よりどりみどり〜Life Style Selection〜


ゴルチェ礼賛!

エルメス2004-5秋冬コレクションが、巷で話題騒然である。デザイナーに、あのジャンポール・ゴルチェが就任して初めてのパリコレだ。ゴルチェと言えば、マドンナのコルセットとガーターベルトのボンテッジ風ステージ衣装や、リュック・ベッソン監督の近未来映画『フィフス・エレメント』の衣装デザインで有名なフランスのデザイナーだ。その、アバンギャルドなデザインは、華麗でありながらとんがっていて、ものすごくロックしている。現に、ロックバンドやGackt、ミッチーなどの美形ミュージシャンに、彼のファンは多い。

そんな彼が、ファッション界の超老舗正統派高級ブランド、エルメスのレディス・プレタポルテのデザイナーに決まったとき、ファッション好きの人々は、みんなぶったまげた。エッ! あのゴルチェがエルメス!?

エルメスと聞いてすぐに思い浮かべるのは、なんと言ってもバッグとスカーフだが、そのウエアも、レザー、スエード、カシミヤなど高級素材を使用した、シンプルでシックなイメージ。そう、いかにも高級で、エレガントなマダムテイストなのだ。それが、ゴルチェのようなイタズラ好きな悪ガキの手によってどう踏みにじられてしまうのかと、頭の堅い人たちは拒絶反応を示したに違いない。

しか〜し! 私は、エルメスの現社長、デュマ氏のこの決断を、さすがだ! と思った。こういう伝統のある正統派ブランドだからこそ、実はゴルチェの本領発揮、腕の見せ所なのだ!

ゴルチェのデザインというと、ジャケットの裾から裏地がはみ出ていたり、縫い目がわざと外に出ていたり、普通は組み合わせないような素材を思い切って組み合わせたりと、自由奔放で度肝を抜く発想ばかり目立っている。しかし、基本のシルエットやライン、カッティングの素晴らしさは、天下一品なのである。おまけに、彼のデザインの核にある、中世の貴族を思わせるゴシックの世界は、いわば、正統派中の正統派。体のラインを、これほど美しく見せるものはそうない。だから、どんなにデザインアイデアで遊んでいても、ゴルチェの服は決してチープにならず、それどころか、そこはかとない気品に満ちているのだ。

何しろ、彼はピエール・カルダンで修行し、ジャン・パトウでアシスタントを務めたという経歴の持ち主だ。言うなれば、生粋のクチュール育ち。確かな仕立ての技は、ちゃんと名門でたたき込まれているのだ。しかも、98年からエルメスのレディス・プレタのデザイナーを努めていたマルタン・マルジェラは、かつてゴルチェのアシスタントだった人なのだから、この継承は、言うなれば弟子から師匠へのランクアップ。エルメスにとっても、確実に意味のあるものなのである。

実際に今回のパリコレクションの作品を見れば、そのみごとな融合が見て取れるではないか。肩やウエストのラインが秀逸なスーツや、留め金やベルトに、ケリーバッグの金具を使ったレザーのジャケット、ジョッパーズパンツに、エルメスのスカーフ柄をはめ込んだジャケットなどなど、エルメスの伝統的なテイストを大胆に使ったアイデアは、とっても素晴らしい。伝統をリスペクトした上での遊び心。そのさじ加減が絶妙で、エルメス好きの人も納得の世界を作り上げていた。キャ〜、さすがですね、ゴルチェさん!

さて、どうしてこんなに私がゴルチェを褒め称えるかと言うと、実は私は、ゴルチェの服の大ファンなのである。

今からさかのぼること約20年。パリのオンワードがゴルチェを発掘して、彼の服が日本に紹介されたとき、私は真っ先に飛びついた。もともと私は洋服が大好きで、80年代前半は、BIGIだのNICOLE、ワイズにコムデギャルソンといった、いわゆるデザイナーブランド全盛の波にどっぷりと浸かった、ミーハー女であった。ショップのバーゲンセールには、朝から張り切って並んだものだ。当時、自社の服をかっこよく着こなしている販売員を「ハウスマヌカン」などと呼んでいたが、そんなハウスマヌカンの友達だってたくさんいた。

しかし、周りが皆似たようなファッションばかりになり、なんだかそんなものにちょっと飽きてきた頃、ゴルチェのデザインが目に飛び込んで来たのだ。新宿の伊勢丹にコーナーができたと聞いて、すぐに見に行き、その感性に魅せられてしまった。体のラインを美しく見せる、見事に構築されたそのシルエット。特にジャケットは、メンズラインも、レディスも、同じテイストでありながら、男は肩と背中をセクシーで男らしく、女性はウエストとヒップを素晴らしく魅力的に見せる。そして何よりも、シャキッと背筋が伸びて、ジャケットのラインに体が溶け込んでいくような、何とも言えない着心地に、すっかり虜になってしまったのだ。

それからは、春と秋の新作受注会には必ず足を運び、その度に、斬新な発想の新作に、きゃーきゃー言っては、買いまくった。ショップのディスプレーを見て、「ああ! このスーツは私のためにデザインされたものだわ!」と、運命を感じたこと数知れず。サンプル段階で商品化されなかった1点ものを、頼み込んで売ってもらったこともある。

最初に伊勢丹のショップに行ったとき、そこの店長だったSさんとは、今でも時々お茶を飲んで話したりするつきあいが続いている。現在は、本社の企画室にいる彼女は、ゴルチェの服の中でも、私がどんなテイストが好きかということまで知り尽くしているので、今や私の専属スタイリストみたいなもの。

「小野さんにピッタリの商品が入ってきたわよ」

と、すぐに連絡してくれるのだ。各店舗に1デザイン1〜2着しか入らないから、そういう友達がいると、買い逃すことがない。気に入らなければ「これはいらない!」とハッキリ言える仲。まあ、第三者に言わせると、実はそうやって丸め込まれてる、ということであるが、いいのだ、本人が好きなんだから。

私は、洋服は気合いで着るものだと思っている。だから、よし! この服をかっこよく着こなしてみせるわ! という気持ちにさせてくれる服に惹かれる。着心地のいい服=ゆったりしていて楽ちん、という法則は私には全くあてはまらない。着たとたんに膝も背筋もきちんと伸び、気持ちまでピリッと引き締まって元気が出てくる。それが私の着心地のよさ。そんなスタイルで、いつでも凛と立ち、颯爽と歩いていたいと、いつも思う。だから、ゴルチェの服は、私にとっての最高の活力剤なのだ。

この春夏のゴルチェ自身のコレクションは、コルセットをイメージしたものだった。ジャケットのウエスト部分がまさにコルセットになっていて、息を止めてジッパーを上げると、気分はあの『風と共に去りぬ』のビビアン・リーである。ぜ〜ったいに太れない。そのために、スポーツクラブでピラテスとパワーヨガに励む。だから、ぜ〜ったいに太らない。そういうことなのだ!

ダイエットやエステに、馬鹿みたいにお金を使っている女の子に、声を大にして言いたい。かっこいい体になりたきゃ、ゴルチェの服を買いなさい!