Vol.23 新しいウエディングのかたち

浮かせ花今年の夏は、あまりに暑かったので、水浴びをしたり、プールで浮いてしまいたくなるくらいでした。こんな暑さから、水をはった器に花を浮かせる、涼しげな浮かせ花を楽しまれた方もいらしたのではないでしょうか。浮かせ花は、数輪のお花で充分な上に、手軽に飾れるのでおすすめです。私も、この夏は、花瓶に飾った1本のデンファレが、あと数輪を残すところになった段階で、浮かせ花としてアレンジし、別なテイストで楽しんだりしました。さて、そんな暑い夏も、遠ざかったように感じる今日。花業界では、秋のウエディングシーズンが始まっています。この季節は、気候もよく、祝日も多いので、結婚式が多くおこなわれるというのは納得です。

夏の終わりに、もうすぐウエディングの季節と考えていたところ、読売新聞に"結婚式をまるごと自由設計 〜フリーのプランナーと〜"という、たいへん興味深い記事を見つけました。記事には、結婚式をフリーのウエディングプランナーに依頼して作り上げるスタイルが、最近注目されている、という文章からはじまり、個性に合わせた結婚式を望む新郎新婦が増える中、会場や衣装選び、披露宴の演出などの相談に乗り、企画をおこなってくれる彼女たちが心強い存在となっている、とのことで、実例とともに記されていました。

比較的多くの披露宴会場で、衣装やお花、写真、引き出物などを、会場の提携先からしか選ぶことができない場合がある、ということは皆さまよくご存じだと思います。そして、会場内にいらっしゃるウエディングプランナーのことは、よく耳にしますが、会場という枠組みを超えたウエディングプランナーの存在がある、ということは、あまり知られていなかったように思います。

ブーケ&ブートニア

ケリーというバラを取り入れたラウンドブーケ。

私は、この記事を見て、非常にうれしい思いがしたのと同時に、少し懐かしい気持ちで、あるカップルのウエディングを思い出しました。数年前に、ホテルのレストランで披露宴をおこない、ブーケと会場のウエディングフラワーを、私にご依頼くださったお二人です。できる限り、お二人にゆかりがあり、感性のあう方々に、結婚式を手がけてほしい、との思いがあったようで、御新婦が、私のレッスン生徒さんのご友人で、数回お目にかかったことがあるというご縁から、お話をいただきました。ホテルのレストランでの披露宴と伺って、まず彼女に確認したことは、会場に飾るお花を、レストラン提携の花業者以外が持ち込んでも大丈夫なのか、また、もし可能な場合でも、持ち込み料が発生するのではないか、ということでした。通常、ブーケの持ち込みは可能なところが多いのですが、会場のお花については、持ち込み不可や、可能であっても持ち込み料が発生するところもあるのです。この時は、大変幸いなことに、持ち込み料もなしで大丈夫、ということで、ホッとした覚えがあります。

ブーケのご希望は、グレース・ケリーが着用したウエディングドレスに、似たイメージのものを着る予定なので、それにあうものを、ということでした。ここ何年も、ビスチェタイプのウエディングドレスが主流となっている中、レース素材が上品な、長袖のクラシックな印象のドレスでしたので、モナコの古城で式をおこなっているようなイメージで、ブーケのデザインを考え、ケリーという品種のバラでつくりました。シンプルで、和気あいあいとした披露宴にされたいとのことから、会場は、メインテーブルと、ゲストテーブルに飾るお花をご依頼いただきました。バラがお好きなご様子でしたので、秋らしく、少し落ち着いたピンク色のグラデーションを中心に、ホテルのレストランということで、少し華やかに仕上げました。披露宴お開き時、会場のお花をお客さまたちにお持ち帰りいただくため、袋詰めに伺ったのですが、満面の笑みがいっぱいの会場内を拝見した時は、その場の皆さまがとても幸せな気持ちになれる披露宴であったのだろう、と胸が熱くなりました。お開きのご挨拶で、ご新郎が「通常のスタイルとはずいぶん異なる、自分たちらしい披露宴を実現するために、お力添えをくださった方々に、たいへん感謝いたします」とおっしゃったことも、印象に残っている言葉でした。

メインテーブル

落ち着いたピンク系のバラでつくったメインテーブルアレンジ

お二人にゆかりのある方々に、結婚式を手がけてほしいという思いから、お花持ち込みの件をはじめ、たしかによくあるスタイルの披露宴とは少し異なっていたと思います。しかし、たいへんお二人らしい披露宴がおこなわれたと感じ、その方々らしい披露宴にすることが、いかに大切であるかを改めて学びました。お花をはじめ、ご自身たちの手で選んだ方々にも依頼できたことが、この上ない喜びになったことでしょう。

ただ、持ち込みに関しては、会場としてはおそらく、提携業者からの納品であれば、利害関係とともに、会場内のことなどをすべて最初から説明しなくてもよいわけですから、非常に消極的になってしまう、ということもまったく理解ができないわけでもありません。たとえば、その時の場合ですと、事前に私が会場を下見に伺った際に、会場内の様子や、テーブルのサイズ、クロスの色、また、搬入口からレストランへの経路の説明などなど、担当の方に改めて時間をつくっていただく必要もあり、たいへんお手数をおかけしたと思いますが、非常に丁寧に対応してくださったことが、とてもありがたかったのです。また、会場が持ち込みに消極的になる理由としては、きちんとしたプロの業者が持ち込んでくるのかどうか、という不安もあるかと思います。たしかに、私がホテルの花屋で働いていたとき、趣味でお花を習っている、新婦のご友人がつくったというブーケが、ブーケとして持てないような状態で持ち込まれた、ということもあった気がします。

卓上花

そのまま持ち帰っていただけるデザインのアレンジを置いたゲストテーブル。

しかし、このような状況はあれど、今回の「フリーのウエディングプランナーが、新郎新婦にとって非常に力強い存在になっている」という新聞記事を読み、そのカップルらしい結婚式を実現させるために、会場の持ち込みへの門戸が開かれることを願うばかりです。そして、新郎新婦からはもちろん、会場の方たちからも「提携先の花業者ではないけれど、とてもよかった」と思われるように、技術とともに、心を込めて取り組んでいくことが大切ではないか、と思いました。

ウエディングブーケや、ウエディングフラワーの仕事をおこなっていると伝えると、「どこかの会場と提携しているのですか?」と尋ねられることが時々あります。答えはノーで、過去に数年、1軒のレストランから依頼をされてウエディングフラワーをおつくりしていたことがありますが、現在私は、どこの会場とも提携はしていないのです。こんな小さなアトリエを構える身ですが、だからこそ、会場の提携先だから、ということではなく、私に依頼したいな、と思ってくださった方におこたえしたい、と思うのです。そして、それが、今まで私に結婚式のお花を頼んでくださり、花の不思議な力でつながることができた、新郎新婦への感謝でもあると思っています。


〜 ウエディングフラワーを持ち込む際のワンポイントアドバイス 〜

ウエディングフラワーの依頼先ですが、今回記したように、フリーのウエディングプランナーにお願いしたり、ご自身で色々と見つけない限りは、おそらく会場の提携先であるお花屋さんにお願いすることになると思います。持ち込みについては、会場にとってのデメリットもたしかにありますので、消極的なところも多いかも知れませんが、持ち込みOKだったの? というところも意外とありますから、意中のお花屋さんやデザイナーがいるならば、ダメもとで尋ねてみてもよいかもしれませんね。私が今まで手がけたウエディング会場の中にも「えっ、意外や意外、この会場って持ち込み大丈夫だったのね」というところもありましたよ。そして、持ち込みにするからには、ご自身の満足度とともに、信頼できるお花屋さんを選ぶことも大切ですね。持ち込む品物がきちんとしたものであることはもちろん、会場の方に対する接し方など、とても細かいことですが、ウエディングに携わった方の多くがハッピーな気持ちになれる、ということもポイントのひとつ、ですね。

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