花の産地というと、地方を想像する方が多いかと思うのですが、じつは東京都内で、ダイヤモンドリリーというお花を生産している、横山さんという方がいらっしゃいます。23区内ではないものの、都内と伺い、最初はかなり驚きました。しかもそれが、まるでダイヤモンドを思わせるような美しさなのです。横山さんとも市場でお会いしました。ダイヤモンドリリーを一般の方々にも広く知ってもらいたい、という思いからでしょうか、手渡された手作りの小さなパンフレットには、こんな説明文が。

「輝く花、ダイヤモンドリリー。花言葉は、幸せな思い出。南アフリカ原産の、ヒガンバナの仲間です。不規則な形をしている表面の細胞が光を反射し、まるでダイヤモンドのようにキラキラと輝く。秋にしか咲くことのできない宝石のようなこの花。見ている人の目を輝かせ、楽しませ、自然と会話が生まれてしまう、魅惑の花。この輝きを一人でも多くの人に伝えてほしい。花の輪が広がり、みんなに笑顔が輝く明日がきますように。」

横山さんの思いが伝わるような文章でした。

パンジー

石井さんのパンジー"ムーラン"

そして、東京の北、埼玉県でパンジーのムーランという品種の生産している石井さん。フリル咲きのタイプは、昨年2月におこなったレッスン生徒展示会で、使いました。天井からつるしたアクリル板に、一輪挿し用のピックを取りつけ、そこに春の訪れを感じさせるお花を挿せればと思っていました。パンジーを考えていましたが、とくにフリル咲きの石井さんのムーランには一目ぼれでした。アレンジ全体の写真は、正直あまりよく写ってはいませんでしたが、アップで写した写真とともに数枚をお送りしたところ、「たくさんの1輪挿しが天井からきれいですね。実際の質感は想像できます。」とありがたいお返事をいただきました。 まだまだ、数えきれないほどの生産者の方々とお目にかかり、お一人ずつを紹介したい気持ちでいっぱいですが、それはまた別な機会にでも、と思います。

最近は、野菜なども、○○さんが生産したもの、というような表示があったりして、同じ種類の野菜でも生産者による違いを感じることがあるかもしれません。じつは、それと同様に、同じ種類のお花でも、生産者さんによる質の違いがあるのです。このように、今まで市場でお目にかかった方々は、良質なお花を育てるために、日ごろの細かな作業を怠ることなく、丁寧に愛情込めて、丹念に取り組んでいる方々でした。市場にいらっしゃると決まった当日は、かなり早朝、もしくは夜中から市場に待機され、遠くは九州からの生産者の方もいらっしゃいました。前日の夜に車で産地を出発される方や、前日から泊りがけでいらっしゃる方もいるのでしょうか。今まで、そうして何人かの生産者さんにお会いしましたが、さすが、質のよいお花を生産しているだけあって、どの方々も非常にひたむきで、一生懸命。私たちの話に真摯に耳を傾ける姿には、いつも頭が下がる思いがしています。そして、生産されているお花には、その方のお人柄がにじみ出ているようである、ということも、実際にお目にかかって深く感じたことでした。きっと、生産者のみなさんも、私と同じように、花の不思議な力を感じながら、すばらしい花々を育てているのだと思います。

今回の大雪では、群馬県をはじめとする地域で、被害にあわれた生産者の方々が多かったと聞きました。栽培し出荷できるまでに年月を要するものなので、それをまたゼロからスタートされるのは、私たちには想像もつかないたいへんな道のりなのだと思います。とくにご高齢の生産者の方は、これを機にやめてしまう方もいらっしゃると聞いています。生産者の方々が心を込めて手がけてくださったお花だったからこそ、花の不思議な力に触れることができました。今度は、生産者の方々が心を強く持てるように、できるだけ多くの人々に、その力を伝えていければよい、と思っています。

〜 質のよいお花を選ぶために 〜

今回、質のよいお花を生産している産地さんたちのお話をしたので、質のよいお花を選ぶためには、ということで、ちょっとだけお話しますね。同じ品種のお花でも、質のよいものとそうでないものでは、美しさが格段に違いますね。新鮮である、ということが大切ですが、たとえば、同じ品種のバラであれば、花の形も整って大きく、花びらが多くて、葉や茎もしっかりしているものがよいですね。例外もありますが、一般的には質のよいお花のほうが値段は高いと思います。ただ、お花のもちは全然違いますよ。

花屋さんには様々なタイプがあって、置いてあるお花は、品種の違いにかかわらず、おおよそ一定な質のレベルで揃っていると思いますから、色々なお店をのぞいて、ここぞ、というお花屋さんを探してみてください。そのお店で、自分自身でお花を少しだけ購入して、実際に飾って確かめてみるというのも、ひとつのアイディアかもしれませんね。そして、お花の向こうにいる生産者の方が、どんなふうにそのお花を育てたのかも想像してみてくださいね。

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