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中国で開催されたアジアカップは、厳しい戦いをくぐり抜けた日本の連続優勝で幕を閉じました。今回は恒例の「通信簿」をお休みして、このアジアカップの総括をお届けしたいと思います。 日本代表は、中田英寿、稲本潤一、久保竜彦、高原直泰らを負傷やコンディション不良で欠くばかりか、小野伸二もオリンピック代表に回って不在というチーム編成でした。アジアカップ前に行われたキリンカップは、7月9日(広島ビッグアーチ)にスロバキアと、7月13日(横浜国際総合競技場)にセルビア・モンテネグロと対戦し、スロバキアには3−1で、セルビア・モンテネグロには1−0で2連勝しました。システムは3−5−2で、トップ下に中村俊輔が入る形です。 今回のチーム編成において攻撃面でのキーマンとなる中村俊輔のチャンスメイクは期待どおり予定どおりでしたが、中村俊輔がプレスに参加しないのと、相手チームのチェックを逃れてサイドに流れてばかりいるので、日本の生命線である中盤の構成力・速いボール回しとボールポゼッションが低下する傾向になるのが気になりました。最終ラインでは、3バックのセンターの宮本恒靖が、やはり空中戦(ヘディング)の競り合いに弱いところを見せたのも気になりました。 さて、続いて突入したアジアカップです。日本はグループリーグの組み合わせを見ても、その後のスケジュールを見ても、かなり厳しい戦いが予想されました。 ●グループリーグ 日本 1ー0 オマーン(7月20日:重慶) ワールドカップ一次予選でも予選突破を争うオマーンとの対戦が初戦。中村俊輔のスーパーゴールで先制したものの、その後は終止オマーンに主導権を奪われる展開。特に中盤でボールを回され、ルーズボールもほとんど相手に拾われてしまう展開で、ここ何年も見たことがないような酷い出来に思われました。率直なところ、オマーンに質的な部分で上回られてしまった印象。中村俊輔の芸術的ゴールが、これほどの酷い出来の試合とともに残されるのは複雑な思いがしました。 ●グループリーグ 日本 4ー1 タイ(7月24日:重慶) オマーン戦はコンディションも整っていなかったのだろうと考え、2戦めは本来の動き・連動性を取り戻すだろうと思っていたタイ戦ですが、立ち上がりから全く改善の兆しが見られない展開。そうしているうちに、予想外の先制点を奪われてしまいます。すぐに中村俊輔のフリーキックで追いつき、後半は4−4−2もしくは4−5−1にシステムを変更して3得点で勝利しました。システム変更は、なるほど、と思わせましたが、4得点すべてがセットプレー絡みで、物足りなさを感じさせました。 ●グループリーグ 日本 0ー0 イラン(7月28日:重慶) 2試合消化して既にグループリーグ突破を決めている日本にとって、グループ1位になるか2位になるかを決める一戦。一方のイランも、グループリーグ突破には引き分け以上が求められる試合。強豪イランとの対戦で、さすがに日本チームも少しはマシになった印象。決定的なチャンスはイランのほうが少し多かったようにも思えましたが、ボールポゼッションでは上回り、試合終盤は余裕ある試合運びで思惑どおりのドロー。思惑どおりの引き分けを演じられるようになったのは、進化と言ってよいでしょうか。 ●クォーターファイナル(準々決勝) 日本 1−1(PK戦 4−3)ヨルダン(7月31日:重慶) グループリーグを1位突破したために移動なく戦うことができる日本ですが、厳しい気候の上、まるで完全アウェイのスタジアムの重慶で、しかもわずか中2日で準々決勝を迎えました。試合内容はオマーン戦とまったく同じく、ヨルダンに中盤を支配されて非常に苦しい展開。2人で対応したにもかかわらず右サイドでの軽い守備から突破を許し、先制点を奪われてしまいます。 ヨルダンが日本に対して3トップで臨んできた模様で、それならば早い時間に4バックに変更することも考えられたかもしれません。先制点を奪われた後すぐにセットプレーから追いついたものの、その後試合を動かすことができずPK戦に。PK戦では何度も敗退を覚悟させられた状況を凌いで、川口能活の4人連続阻止という神懸かりセーブもあって、辛うじて準決勝へ駒を進めました。 この試合あたりから、日本国内でTV観戦しているサッカーファンでもない一般の人々の感動を呼び始めたようですが、確かにスリリングな展開ではありますが、あまりに苦労しすぎ。選手たちの疲労も心配な上に、完全アウェイの状況と、審判のジャッジも不利な判定が多くなって、たいへんな苦難に立ち向かう大会となりました。 ●セミファイナル(準決勝) 日本 4−3(延長)バーレーン(8月3日:済南) また中2日で、今度は移動を伴って準決勝に臨みました。この試合も最終ラインの軽い応対で先制ゴールを許してしまいます。日本と対戦するチームのフォワードは、日本ゴール近くに迫る最初の機会に多少強引でもシュートで終わろうとしていることを、もっと強く意識したいものです。 今大会、先制点を許してもすぐに同点に追いついてきた日本ですが、この試合では決定的なチャンスを何度も逃してしまい、しかも遠藤保仁が不可解なジャッジで一発退場となってしまい、1人少ない10人での戦いを余儀なくされます。それでも、4バック(実質2バック)にシステムを変更し、小笠原満男を投入し中村俊輔との2枚ゲームメイカーにして反撃に出て、後半早々に連続2ゴールを奪い一気に逆転します。ところが試合終盤に最終ラインのビルドアップでのミスからボールを奪われ同点ゴールを許し、さらに終了5分前に逆転ゴールを奪われてしまいます。しかし、ロスタイムに中澤佑二が起死回生のダイビングヘッドで同点ゴール、延長に入って、玉田圭司のこの日2つめのゴールで勝ち越し。バーレーンの反撃を凌ぎきって、決勝へと駒を進めました。 ヨルダン戦に続く粘り勝ちと言えるもので、リードされて1人少ない状況になっても慌てずにゲームを作り、一旦は敗退手前まで追いつめられたものの、結局は4ゴールを奪ったという点は、選手たちの頑張りはもちろん、日本チームがこれまで積み重ねてきた「経験」によってもたらされた底力を感じさせてくれました。 ●ファイナル(決勝) 日本 3−1 中国(8月7日:北京) ピッチの外もますます騒がしい状況の中、地元の中国とのファイナルでしたが、日本チームは中盤でのプレスも今大会では最もマシ(?)な感じで、よい試合への入り方だったと思います。この試合でも中村俊輔のセットプレーから2点、最後は中村俊輔のスルーパスから玉田圭司がダメ押しゴールを決めて、日本が優勝を勝ち取りました。 アジアカップ全6試合、内容は正直言って非常によくない試合ばかりでしたが、それでも優勝という結果を勝ち取ったのは、本当に選手たちの頑張りと執念に他なりません。内容が悪いなりにも落ち着いて勝負に臨めるようになったのは、率直に逞しくなったとは思います。4年前は、他のチームとは段違いの連動性・流動性あるサッカーで優勝を勝ち取りました。今回は質的には後退している感がありますが、勝負強さが備わってきたという点では地力が備わってきたと言うべきなのかもしれません。 *総括その1:ジーコ監督の采配 ファイナルで遠藤保仁が出場停止のため中田浩二を起用した以外、全試合スタメンはまったく同じでした。こうしたトーナメントで、しかも非常に厳しいコンディションの中で、これは摩訶不思議な采配と言うしかありません。選手たちに大きなケガがなかったのが幸いです(この後、コンディションを崩す選手が出ないことを祈りたいものです)。 一方で、攻撃面における選手交替に関しては、なるほど、という采配も見せてくれたと思います。私はこれまで、ジーコ監督交替を唱えてきました。今でもジーコが監督として相応しいとは思えません。ですが、こうして結果を出した以上、監督交替論はしばらく控えたい(控えざるをえない)と思います。 *総括その2:なぜ中盤を支配されたのか 日本の特長は中盤にあります。それが今大会では、正直言って目を疑うような中盤の支配のされ方で、今後が心配になった方もおられるのではないでしょうか。これは、今大会の非常に蒸し暑いコンディションが影響したこともあると思いますし、右ウイングバックの加地亮と左ウイングバックの三都主アレサンドロの動きが物足らなかったこと、トップ下の中村俊輔の重量感の問題とも関連してボールをキープできる選手がいなかったこと、日本の3バックが深くラインを引きすぎて中盤が間延びしたこと等々、いくつかの要因が推察されます。 また、各チーム、特に中東のチームが中盤での組織的なプレスを仕掛けてきたことがあります。それでも日本の中盤が機能すれば、どんな相手チームにも充分に対処できるると思いますし、本来の日本のゲームが見られると思っています。 *総括その3:失点が多かったように見えるが守備はどうだったのか 準々決勝での3失点が目立つのと、先制点を奪われることが多かったので、失点が多いように見えたかもしれません。既に指摘したように、軽い応対でゴールを許すシーンも目につきました。ですが、守備は非常によく頑張ったと思います。 左右のウイングバックの裏を突かれるので非常に深い最終ラインになってしまい、本来のコンパクトなラインではなくなってしまっていましたが、これは今大会でのチーム状況に応じた対処だったと思います(思いたいです)。宮本恒靖も空中戦での競り負けが見られませんでしたし、粘り強い集中したパフォーマンスだったと思います。また中澤佑二は、3得点記録したことだけでなく、対人能力の強さ、相手フォワードから度々ボールを奪うスキル、ビルドアップの意識等も含めて、実質的な今大会のMVPと思います。 *総括その4:ワールドカップ予選は大丈夫と考えてよいか 確かにアジアチャンピオンの座を守りましたが、本当の勝負はあくまでワールドカップ予選であることは、既にご承知のとおりです。今大会を通して誰にもはっきりわかったことは、アジア全体が非常にレベルアップしているということでしょう。楽に勝てる相手など、もう皆無に等しいと考えるべきです。 ワールドカップ予選では、1つの取りこぼしが大きな痛手となって返ってきます。しかも、ワールドカップ予選は長い長い期間を費やして争う総力戦です。今大会で優勝したこととワールドカップ予選の突破は何の関係もないことを、私たちは肝に銘じるべきでしょう。そして、バーレーン、ヨルダンそしてオマーンといった中東の新興国の台頭にも注意が必要です。イランは相変わらず伝統的な強さを維持していますし、復活を遂げつつあるイラクを含めて、中東諸国の勢力地図の変動にも目配りが求められます。ワールドカップ最終予選では、当然にして対戦が想定されるのですから。 1か月にわたる厳しい戦いを戦い抜いてくれた選手たちには、本当にお疲れさまと言いたいものです。でも、ワールドカップ一次予選はまだ道半ば。9月8日(VSインド)と10月13日(VSオマーン)と2試合続けてアウェイマッチが組まれています。ゆめゆめ取りこぼしのないよう、選手たちに期待し託したいと思います。 アジアカップ優勝で、2005年6月にドイツで開催されるコンフェデレーションズカップへの出場権を得たわけですが、翌2006年のワールドカップ本大会に出場できないのにコンフェデレーションズカップに出場するような、そんな悪夢は見たくないですよね。 (2004.8.9) |