Vol.16 フラワーギフトに感じる、さまざまな思い

いちょう12月に入り、東京のイチョウも色づいてきています。黄金色に染まった葉が落ち始め、木の下の地面というよりは、落ち葉を踏むたびに、サクッサクッと音がするのも、もうすぐでしょうか。

美しい紅葉の季節が終わると、もうすぐクリスマス。花業界では、秋、そして、年末にかけてが、長期に渡って忙しくなる時期だと思います。集中的に忙しくなる母の日前後とは、また少し状況が異なり、終わりの見えない忙しさといいますか、言葉は悪いですがダラダラと忙しいというところでしょうか。秋は気候もよく、祝日もあるため、ウエディングが多く、その後、御歳暮やクリスマスギフトの季節、そしてクリスマスが過ぎると、息つく間もなく、年末の12月31日までお正月のお花に携わるという具合です。

夏の暑い季節は、一般的にフラワーギフトのご注文は少なく、今年は私も例外ではなかったので、仕方がないかなと思っていました。しかし、真夏が過ぎ、10月にさしかかろうとしても、なかなか難しい状況で、私としても少し焦りはじめていました。このご時世、廃業を余儀なくされる同業者がいらっしゃることなど時々耳にすることもあるので、少し不安になるのは当然なのかもしれません。

ブーケ

このブーケが、印象に残っていたようです。

そんなことが頭によぎっていたある日、このアトリエの窓ガラスをふと見たところ、9月の台風の影響もあったのか、ガラスが汚れている状況が目に映りました。よく、この場所にある物を置くと運気が上がるなどいわれ、それを参考になさるかたなどもいらっしゃるようですが、私はそういうことはあまり気にしないほうなので、今までは何も気にとめていませんでした。ところが、そのガラスを見た途端、部屋をきれいにしなければという思いとともに、もしかしたらこのガラスの汚れのせいで、外から入る何かをストップしてしまっているのではないかとふと思って、すぐさまガラスや網戸の掃除をしました。

ガラスはピカピカとなり、やはり窓や部屋がきれいなのは気持ちがよいことと単純に思っていた数日後、2007年にウエディングブーケをおつくりしたお客さまから久しぶりにご連絡がありました。聞いてみると、来年結婚するご友人が、私にブーケを依頼したいとおっしゃっているとのこと。そのお客さまの結婚式に出席された際、そのご友人が、私の手がけたウエディングブーケが気になっていらしたようで、ご自身の時にはぜひと思ってとご連絡があったようなのです。何年も前に見たブーケのことを思い出してご連絡くださった、そのご友人にも感謝ですし、久しぶりにその方ともお話できて感慨深い気持ちになりました。

そんなうれしい出来事があった後に、今度は、フラワーギフトのご依頼をいただくことが多くなり、11月は懐かしいお客さまからのご依頼も含め、さまざまなギフトをお届けする機会に恵まれました。ガラス掃除の効果なのかは、定かでありませんが、その中の一部、とくに印象に残ったものがあります。

お見舞の花

華やかな色合いの花を見て、元気がでるとよいです。

まずは、お見舞のアレンジメント。療養中、気持ちが穏やかで、元気が出るよう、華やかな雰囲気につくってほしいというリクエストでした。お見舞なので、白っぽい色や、派手すぎる色は、まず避けたいと思いました。それから、美しくても、もちの悪い花をお入れして、すぐに枯れてしまったりしたら、きっと寂しい思いをされるだろうと思って、それも避けました。あとは、一般的にいう、香りの強い花などは入れないようにして、導き出したのは、もちのよいデンファレのレモンブーケという品種。そして、バラの中でも比較的長く楽しめる、マニエルノワールという品種、そして、カラーの花などでした。お花をお届けする場合、できる限り宅配便は使わずに、私がお届けするようにしていて、事前に在宅確認のお電話をしています。その時の先方の、お声の感じなどでも、なんとなく雰囲気がわかるのです。この場合は、想像していたよりお元気そうなご様子で、届け日と時間の約束をしました。そして、いよいよ配達。先方が場所を的確にお教えくださったこともあり、すぐにわかって、お宅に到着。ベルを押すと「はい」という明るい声がして、玄関のドアをあけ、お花をご覧になった途端「わぁ、きれいですね。」といううれしい一言をいただきました。この瞬間にして、私はこの仕事で役に立てた、ご依頼主の心を、お花を通じてお届けできたであろうと思うわけです。宅配便はとても便利ですから、私も利用はします。でも、こういうことがわからないのです。届いたときのお花の状態とか、先方がお花を受け取った瞬間の反応とか、私にとってはとても大切なことなのだと、改めて思いました。

次に印象に残ったものは、お祝いのお花ということで、ご依頼いただいた時のことです。この方は、よくお花を頼んでくださり、そのほとんどがお祝いのお花。そして赤い花、とくに深紅色で、比較的もちのよいお花で、というリクエストが多いのです。赤い花は華やかですが、種類もある程度限られるので、毎回似たような雰囲気になってしまうと思い、今回は少し生け方をかえてみました。今まで、赤にほかの色を加えたこともあるのですが、赤メインと思って、ほかの色はベージュ程度におさえてお届けしました。いつも、お届けが終わると、依頼主に届けたお花の写真をお送りしています。もし、私がお客さんだったら、どんな花が届いたか、知りたいのではないかと思うからなのです。そして、今回はご依頼主にお花の感想も求めてみました。すると、もう少しほかの色を入れたほうが赤い色が生きるのかもしれないとのこと。赤い色メインで、と思っていましたが、赤を入れる形で、との意味合いも含んでいたようだったのです。詳細にリクエストをうかがっているつもりではあるのですが、ご依頼主とのコミュニケーションの大切さを実感しました。

花束

このような色合いがお好みとのリクエストでおつくりしました。

そして、もうひとつ印象に残ったものを。それは、まったく同じではない、なんとなく似たような色合いで、花束とアレンジをひとつずつつくってほしいとのご依頼がありました。ちょうど、今年の5月頃に、私が手がけたお見舞の花束をお渡しした方が、その時のお花をたいそうお気に召していたらしいのですが、最近お亡くなりになったとのことだったのです。そこで、なにかお花を贈りたいと、白っぽい寂しい雰囲気にはならない色合いのアレンジで、そして、お世話をなさった方には似たような色合いの花束を、とのことでした。"御供"ということで、アレンジメントのご依頼をいただくことや、寂しくはならないような色合いで、ということも時々あるのですが、お世話をなさった方にも、というご依頼は初めてのような気がして、とても心打たれました。

そういえば、状況は少し違いますが、以前、友人への出産祝いに、お子さまへのおもちゃとともに、出産お疲れさま、の意味を込めて友人宛に小さな花束をプレゼントしたことがあります。「出産祝いとして、子供のためのものはたくさんいただくけれど、私宛っていうのは、初めて!」と、目を丸くして喜んでいたことを思い出します。ホントに小さな花束でしたが、渡してよかったなと思いました。

女性、もしかしたら男性もでしょうか。一輪だけでも、お花をいただくのはすごくうれしいことなのだと思います。やはり、花には不思議な力があるからなのでしょう。

早いもので、もうすぐクリスマス。ふしぎな力を与えてくれそうな存在として、サンタクロースがいます。きっと、今年のクリスマスには特別な思いで、私たちへのメッセージを届けにきてくれることでしょう。

〜 お花を贈られた際のワンポイントアドバイス 〜

これからクリスマスが近くなるので、お花のプレゼントをいただくこともあるかもしれませんね。寒い季節なので、お花のもちもよくなることと思います。

アレンジメント、つまりバスケットなどに緑色の吸水性スポンジをセットして、お花を挿してあるタイプのものなのか、または 花束かによって、扱い方法がかわりますが、基本的には、涼しい場所に置いたほうがもちは断然よいですよ。たとえば、玄関などでしょうか。でも、もちは二の次。いつも見ていたいということなら、リビングなどの暖かい場所になりますね。

アレンジの場合は、吸水性スポンジがいつも湿っているように、器の八分目くらいまで水を入れておくのがよいと思いますよ。満杯にしすぎても、水があふれそうですし、少な目にしておいて、スポンジがカラカラに乾燥してしまってもいけませんから。お花は、スポンジを経由してお水を吸っているのです。

そして、花束の場合は、水を新鮮に保つ、できれば毎日かえるのが基本です。お花はそのお水を飲んでいるので、「それを飲んでみて」といわれても「はい」といえるくらいに、いつもきれいな状態で保っていることが大切ですね。いずれにしても、花の気持ちになって、です。

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