次の朝はホテルの「バイキング朝食」から始まった。
このバイキングシステムは曲者である。よく考えると、日本のホテルにあるバイキングの内容は、玉子料理、ベーコンやソーセージ類、サラダ、または和食で納豆や焼き魚など、ほとんどいつでも家で食べられるようなものばかりである。なのに、なぜか「あれも食べたい、これも少しだけ」と、全種類を食べないと損のような気持ちにさせられる。そのため、少しづつしか取ってないつもりなのに、いつしかお皿の上にはたくさんの料理が乗せられる。 私はダイエットを始めてから、あまり白米を摂らなくなったので、サラダを中心に洋食でいくことにしたのだが、洋食のコーナーで一通り食べたいものを取って和食コーナーを覗くと、タラコやシャケなど、「北海道で食べたら美味しいんじゃないの?」と思われるものがたくさん並んでいた。 これには正直言って、心を動かされた。ただでさえ「バイキング=食べ放題=食べなきゃ損」という基本的概念がある上に、「北海道に来て、なぜこれを食べない!」というような食材があるのだから、そちらもちょっとずつ食べてみようか…という気持ちになるのは当然であろう。でも、タラコを食べるならご飯も欲しい。しかしすでにパンを取ってしまっている。しばらく和食コーナーの前で悩んだ末、結局「見なかったこと」にしてガマンした。我ながらすごい成長を感じるエピソードである。 その日は丹頂鶴と阿寒湖、そしてアイヌ部落を見て、3時ごろには宿泊地である旅館に戻った。その旅館にはバーベキューができる施設あって、毎年そこで「海の幸バーベキュー」が行われるのだと言う。お肉も出たのだが、最初に焼くのがホタテ、サンマ、ホッケ、イカ、カキなどの海の幸で、さらに再び山のようなトウモロコシが出てきた。しかも全部「丸ごと」で、ホッケだけでもお腹が一杯になりそうな感じである。 ホタテもイカも「生のままでも食べられる」というくらい新鮮なものだから、どれもこれもとても美味しい。イカなんて、肝ごと焼いてしまうという豪快さで、次から次へとお皿に置かれるものを、さめないうちにどんどん食べていると、自分がどのくらい食べているのかさえ、わからなくなってくる。 心地よい風に吹かれながら行うバーベキューは気分的にも最高で、こんな豪勢な食材を前に、「ダイエットなんて、小さい小さい」という気分にさえなってくる。食べることにはほとんどガマンせず、とりあえずすべてのものに手を出したことを、正直に告白しよう。ただ、その分お酒を控えたのは、本当に「よくやった」と思う。 夕方から始めたので、またまた二次会でカラオケに行ったものの、終ったのは8時だった。一緒に行ったメンバーにはカラオケの後、さらに旅館の夕食が用意されていて、もの凄い接待振りに驚いたが、さすがにそれは全員辞退した。全員同じ部屋だったので、しばらくウダウダとおしゃべりして、10時頃に温泉へ行った。 するとそこには、恐ろしいことに体重計が置かれている。もの凄く怖かったけれど、意を決して乗ってみる。2kgくらいは増えていることを覚悟していたのだが、何と体重は出かける前の晩と同じくらいで留まっていた。 これには体重計に乗った私自身が驚いた。二日続けて「満腹」というくらいに食べ、連ちゃんで飲んでいるのだ。しかも二日間、まったく歩いてないのだから、多少増えてもまったくおかしくない。なのに、まったく変化なしとは! 私はこれを、「マインドコントロールの成果」だと思う。釧路にいる間中、「太るから食べないようにしよう」「ここはガマンしよう」と、常に自分を(気持ち的には)律し続けた。これがこのような結果を生んだのだと思う。もちろん美味しい食事を前に、「このくらいは食べてもいいだろう」と考えて、食べてしまう事もあったが、基本的には「気を付けよう」と常に思っていた。最後の最後まで「もういいや! 今日は好きなだけ飲んで食べちゃおう!」とは思わなかった。 そのお陰で、恐ろしい結果にはならなかったような気がする。旅に出てまで、ずっと「ガマン、ガマン」と思っているのはつまらないという気もするが、思い返しても釧路旅行は楽しかったし、美味しいものもたくさん食べられたから、悔いはない。 日常生活を離れ、最も強い「誘惑」に駆られる旅先こそ、ダイエッターの真価が問われる時なのかもしれない。 |
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