Vol.18 お客さまとともに手がけた、母の日物語

母の日5月の第2日曜日は母の日でした。母の日といえば、まず思い浮かぶのがカーネーション。子供の頃は、お花屋さんで赤いカーネーションを1本買って、母にプレゼンしたものです。もしかしたら、この頃から、花1本に人の心を動かす不思議な力がやどっていることを感じていたのかもしれません。その頃は、母の日のカーネーションというと、赤い色が定番でしたが、最近では、淡いオレンジ色のドヌーヴや、淡いピンク色のマーロという品種に代表される、パステル系の色のものから、アンティークな色のものまで、じつにさまざまな品種が出回っています。バラほどの香りはしないまでも、ほんのりとした香りが心地よいカーネーション。母の日に改めてこの花の良さを感じることも多いですが、カーネーションにこだわらず、お母さまらしい花を、心のこもったアイディアたっぷりで贈られる方もいらっしゃいます。

私のお客様、佐知子さんもその1人。彼女とは、もともと友人の仲でしたが、今は素敵なお客さまの1人でもあります。かれこれ10年位前からでしょうか、母の日には毎年、お義母さまへのお花のプレゼントを依頼くださっているのです。佐知子さんの依頼の仕方は、じつに簡潔。まず要点とご予算をおっしゃり、あとは私のセンスにおまかせ、という具合。要点というのは、例えば 1種類だけ花の指定をされることもありますし、具体的な花はおっしゃらずに、おおよその色合いを希望されることもあります。また、予めご自身で購入したプレゼントを持ち込まれ、そのプレゼントを取り入れて、このようなイメージでと、花に関してはまったくおまかせのアレンジで、ということもありました。詳細な指定をされずに、要点だけをおっしゃっていただくと、こちらも発想の幅が広がるのです。そして、佐知子さんの意向を私が形にするという、そこからの共同作業ともいうべきものは、私にとっても、じつに楽しい仕事なのです。

母の日の花屋さんはどこも、数をこなすのに大忙しです。おそらく一年中で、一番忙しい日なのではないでしょうか。でも、母の日だからこそ、ほかの花屋さんではなかなか手がけてもらえないようなアレンジを提供したいと思うわけで、今まで手がけたアレンジで、印象深いものはいくつかあります。

修道院

ちっちゃなエンジェルを額縁に入れて。

まずは、プレゼント持ち込み編、というところでしょうか。佐知子さんのお義母さまは、エンジェルがお好きとのことで、エンジェルとともにアレンジしたお花もいくつかあります。

今から7年ほど前には、とてもちっちゃなエンジェルの置物をお持ち込みになりました。アンティークショップで購入なさったような印象で、エンジェルの体長は5cmくらいだったでしょうか。置物というより、カード立てのような感じだった気もします。さて、この小さなエンジェルを取り入れてのお花のリクエストは、白&グリーンで修道院をイメージするような雰囲気でとのこと。修道院? と思いましたが、ふと考えたら、私は、一度だけ修道院を訪れたことがあるのです。場所はイギリスでしたが、そこは広い庭や食材用の畑があり、庭に素朴な木のベンチがあったのを覚えています。だからでしょうか、なんとなくエンジェルが修道院の木のベンチに座って、まわりを花で囲まれている風景を演出してみたくなったのです。このアイディアを佐知子さんに提案したところ、すぐにOKのお返事をいただきました。器は、木の枝を組み合わせたような、ナチュラルなバスケットに決めました。さあ、次はアレンジのデザインです。小さなエンジェルを主役にして、さらに存在感を出すにはどうしたらよいだろう、と。そこで考えたのは、エンジェルが額縁に入っているように見せるデザインでした。フトイという植物を上手に折って、エンジェルの周りを額のように囲いました。ただし、フトイは、和のテイストも少々あるため、アイビーをからませて洋風な雰囲気にし、ツタのからまった修道院をイメージさせました。

エンジェル

結構大物のエンジェルが座る花時計アレンジ

母の日当日、このアレンジを受け取りにいらした佐知子さんは、ご覧になった途端に満面の笑み。私は、このちっちゃなエンジェルに少し愛着がわいてきていたところなので、お渡しするときには少し寂しい思いもするほどでしたが、「幸せにね」という温かい気持ちで、花とともに送り出しました。

さて、次の年。ギフト用に佐知子さんがお持ちになったのは、同じエンジェルでもかなり大きなものでした。持ち込まれる前から結構大物とうかがっていて、イメージは、花時計に座るエンジェルとのことだったので、ならばいただいたご予算だとこういうことができるかな、というアイディアをイラストに描いてお伝えしていました。お持ちいただいたのは、確かに大物のエンジェルでした。体長40cmくらいはあったでしょうか。器として使ったのは、周りにリボンを巻いて装飾した深めの鉢皿。その中央にエンジェルを置き、花時計の1時から12時までをカーネーションとバラで表現し、アジサイの花を敷き詰めるようにアレンジしました。5月の母の日近くは、美しい鉢物のアジサイも出回るので、鉢から切ったアジサイを良くアレンジに使います。母の日当日、"花時計に座るエンジェルアレンジ"を嬉しそうに抱えながらこのアトリエを後にした佐知子さん。この時のエンジェルもきっと幸せな日々を送っていることと思います。

ダリア

昨年は、ダリアがアレンジのポイントでした。

こうして、プレゼントを取り入れるアレンジだけでなく、昨年は、お花だけのアレンジを依頼されました。そのリクエストの内容は、ダリアの花を入れた、はっきりした色合いのアレンジ。そして、器のまわりにラッピングペーパーをあしらってほしいとのことでした。おそらく、なにかのサイトで似た雰囲気のアレンジ写真をご覧になったのでしょうか。でも、そこで、その写真と同じアレンジをと依頼されないところが、私にとっては非常に嬉しいのです。例えば、花の色や種類、ラッピングペーパーの色まで指定されてしまうと、アイディアの幅がなくなってしまい、私らしいアレンジを作れる可能性が狭まってしまうからです。そこで、まず私がメールで「はっきりした色合いのアレンジって、いわゆる日本でいうパリスタイルのアレンジに近い印象のものかしら。」と質問。すると、佐知子さんは、パリスタイルのアレンジをインターネットで検索し、イメージに近い色合いをいくつか示してくださったのです。「パリスタイルのアレンジって初めて聞いたけれど、こういう色合いや生け方のアレンジのことをいうのね。」と、パリスタイルという言葉をはじめて認識されたようでした。さあ、できあがったアレンジは、オレンジ色のダリアと、イヴピアッツェというフランス生まれの香り高いバラを入れ、スカビオサの実や、ジャスミンでアクセントをつけたもので、私流のパリスタイルのものになりました。そして、このアレンジを手がけて私も気づいたことがあります。器のまわりにラッピングペーパーをあしらうと、かなり豪華な印象になるということです。私は今までそのような装飾を行っていませんでしたが、これは、このアイディアをくださった佐知子さんからのプレゼントだと思って、その後時々そのアイディアを使わせていただくことがあります。

このようにして、佐知子さんと一緒につくってきた母の日アレンジ物語も、早や10年以上。今年の母の日も、佐知子さんからは、今までにない特別なアレンジを依頼されました。どのようなデザインなのかは、次回にお話することで、お楽しみに、という事にしたいと思いますが、長年にわたる、このような母の日アレンジ物語ができたのも、花のもつ不思議な力のおかげなのかもしれません。

〜 特別なアレンジについてのワンポイントアドバイス 〜

バスケットに花をあしらった、いわゆるよくありがちなアレンジではない、なにか特別な思いの伝わるアレンジを贈りたいことってありますよね、きっと。私のようなフローラルデザイナーをはじめ、花屋さんでも、手がけてくれるところがあると思いますよ。少々乗り気でないお店もあるかもしれませんが、どうしてそのようなものを贈りたいか、という気持ちがうまく伝わると、多少のオプション金額はかかるかもしれませんが、快く引き受けてくださるお店もあるのではないでしょうか。

先日も、友人がちょっと個性的なアレンジをプレゼントされていました。その友人はアレンジを見た途端「これ、どういう風な依頼でしたか?」と質問。「沖縄をイメージした感じでと言われたので……。」と届けた花屋さん。はい、その友人は沖縄好きなんです。受け取る側も、お花を見て、これは! という、依頼者の特別な思いをちゃんと感じることも大切なのですね。

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