日本代表(A代表)のヨーロッパ遠征2連戦を振り返ってみましょう

今回は、日本代表(A代表)のヨーロッパ遠征2連戦を振り返ってみましょう。J1リーグを中断(J2は中断なし)してのヨーロッパ遠征ですが、ヨーロッパは、来年のヨーロッパ選手権の予選リーグ大詰め真っただ中。そのヨーロッパへ乗り込んだわけです。

●チュニジアVS日本

まず、10月8日(日本時間では9日の早朝)に北アフリカのチュニジアのチュニスで、チュニジア代表と国際Aマッチを戦いました。

チュニジアは、昨年のワールドカップで対戦して2-0で快勝しているとはいえ、ワールドカップ後、フランス、ポルトガルとはドロー、カメルーン、セネガルには勝利などと、チュニジアは無敗。フランス代表の前監督、ロジェ・ルメールを迎えており、タフな試合になることが予想されました。

日本代表は、(イングランド・プレミアリーグ/トットナムの戸田はケガで辞退しましたが)ヨーロッパでプレーする選手たち全員集めたものの、日本からは、ケガや、Jリーグのカップ戦(ヤマザキナビスコ・カップ)のスケジュールと重なり、ベストメンバーでの遠征ではありません。この日のスターティングメンバーは、ゴールキーパーは楢崎(名古屋グランパスエイト)、ディフェンスラインは、右サイドバックが加地(FC東京)、センターバックが中澤(横浜F・マリノス)と茂庭(FC東京)、左サイドバックは三浦淳宏(東京ヴェルディ)、中澤と三浦淳宏は実に久々の代表復帰、加地と茂庭は初代表です。中盤は、稲本(イングランド/フルハム)、小野(オランダ/フェイエノールト)に、中田英寿(イタリア/パルマ)、中村俊輔(イタリア/レッジーナ)の、いわゆる「黄金の中盤」という顔ぶれ。フォワードは、鈴木隆行(ベルギー/ゾルダー)と柳沢(イタリア/サンプドリア)の2トップ。いつもの4-4-2のフォーメーションで臨みました。

キックオフ直後から、日本はチュニジアに押し込まれます。まったくの急造のディフェンスラインの不安定なプレーも目立ち、また、チュニジアが最終ラインを高く押し上げて中盤から厳しいプレスをかけてきたこともあって、日本は思うようにボールを落ち着かせることができません。中盤の底の稲本と小野も、最終ラインに吸収されるようになってしまって展開の起点になれず、苦しい時間が続きます。チュニジアがこういう組織的なプレーを展開してきたことは、少し驚き。やはり、ルメール監督の指導の成果でしょうか。

が、そうしたチュニジアのプレスも、前半30分前後を境にピタリと止まってしまいます。その直後の39分、日本の最終ラインからチュニジアのディフェンスラインの裏にフィードされたボールに柳沢が抜け出し、キーパーと1対1になってキッチリとゴール左隅にシュートを叩き込みます。相手チームの浅いディフェンスラインと中盤の厳しいプレスに対しては、ディフェンスラインの裏(ディフェンスラインとキーパーとの間)を狙うのも効果的。それがハマッた得点でした。

フットボールというのは、必ず流れが変わる瞬間があります。苦しい時間帯が続いてもガマンして何とか無失点で切り抜けたことが、こうした一瞬のゴールを生むことにもなるのです。

後半のホームのチュニジアからの反撃も思ったほど脅威もなく、終盤には日本も追加点の決定的な場面を作り出すなどして、このまま1-0でアウェイでの勝利をつかみました。満足な準備もできないで臨んだアウェイゲームですが、それでも1-0で勝ち切ったことは評価できる結果と思います。

もっとも、試合内容は決してよかったとはいえず、アウェイ勝利という意外には、あまり収穫があったとはいえない気がします。この試合展開ならば、あと1点は奪って悪くても2-0のスコアとするべきでしょう。加地や茂庭といった新しいメンバーの話題が取り上げられていますが、加地は右サイドでのオーバーラップで、茂庭は柳沢の決勝ゴールに繋がったフィードと、目立ったポイントもありましたが全体的に不安定で、A代表としてのパフォーマンスとはいえません。チュニジアのクロスに対してヘッドで競り勝つ場面の多かった中澤には評価の声も多いようですが、これまでレギュラークラスだった森岡(清水エスパルス)や宮本(ガンバ大阪)はカバーリングタイプで、確かに近年のA代表のセンターバックは高さ(身長)のあるヘディングの強い選手が少なかったので、その点では貴重な選手と思いますが、もっとフィード能力を高めないことには、ただ自軍ゴール前でヘッドで競るだけの選手ということになってしまいます。同じく身体能力が高い選手ということでは、今回はケガで遠征に参加できなかった松田(横浜F・マリノス)の最近のパフォーマンスが、A代表のセンターバックとしてふさわしいものなのかどうか、Jリーグの試合でも着目してみましょう。

また、特にこうしたアウェイゲームでは、中田英寿・中村俊輔・小野伸二・稲本潤一の4人、マスコミの言う「黄金の中盤」にこだわることは、どうなのでしょうか。確かにこの4人は、ヨーロッパで活躍中の能力も実績もある選手たちです。ですが、中盤をスクェア(ボックス)型の4-4-2システムで行くならば、中盤の底には遠藤保仁(ガンバ大阪)や戸田や明神(柏レイソル)といった選手の中から1人入れて、「黄金の4人」の中の3人を起用するというのが、現実的なのではないでしょうか。

それから、中盤の底を遠藤保仁と稲本のコンビにした時も、最近では、稲本が中盤の底のバランスとりに追われているのが目につきます。それではせっかくの稲本の攻撃力が生かされないばかりか、稲本が主に中盤の底のバランスとりの役目をするのは、ちょっと怖い感じがするのですが。

もう1点、中村俊輔は攻撃に専念させたほうがよい(裏を返せば、その攻撃センスは大きな武器にはなるものの、中途半端に中盤でのボール回しに関わってボールを失う機会を減らしたい)と感じるのも、気になる点です。

●ルーマニアVS日本

チュニジア戦を終えた日本代表はルーマニアに移動して、10月11日にブカレストでルーマニア代表と国際Aマッチを戦いました。ルーマニア戦の前に、ケガで合流が遅れていた高原がドイツから駆けつけ、日本からもヤマザキナビスコ・カップのために合流が遅れていた、浦和レッズの山田暢久と坪井、清水エスパルスの三都主が合流しました。

ルーマニア戦は最近にないグッドなマッチメイク。昨年のワールドカップ出場こそ逃しましたが、1990年代には国際舞台でもしっかりとした実績を残している東ヨーロッパの強豪です。ルーマニアの代表的な選手といえば、やはり昨シーズン、パルマで中田英寿と一緒にプレーしてセリエAで18ゴールもあげたアドリアン・ムトゥでしょう。ムトゥは今シーズン前にイングランド・プレミアリーグのチェルシーに移籍し、チェルシーでも活躍を見せています。また今シーズンに、オランダのアヤックスからイタリアのローマに移籍してレギュラーを獲得しているディフェンスラインのクリスティアン・キヴも、注目の選手です。

この日はヨーロッパ選手権の予選リーグ最終戦。ヨーロッパ各地で、激しい予選リーグ順位争いが繰り広げられる日ですが、ルーマニアはすでに予選リーグの全試合を終えており、この試合が実現したというわけです。しかも、日本のゴールデンタイムに合わせて、現地では昼過ぎのキックオフです。

日本のスターティングメンバーは、ゴールキーパーに川口(デンマーク/ノーシャラン)が入り、右サイドバックは山田暢久、センターバックは中澤と坪井、左サイドバックは三都主、中盤はチュニジア戦とまったく同じ、小野、稲本、中田英寿、中村俊輔の4人、フォワードは柳沢と高原(ドイツ/ハンブルガーSV)という4-4-2です。

キックオフから悪くない感じで試合に入っていったと思った日本代表ですが、前半16分に、右サイドに回ったムトゥに切れ込みを許し、角度のない所から先制ゴールを決められてしまいます。このシーン、坪井がムトゥに付いて行っていたのですが、ワンサイドカットの応対をしていたと思うので、その応対は間違いではありませんし、決して完全に振り切られたわけではないのですが、一瞬のスピードでシュートを打たれてしまいました。ただ、そのシュートも決して強烈なものではなく、ゴールを許してしまったのはキーパーの川口のミスでしょう。味方ディフェンダーがワンサイドカットをしているのに、ニア(ゴールポスト側)を抜かれてしまうのは、正直、いただけません。

前半は、チュニジア戦と同じように(チュニジア戦よりもずっとマシでしたが)日本はあまりよい形が作れません。明らかに中盤からの押し上げが足りず、2トップが孤立するようなシーンが続きます。それでも、失点直後の柳沢のダイレクトボレーシュート、小野の左サイドを突破しての決定的なクロス、小野のコーナーキックから中澤のヘディング(ゴールライン上で相手選手がクリア)と、いくつかの惜しい場面を見せます。

後半に入ると、ルーマニアのプレッシャーが緩くなったこともあるのか、ようやく中盤の選手たちが前線へ押し上げて行けるようになります。前半はほとんど消えていた中村俊輔もボールに触れるようになり、中盤での細かいパスワークも徐々に見られ始めます。そうした中、後半13分には、中盤の細かいパスワークから中田英寿のノールックのラストパスに柳沢が反応し、2試合連続のゴールを叩き込みます。決定機を逃さなかった柳沢のシュートもさることながら、久しぶりに見せてくれた中田英寿のラストパスは実に見事。相手ディフェンスラインの上をループで越しながら、逆スピンをかけて、柳沢がダイレクトでシュートしやすい所に落としました。

この後も、きれいな仕掛けからいくつか非常に惜しいシーンを作りましたが、ルーマニアのキーパーの好プレー(さすがに、オランダのアヤックスの正ゴールキーパーだけあります。日本代表にも、こういう安定感のあるキーパーが欲しい)や、アウェイらしいジャッジもあって、追加点は奪えず、このまま1-1のドローとなりました。

確かに、どうしても勝利にこだわるなら、勝ち切れた(勝ち切らなくてはならなかった)試合ではありましたが、アウェイでのルーマニア相手のドローは、よい結果と思います。

この試合で目についたのは、まず、随所にあらためて技術の高さを感じさせられた小野伸二のプレーです。そして、ルーマニア側からも、力強くてしっかりしている、と称賛された中田英寿のパフォーマンスでしょうか。稲本潤一が中盤の底のバランスとりに追われたためか、試合終盤にスタミナ切れを起こしていたようですが、中村俊輔を加えた4人の中盤は、世界中のどの国の人が見ても、「いい中盤だ」と評判になることでしょう。ただ、チュニジア戦のインプレッションでも書きましたが、シャレの効かない真剣勝負では、この4人の中から3人を使って、あと1人は、もっと最終ライン(ディフェンスライン)との連携がとれて、相手の攻撃の芽を摘む、相手の2列目の攻撃を潰す能力の高い選手を起用することを希望します。

中村俊輔については、やはり彼が前目で攻撃に絡むとよい攻撃の形が生まれてきますが、もっとボールをもらう動きを積極的にしてくれないと、ボールに触れることすらできない(味方からすると、ボールを回せない)ことが明らかです。中村俊輔の攻撃能力は日本の大きな武器であることは確かですが、常に相手との攻防一体の中で11人が連動性・流動性を持って動き戦わなくてはならない現代フットボールでは、いくら攻撃面における優れたセンスを持っていても、中盤で不用意にボールを失ったり、ボールを引き出す(受ける)動きが足りなかったり、中盤でのメリハリあるディフェンスが足りなかったりすれば、味方の負担を増加させてしまうだけの存在になる場合もあります。

日本と対戦するどのチームも(アジアの国だけでなく、世界のどの国も)、どうやら日本の中盤を警戒し、中盤潰しを狙ってくるようです。日本の中盤が苦しい形でボールを受けざるをえない状況になってミスが出てしまうようだと、日本の戦いは非常に苦しくなります。中盤は日本の生命線なのです。当然、アジア各国も日本対策をとってきますので、そうした状況下で打開策を見出せるのかどうか、まだ確証は持てません。三都主の左サイドバックはどう見ても狙われると思われますので、そろそろ止めて欲しいという点も合わせて心配しつつ、1勝1引き分けの結果にほんの少しの心地よさも感じつつ、来年2月に始まると噂される2006年ドイツ・ワールドカップのアジア予選の長丁場の戦いになだれ込もうとしている、2003年秋のヨーロッパ遠征アウェイ・シリーズでした。
(2003.10.13)