よりどりみどり〜Life Style Selection〜


奇跡と革命の化粧品

“美しくなりたい”という願望は、未来永劫なくなることのない、女の煩悩である。もちろん外見だけでなく、心の美しさであるとか、身のこなしの美しさ、言葉の美しさ……などなど、精神性、人間性を語ったらきりがないが、結局は、そのすべてが、見た目の美しさというものに行き着くのだとも思う。

そう、ブスな女はダメなのだ。女は、どこまでも美しくなければ、いや、美しくあろうと、日々勉強し続けているべきなのだ。だから、女にとって、美容は永遠の必修科目であり、ここまでいったら合格、この年齢になったら卒業……なんてことはあり得ない。

特に最近では、「美白」「シワ」「たるみ」「くすみ」など、項目も多岐に渡り複雑化し、己の肌の具合や、どんどん進歩する化粧品の情報を、常にチェックしていないと、落ちこぼれてしまうのだ。

故に、ファッション誌の美容のページはいつも人気が高く、佐伯チズ様とか、田中ユク子様といった、カリスマ的なメイクアップアーティストの方々が、人気を呼んでいるわけだ。

実は私も、化粧品にはかなり目がない煩悩のかたまりである。特に、仕事で海外にしょっちゅう行っていたバブルの頃は、免税店で毎回山のように化粧品を買いまくった。美容液というものの走りである、エスティローダの「ナイトリペア」や、ランコムの「オリゴマジョール」、ディオールの「カプチュール」は、翌朝の肌の変化がバッチリ確認できるので、お肌の曲がり角を曲がりきった当時の私には、手放せない逸品だった。

また、保湿ということの真の意味をハッキリと謳った、クリニークのジェル状のクリーム「モイスチャーサージ」は、べたつかない使用感と潤い感が気に入って、大いにハマったものの一つ。ハワイの免税店で、友達に頼まれた分も含め10数個まとめ買いをし、レジのおばさんに「あら、モイスチャーサージ屋さんでも開くの?」と、笑われたこともあった。もちろん、帰りのスーツケースがとんでもなく重くなるのも覚悟の上である。

そんな気合いと根性のお陰で、さぞかし人も羨む美しさであったでしょう?……と言われると、まあ、仕事が忙しくなれば、顔にブツブツができたり、ホルモンバランスの崩れで、いきなり顎にいっぱいニキビができたりと、トラブルもそれなりにあったりして、いやまあ、その〜、それなりに、かな……。そういうわけで、ますます化粧品の研究は深みへとハマっていき、効いた、いや効かないを繰り返して、現在に至っている。

最近のテーマは、なんと言っても「アンチエイジング」だ。10数年前からのジム通いで、体力、筋力、ボディライン方面のアンチエイジングには、かなり自信があるのだが、肌の衰えに関しては、睡眠と栄養バランスを意識した上で、あとは化粧品選びに命を賭けるしかない。高齢化社会のまっただ中、老化と正面切って闘う、私のような熟女が増えたせいか、その手の化粧品は、ものすごく増えているようだ。

「アンチエイジングコスメ」は、美容成分が数々含まれる、ひと言で言えば「濃い化粧品」であるから、値段は当然高い。昔だったら、ビックリして笑っちゃうような値段のものが、国産品でも当たり前に並び、これがまた、すごく売れているというのだから驚きである。例えば、資生堂の「ラ・クレーム」が50,000円(5千円じゃありません、5万円ですぞ!)、カネボウの「センチュリー」が70,000円、コーセーの「AQクリームミリオリティ」に至っては、なんと90,000円もするのだ! 外資系の高級コスメを、遙かに凌ぐ勢いである。ン万円のゲランにため息をついていた時代は、いったい何だったのだろう?

しかし、負けず嫌いな私故、ここで戦列から脱落するわけにはいかない。価格の比較はさておき、居並ぶ高級アンチエイジングコスメの中から、私にピッタリのものを、なんとしてでも見つけなければならない。それには、情報集めと比較検討しかない。成分やら、その化粧品が目指す効力、使った人のコメントなどなど、日夜情報収集した結果、数か月前に、えいやっ! と購入したのが、アメリカで話題の「ラ・メール(LA MER.)」のシリーズである。

「ラ・メール」は、最初はアメリカのサックス・フィフス・アベニューやニーマン・マーカスといった高級デパート、高級スパにしかなかったものだが、数年前から雑誌でさかんに取り上げられるようになったものだ。いちばん人気の「クレーム・ドウ・ラ・メール」は“奇跡のクリーム”と呼ばれ、ハリウッドの女優を始め、世界中のセレブにファンが多い。派手な広告をしているわけでもなく、なかなか手に入らないのに、何でそんなに広まったのか? その秘密は、この化粧品の開発にまつわるエピソードにある。

「ラ・メール」の開発を手がけたのは、なんとNASAの宇宙物理学者であるマックス・ヒューバーという人で、彼がロケット燃料の実験中に事故で顔にひどい火傷を負ってしまったのがことの始まりだった。彼は何度も治療を受けたが、タダレた皮膚はなかなか元には戻らない。普通の人だったらここで諦めるけれど、彼は諦めなかった。学者特有の執着心を発揮し、こうなったら自分でなんとかする! と、自宅に研究室まで作り、12年の歳月をかけてこのクリームを作り出したのだそうだ。実際にマックス・ヒューバー氏に会ったわけじゃないので、どのくらいきれいに治ったのかは定かではないが、どんなに痛んだ肌も見事によみがえらせる……というふれ込みには充分過ぎるストーリーだ。

成分は「ラ・メール」(海からの、という意味のフランス語)という名前の通り、保湿成分として海草やライムエキスなどを使用している。特に変わった物質が使われているわけではないが、低温・低圧プロセスとかいう製法が画期的らしい。クリームのエキスを作るだけで3〜4か月もかかるけれど、成分の肌への浸透度が格段に違うのだそうだ。いやはや、“NASA”“事故”“研究”“奇跡”“手間”……女心をグッとつかむキーワードのオンパレード。こりゃあ、だまされても、話しの種に一度使ってみなくちゃ!

最近では、このクリームの他に「ザ・リフティング・フェイス・セラム & ザ・リフティング・インテンシファイアー」というたるみ対策のセットが話題を呼び、予約だけで売り切れたそうだ。美容界では「クリーム・ドウ・ラ・メール以来の革命的商品」と絶賛されているんだとか。奇跡の次は革命ですか。発端がNASAだけに、賛辞のレベルが違う。ちなみに価格だが、ネットの個人輸入サイトを利用して、クリームが60mlで$235、たるみ改善のセットが$335。さすが、気合いの入ったお値段である。

photoさて、問題の効果のほうだが、これがなかなか良いみたい。使い始めて、肌の張りと艶が、確実にアップ。リフトアップ効果も、1本使い終わった頃には、と期待している。奇跡とか革命というほどドラマチックではないにせよ、納得の使い心地。もうちょっとミラクルな結果が出るまで、使い続けてみようかと思う。ン万円使っても、これだけ効果があれば満足かな。エステに3回言ったと思えば、決して高くはないし……。なんか自分に言い訳してる感じもするが、毎朝鏡を見るのが楽しみなので、幸せいっぱいである。

そんな矢先、週刊誌にこんな記事が載っていた。あらゆる高級化粧品を試した、かのカルーセル麻紀女史(?)が、コカイン所持で逮捕されたときのこと。留置所でニベアしか与えられず、これじゃあ肌が台なし! と文句たらたらだったのだが、出所したら、周りの人に「今まででいちばん肌がきれいよ!」と絶賛されたとか。ニベア恐るべし! っていうか、たぶん酒もタバコも断ち、規則正しい生活をした効果だろう……という話。いやはや、美しさの追求は奥が深いですな。