前原国土交通大臣が「群馬県の八ッ場ダム工事は中止にします」と明言。長い歴史を経てダム賛成に回った地元はこの決定に反発。開発か自然保護か国民は注視しています。今回は「ダム」について考えてみました。
ダムはなんのためにつくるの?
現在、日本には大小合わせて約3000か所のダムがあるといわれています。そのどれもがなんの理由もなくつくられたわけではなく、それぞれつくられた理由があります。洪水などの災害から人々を守ることを目的としてつくられた治水ダム。灌漑用水や上水道用水、工業用水、水力発電、湖岸のレクリエーションなどを目的としてつくられた利水ダム。その両方の目的を持つ多目的ダムなどがあります。そのほか、山林の保護を目的につくられる治山ダム、砂防を目的とした砂防ダムなどもあります。
ダムにはどんな種類があるの?
ダムとはどんな建築物のことをいうのでしょうか。その定義は国によって違うようですが、国際的には1928年に結成された国際大ダム会議が提唱した高さ5メートル以上で貯水容量が300 万立方メートルの堰を「ダム」として決められています。そのうち高さが15メートル以上のものをハイダム、それ以下のものをローダムといいます。日本の場合、ダムは河川法や河川管理施設等構造令によりすべてハイダムとされ、ローダムはただの「堰」として扱われています。世界最初のダムはいつどこでつくられた?
人類史上、最も古いダムは紀元前2900年ごろ、エジプトのナイル川につくられたもので、高さ15メートル、長さ450 メートルの石積みダムとされています。その後もいくつかダムがつくられたと考えられていますが、いずれも現存していません。現在、シリアにあるナー・エル・アアダムが最も古い現存するダムと考えられています。建造されたのは今からおよそ3000年前ごろですが、なんと現在でも上水道目的で現役で使用されています。ダムの出現は文明の発達と密接に関係していて、メソポタミア文明が発達した中近東では古くからチグリス川・ユーフラテス川にダムをつくったという記録が残されています。そのため、現代でも中近東は大きなダムが数多く存在する地域として知られています。
黄河文明が発達した中国でも独自にダムがつくられ発達してきました。中国の作家・司馬遷の著書『史記』には前漢時代、韓信が項羽との戦いで戦場近くの川にダムをつくり、これを意図的に破壊。敵軍に大打撃を与えたと記されています。

日本で最初にダムがつくられたのはいつごろ?
日本では佐久間ダムや通称黒四ダムと呼ばれる黒部第四ダムなどが知られていますが、実は日本のダムの歴史はずっと古く、飛鳥時代の616 年のこと。この年に河内国(大阪府)で狭山池が建設されたのが最初のダムとされています。この狭山池のことは古事記や日本書紀にも記述があり732 年には大改修されたことも記録されています。東大寺建立にもかかわった僧・行基が監督をして工事は進められたと書かれています。ちなみに、現在でも狭山池は現役で使われています。その後、奈良時代の731 年には、摂津国(現在の兵庫県伊丹市)で治水と灌漑を目的とした多目的ダム「昆陽池(こやいけ)」が行基によって建設されています。また1128年には現在の奈良県生駒市に「大門池」がつくられています。このダムは高さ32メートルもあり、建設後300年間、当時のダムでは世界一の高さを誇っていました。
しかし、ダムといえばこのころは治水や灌漑などが主目的で、上水道のためのダムがつくられるのは明治に入ってから。1891年、長崎県の本河内高部ダムが日本初の上水道専用のダムとして完成しました。さらに1900年には神戸市に初のコンクリートダムとして布引五本松ダムが完成。その後もエネルギー消費の増大に伴い水力発電用のダムなど、大正時代、戦前、戦後と続々と日本各地にダムが完成しました。中でも黒部ダム(黒部川)、佐久間ダム(天竜川)、奥只見ダム(只見川)などは大規模なダム工事として日本の土木史上に残る事業として知られています。こうして新しい技術を使った大ダム時代へと突入しました。
ダムによる発電などで経済が発展した!?
当初は主として灌漑や上水道などのいわゆる利水を目的としてつくられたダムも、時代の変化とともに、洪水予防のための調節用や水力発電などの治水目的でつくられるようになりました。それに伴い法整備も進み、ダム工事の技術も向上し、各国で大規模なダムがつくられるようになりました。1924年には「世界のビッグプロジェクト」と称賛された大井川ダム(木曽川)が完成し、日本も近代的なダム建設国の一員となったのです。1936年にはアメリカでコロラド川をせき止めたフーバーダムが完成。当時としては世界最大級のフーバーダムの完成は洪水調整、水力発電、水道供給、灌漑など、世界恐慌で体力を失ったアメリカの経済を回復させ、世界の大国としての原動力となりました。以後も世界ではアスワンハイダム(エジプト)、ダニエル・ジョンソンダム(カナダ)、ヌレークダムなど大ダムが続々とつくられ大ダムの時代へと突入しました。

地球環境とダムとの関係
水力発電が時代の変化とともに火力発電や原子力発電に取って代わられ、本当にダムの存在は必要なのか、という議論が交わされるようになりました。ダムによって水没する地元住民の生活補償や自然保護、国民の公共事業に対する風当たり、水余り現象など、ダム工事を取り巻く環境は次第に変化。1990年代以降はダム工事の中止や凍結が各地で起き、当時長野県知事だった田中康夫氏が「脱ダム宣言」を表明。ダムが抱える問題が表面化したのです。その一方で地球温暖化による気象の変化は集中豪雨やゲリラ豪雨、あるいは極端な雨不足を招き、改めてダムの治水効果が再評価されてもいます。自然環境の保護か、それとも災害を防ぎ、安定的な水の供給を優先するか。ダムを取り巻く問題は今後も続けられ、簡単に結論が出せる問題ではないようです。
(2009.10.13 取材/ジャーナリスト・金子保知)