今回は広島へ行ってきた。
私の弟がめでたくも姉を差し置いて結婚することになったので、式に列席するために赴いたのだ。なぜ、広島かというと、奥さんとなるべき人が広島出身の人で、お父様の具合が悪く、実家の近くで式を挙げることになったらしい。式の前日に広島入りするようにとのことで、弟が新幹線の最終の切符を送って来てくれた。せっかくタダで広島に行けるのに、最終ではどこも見られない。私は勝手に切符を朝出発のものに切り替えて、ひとりで広島観光をすることにした。 終らせなければならない仕事があったので、8時50分品川発の新幹線に乗ることにした。これなら広島に1時ごろ着くので、充分市内観光ができる。もしも時間に余裕があれば、宮島にも行こうかな…などと、私はさまざまな予定を立てていた。私は10代の終わりから数年間、国内旅行に励んでいた時期があり、また取材で地方へ行くことも多いので、北海道、東北、関西、九州、沖縄、四国などには行ったことがあるのだが、なぜか中国地方には行ったことがなかった。 だから、本当に今回の旅行を楽しみにしていたのである。ところがスタートの時点でとんでもないことが起きてしまった。品川駅に行くために乗った京浜東北線が止まったのだ。持っていたチケットは東京発だったが、品川のほうが近かったので、品川に向かっていたのだが、鶴見あたりで事故があり、止まっているという。その時点では、よくあることだとおとなしく待っていたのだが、結局電車が動いたのは新幹線の出発時間を20分も過ぎた頃だった。 品川駅に着くと、新幹線乗り場へ行く途中に駅員が立っている切符売り場があったので、そこで「この切符、次の新幹線に変えて欲しいのですが」と聞いた。 するとその駅員は、「自由席なら乗れます」と言うではないか!! 驚いた私は、まったく素直に思ったまま、 「何で?」 と聞いてしまった。余程私の聞きかたに怒気が含まれていたのだろう。その駅員は慌てて改札に聞きにき、戻ってくると、「みどりの窓口に聞いてください」と言ってきた。 みどりの窓口に行くと、今度は入ってすぐのところにお客さんを誘導する女性に再び同じことを言う。すると「わかりました。では並んでください」と言われ、見れば女性が指差したところは長蛇の列! そしてそこで並ぶこと15分。やっと自分の番が来たと思ったら、次の列車は1時間後だと言うではないか! なんだそれは! って感じである。チケットを交換し、苛々しながら新幹線乗り場に向かうと、改札の前に、誰も並んでいない切符売りの窓口が……。 「なんで、こっちで買えって言わないんだ!」 と本当にハラワタが煮えくり返る。広島に着く時間は3時。これでは宮島どころか市内観光だってほとんどできやしない。新しくできたばかりの品川駅の新幹線乗り場には、テレビの取材も来ていたが、私は楽しみにしていた駅弁を見ても、「何が品川弁当だ! ちくしょう!」と腹が立つばかり。しかも、いざホームに立っていると、何台もの新幹線が目の前を通過していく。 ここにきて、「もしかして東京駅に行っていれば、もっと早い列車に乗れたかも?」ということに思い至った。だとしたら、なぜ、教えてくれなかったんだ! と、新しい切符を見つめ、さっきまで持っていた「東京発」の切符が、「品川発」になっていることに気付き、怒りは頂点に達した。「金、返せ!」である。 この怒りはなかなか収まらず、新幹線に乗っても「せっかくの広島観光が!」と思うと、食欲も湧かない。苛々していたので駅弁を買う気にもならず、勢いでサンドイッチを買ってしまったのだが、お腹が空いてくると、「やっぱり駅弁にすればよかった」と思い始め、昼食を決めるという旅行の楽しみを奪われたことまで、JRのせいのような気がしてくる。一瞬、ビールでも買って飲もうかと思ってしまったくらいだ。もしももう少し時間が遅かったら、間違いなくそうしていたと思う。怒りはダイエットの敵だと、久し振りに実感した。 それでも広島まで4時間もあるため、新幹線が岡山を出た頃には、ようやく怒りも収まってきた。3時間以上怒っていたことになる。せっかくの観光なのだから、気持ちを切り替えようと努力した結果だ。私は出発前にまったく広島について調べたりはしてなかったので、とりあえず、原爆ドームと広島城には行きたいと考えていたが、そのふたつが近いのか遠いのかもわからない。 広島駅の改札を出る時に聞くと、路面電車に乗るのだと教えられ、延々歩き、路面電車の乗り場へ。そこの窓口でもう一度聞くと、市内観光用の地図をくれた。路面電車の一日乗車券というのが600円で売っていたので、あちこち見たいと思っていた私は、その券を購入することにした。電車に乗ってからゆっくりと地図を見ると、「頼山陽資料館」「まんが図書館」「ひろしま美術館」など、なかなか興味を引かれる場所があることがわかった。 時間があればどれかひとつでも見たいと思いながら、とにかく原爆ドームに向かう。途中にあった相生橋は、以前読んだ原爆投下前夜を描いた小説の舞台となっていた場所だ。ひとり橋の前で感慨に耽り、ドームを見て驚き、平和記念公園では修学旅行生の集団に圧倒された。 時節柄、小中高取り揃えて、何校もの学生がウヨウヨいる。それは記念館へ行っても同じことで、ゆっくり見ようと思っても、人ごみに流され、あれよあれよと言う間に出口に辿り着いていた。最近できたばかりだという資料館では、静かに被災者の冥福を祈る場所があるのだが、そこでも学生たちが走り回り、ドタドタという足音ばかりが聞こえてくる。厳粛な気分になっていた私には、とても子供たちの間をすり抜けて記念写真を撮る気持ちにはなれず、おとなしくその場を後にした。 その後、ドームの近くにある観光案内所で、広島城までの行きかたを尋ねてみると、すでに閉門してしまったと言われ、もうひとつ地図を見ていて行きたいと思った「縮景園」もすでに終っているという。返すがえすも腹の立つJRである。仕方ないので、とりあえず広島城を外からでも見ようと思い、行きかたを尋ねると、歩いて行けると言う。せっかく一日乗車券があるのでそれを使いたいのだが、ホテルも別のバスに乗って行くのだと教えられた。つくづく乗り物についてない日だ。 広島城へは徒歩で20分。せっかくだから近くまで行こうと思っていたのだが、実際歩いてみると意外に遠く、重い荷物を持っていたので途中で挫けてしまい、「やっぱり行くの止めようかな」とか思っていたら、目の前に二の丸が現れた。そこから広島城まではさらに歩かなければならないのだが、遠目にお城の姿が見えたので、「どうせ中には入れないんだし」と自分を納得させ、その場で写真を撮って終わりにしてしまった。まだ夕食には少し早い時間である。 広島まで来てドームしか見られないというのも悔しい。少し辺りを歩こうかとも思うのだが、とにかく荷物は重いしヒールだし…で、とてもこれ以上は歩きたくない。結局私は観光案内所で教えてもらった「お好み村」に向かうことにした。 |
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