A代表、ヨーロッパ遠征2連戦出場選手の通信簿

4月24日は、アテネ・オリンピックのアジア予選で日本女子代表が強敵・北朝鮮に勝ち、見事に出場権を獲得しました。日本サッカー協会あげての支援体制で出場権獲得を目指して挑んできたわけですが、正直、北朝鮮には勝ち切れないと思っていたので、予想外の嬉しい結果に喜んでいます。選手たちのひたむきなプレーは、サポーターの力強い後押しと、多くの人々の感動を呼んだようです。

男子(U-23)もオリンピック出場権を獲得して盛り上がりましたが、そんな状況の中で、今いちばんモタモタしているというか、スッキリしないのがA代表。そのA代表は、Jリーグを中断してヨーロッパ遠征に旅立ちました。今回はハンガリー、チェコという東ヨーロッパの2か国との連戦です。ハンガリー戦は各国リーグの開催と重なるため、ヨーロッパのクラブに所属する選手たちは招集できません。何と言っても、今回のメインはチェコ戦です。では、ヨーロッパ遠征2連戦出場選手の通信簿、行ってみましょう。


ハンガリーVS日本(4月25日:ハンガリー・ザラエゲルセグ)

ヨーロッパ遠征第1戦は、ヨーロッパの古豪・ハンガリーとの一戦です。ヨーロッパ組は週末に各国国内リーグが開催されるので召集できず、国内組だけで臨みました。国内組も、横浜Fマリノスとジュビロ磐田の選手はアジア・チャンピオンズ・リーグの試合がありましたので、それぞれ韓国と中国で1試合こなしてから遅れて駆けつけました。試合のほうは、後半セットプレーから2ゴールを奪われ、その後立て続けに2ゴールして同点に追いつきましたがロスタイムに痛恨のPKをとられ、3-2で敗れました。システムは3-5-2です。

ゴールキーパー:楢崎正剛(名古屋グランパスエイト) 5.0点
*3失点とも防ぐのは無理だったとは言え、この相手に3失点はいただけません。

3バック右:坪井慶介(浦和レッズ) 4.5点
*2点目を許したセットプレーからのゴールで競り負けたのは坪井では? 1点目のフリーキックを与えたのも坪井だったし、とにかく、どんどん坪井に対する印象が下がっていきます。

3バック中央:田中誠(ジュビロ磐田) 5.5点
*1996年のアトランタ・オリンピックの守備の要も、(召集は何度かされていましたが)何とこれがAマッチ初出場。急造ディフェンスラインにもかかわらず、この日はまあまあの出来だったと思いますが、その能力からしてみればA代表の中心になっていいはずです。

3バック左:茶野隆行(ジェフ市原) 4.5点
*これまたアトランタ・オリンピック代表以来、代表チームには実に久しぶりの召集。A代表には初召集、Aマッチ初出場。コンディション不良の選手続発によってJリーグでの活躍から急遽呼ばれていきなりのスタメンは、さすがに重荷過ぎた感が。ロスタイムに与えたPKはホームタウンデシジョンと言えるものでしたが、でもA代表に相応しい選手ならば対処法はもっとあったはず、というと期待し過ぎでしょうか。

右ウイングバック:西紀寛(ジュビロ磐田) 5.0点
*Jリーグでも好調なので期待していたのですが、ジュビロ磐田のアジア・チャンピオンズ・リーグのアウェイマッチをこなしてからの合流では、さすがにお疲れの様子。もっとハツラツしたプレーが見たかった。

中盤底:遠藤保仁(ガンバ大阪) 5.0点
*中盤でボールを奪われすぎ。中盤でゲームを作れず。それは遠藤だけの責任ではないけれど、もっと中盤をリードして欲しかったです。まったく物足りません。

中盤底:福西崇史(ジュビロ磐田) 4.0点
*どうしちゃったの?というくらい酷い出来。

左ウイングバック:三都主アレサンドロ(浦和レッズ) 5.0点
*4バックの左サイドバックに入った時よりも幾分マシですが、それでも日本チームの組織的な連動性にとってブレーキになるような気がしてなりません。もう三都主にこだわるのは、止めていただきたいのですが(でも、藤田が下がった後、キャプテンマークを巻いてましたね)。

トップ下:藤田俊哉(ジュビロ磐田) 4.5点
*相手チームのマークが集中して、機能できず。

フォワード:久保竜彦(横浜Fマリノス) 5.5点
*同点ゴールを決めてくれましたが、それ以外では前半終了間際の相手ディフェンダーをかわしてのシュートくらい。とにかく1試合1試合、ゴールを積み重ねていっていただきたいです。

フォワード:玉田圭司(柏レイソル) 6.0点
*これからも使ってくれるんでしょうね、と思っていたら、フォワードの駒が足りなかったとはいえ起用してくれました。Aマッチ出場2試合目で初ゴール。この後どこまで存在感を増していけるのか、見守りましょう。ただ、右サイドをえぐった加地のクロスを決め損なったのは残念。あれが決まれば逆転だったのに。

途中出場:加地亮(FC東京) 6.0点
*先制点を奪われた後、後半15分過ぎに西に替わって出場。積極的な動きで右サイドの攻撃の起点に。

途中出場:三浦淳宏(東京ヴェルディ1969) 5.0点
*加地と同じタイミングで福西に替わって出場、中盤の底に入る。その後2ゴールをあげて同点に追いついたのだから少なくとも攻撃面では機能したのかもしれませんが、守備面では不用意なファウルを連発して流れを悪くした印象があります。

途中出場:本山雅志(鹿島アントラーズ) 6.5点
*2点奪われた後、藤田に替わって後半27分頃に出場。2アシストで2点差を追いつく原動力に。局面を変えられる選手なのだから、もっと多用してみましょう。ケガが多いのが残念なのですが。

ジーコ監督 <採点不能>
*いつもながら選手交替は不的確でもないように思います、あくまで攻撃面での交替だけなんですが。でも、この試合のテーマといい、戦術といい、何と言うか、どうも採点しようにも採点ポイントが見当たらないのです。よって、採点不能とさせていただきました。

試合内容 4.5点
*テストマッチですから勝敗は重要ではない(それだけに内容が大事…)のですが、アウェイとはいえ、この程度の相手に負けるのは勘弁していただきたいです。決勝ゴールとなったPKは、ホームアドバンテージと言えるものだったとはいえ…。とにかく、中盤の低い位置でボールを失うシーンが多過ぎます。こんな内容の試合なら、わざわざヨーロッパくんだりまで出かける必要もないなあ、と思いながら見ていました。出来が悪いなりに2点差を追いついたのが、唯一評価できる部分。


チェコVS日本(4月28日:チェコ・プラハ)

ハンガリーに続いて、4月28日にチェコのプラハでチェコと対戦しました。チェコは昨年のヨーロッパ最優秀選手、パヴェル・ネドヴェド擁する強豪です。チェコもこの試合を6月に開催されるヨーロッパ選手権本大会へ向けたテストマッチと位置づけていると思われ、厳しい試合になることが予想されました。日本は、中田英寿が合流したもののコンディション不良で出場を見合わせ、小野伸二と稲本潤一を加えただけで、ハンガリー戦と同じく3-5-2のシステムで臨みます。

ゴールキーパー:楢崎正剛(名古屋グランパスエイト) 7.0点
*後半のチェコの反撃を凌ぐファインセーブを連発。チェコのシュートミスにも助けれられたとはいえ、集中力あるプレーで得点を許さず。

3バック右:坪井慶介(浦和レッズ) 6.0点
*坪井はスピードがあるとよく言われます。この試合で、それがよくわかりました。相手選手を追いかける形になっても、何とか追いついてスライディングタックルでピンチを凌ぐ場面が多かったですから。あらためて、その能力を再確認しました。が、いつもいつもそういうプレーで凌ぐのは、どうなのでしょうか。この試合に限っては、通用しましたけど。

3バックセンター:田中誠(ジュビロ磐田) 6.0点
*落ち着いた対応で、破綻なくディフェンスラインの中央の役目を果たす。自分は少し深めにポジショニングし、他の選手にチェックに行かせてカバーリングに徹するクレバーなプレー。元々、能力の高い選手なのですから、A代表に定着して欲しいものです。あとは、この日は感じなかったものの、Jリーグの試合でも時々顔の覗かせる淡白さが気になります。

3バック左:茶野隆行(ジェフ市原) 6.0点
*Aマッチ2試合目でハンガリー戦と比べると随分落ち着いたプレーぶり。次も呼ばれるかどうかわかりませんが、よい経験になったと思います。

右ウイングバック:西紀寛(ジュビロ磐田) 5.0点
*せっかくのスタメン出場のチャンスを生かせず、2試合続けて残念なパフォーマンス。Jリーグでも好調なプレーぶりを見せているので、またチャンスを与えて欲しいものです。

中盤底:稲本潤一(フルハム) 6.5点
*体を張ったディフェンスで貢献。久保のゴールに繋がったパスと攻め上がりも見事。就職活動(来シーズンの所属チーム探し)のために、集中力と気合が入っていた?

中盤底:小野伸二(フェイエノールト) 6.5点
*中盤で風格あるプレー、クオリティの高さを見せてくれました。決定的なプレーはなかったものの、稲本や藤田と織り成したワンタッチプレー(ダイレクトパス交換)は相手を翻弄する場面も。

左ウイングバック:三都主アレサンドロ(浦和レッズ) 5.5点
*ドリブルやクロスで存在感を見せたような印象もありますが、いつも同じようなプレー選択。クロスもアーリークロスばかりで、しかもかなりプレッシャーの緩い状況にもかかわらず精度がイマイチ。左サイドに広大なスペースを貰っているのに、サイドをえぐるプレーは皆無。私的には不満です。

トップ下:藤田俊哉(ジュビロ磐田) 5.5点
*トップ下で出場も、ゴールやシュートに絡むプレーは見せられず。小野や稲本を交わすパス交換は見事でリズムを生んだと思いますが、中盤での繋ぎとプレスに追われ、攻撃面で物足らないので辛口採点。ただ、藤田でなくても、強豪相手の場合、日本チームはトップ下1人(1人のトップ下)というシステムは成立しづらいのではないかと感じます。世界的な流れからしてもそうですし、トップ下を置く場合は、むしろ超攻撃的なスリートップ(もしくはスリートップ気味のフォーメーション)になるのではないでしょうか。もう、そう結論づけるべきかも。

フォワード:久保竜彦(横浜Fマリノス) 7.0点
*チェコをアウェイで撃沈する豪快な決勝ゴールを叩き込んだのだから高得点。相手ディフェンダーが久保は左足が得意ということを知らなかったと思われるとはいえ、あのシュートはインターナショナルクラス。ただ、もう少し、あと何度か危険な香りのするシーンを見せて欲しかったです。その点からすると甘い採点かも。それから、何度もピッチに足を取られて滑りすぎ。

フォワード:玉田圭司(柏レイソル) 6.5点
*ゴールはなかったものの、積極的なドリブルを含めたハツラツとしたプレーで惜しいシュートも2本。スピードとテクニックは十分通用しました。クレバーなポジショニングと、チームが守勢に回った時に積極的に楔(くさび)の役目を果たそうとするプレーにも感心。後は、場数とスキルを体得していって欲しいと思います。

途中出場:加地亮(FC東京) 5.0点
*後半から西に替わって出場。ハンガリー戦と全く同じ交替ですが、この日はポジショニングを含めてガッカリするパフォーマンス。

途中出場:遠藤保仁(ガンバ大阪) <採点なし>
*稲本に替わって、後半20分頃に出場。特に目立った事項はないので、採点なしとさせていただきます。

途中出場:福西崇史(ジュビロ磐田) <採点なし>
*小野に替わって後半35分過ぎに出場。出場時間が短いので、採点なしとさせていただきます。

途中出場:三浦淳宏(東京ヴェルディ1969) <採点なし>
*三都主に替わって後半35分過ぎに出場。出場時間が短いので、採点なしとさせていただきます。

途中出場:本山雅志(鹿島アントラーズ) <採点なし>
*藤田に替わって後半35分過ぎに出場。出場時間が短いので、採点なしとさせていただきます。

途中出場:柳沢敦(サンプドリア)  <採点なし>
*玉田に替わって後半20分頃に出場。オフサイドの判定でノーゴールとなったプレー(三都主のクロスを流し込む)は「らしさ」を感じましたが、それだけ。よって採点なし。もっと簡単に倒れないようになって欲しいです。

ジーコ監督 <採点なし>
*確かにアウェイでのチェコ戦に勝利をおさめました。ヨーロッパ全体に対してアピールになったでしょうし、選手たちのパフォーマンスも全体的になかなか良かったと思います。コンディションの良い選手を起用したり、フレンドリーマッチらしいレギュレーションを活用して多くの選手をピッチに送り出したのも、確かに変化かもしれません。ただ、この1試合でもって、監督交替論を撤回することはできません。フットボールの中身に関するコメントや議論のない監督では、私たちの代表チームを任せられません。そんなわけで、この試合についても採点なしとさせていただきました。

試合内容 6.0点
*アウェイでチェコに対して一歩も引かずになかなかの好プレーを見せてくれたので合格点。結果は重要ではないとはいえ、内容はともかくチェコ相手に勝ったということは素直に嬉しいです。ただ、チェコは後半開始時に7人も交替させてきたわけで、その後もさらに選手交替させて、後半はほとんど練習試合の趣きに。チェコからすれば、その程度のテストマッチだったということも事実。そんな後半にもかかわらず、終盤は押されっぱなしでセーフティなクリアばかり。それから、チェコは本来4バックだったはずなのですが、この試合では3バックでした。チームのオプションもしくはフォーメーション変更へのトライとして慣れない3バックを試していたのでしょうか。それならば、なぜかタッチライン沿いに広大なスペースが空いていたのか納得できます。まあ、チェコにとってこの試合は、その程度の位置づけだったということでしょう。

ジーコ監督になって日本の特長である中盤の組織的なプレスがなくなってきたことを、これまでも指摘してきました。その印象は今でも変わりませんが、チームとしての組織的なプレス、約束事を作らないのならば、ジーコ監督が描く本来のフォーメーションである4-4-2よりも、中盤を厚くする3-5-2のシステムの方が、機能するような感じがします。

実際、チェコ戦でのゴールは、久保自身の能力もさることながら、中盤で藤田が奪ったボールを玉田が楔(くさび)になって受け、それを稲本にはたいて稲本から久保への縦パス…しかも、久保のドリブルに並走する形で藤田と玉田が猛然とゴール前(藤田はゴール中央、玉田はゴール左)へ詰めて行くという、日本の特長である中盤プレスからの絵に描いたようなショートカウンターだったわけです。

今後のA代表のスケジュールは、5月30日にアイスランド、6月1日にイングランドと対戦するイギリス遠征が入っています。その後、ホーム(さいたまスタジアム)で、6月9日にワールドカップ予選をインドと戦います。オマーン戦、シンガポール戦とショボイ試合が続いたワールドカップ予選、今回のインド戦はどうなりますことやら。
(2004.5.5)