さて、アジア・チャンピオン(2000年アジアカップ優勝)としてコンフェデレーションズカップに臨んだ日本代表の戦いぶりを振り返ってみましょう。グループリーグは、フランス、コロンビア、ニュージーランドと同組。上位2チームが決勝トーナメントに進出します。フルメンバーではないとは言え、やはり地元のフランスが一歩抜きん出ている感じ。日本はコロンビアとの2位争いが予想されました。日本も、小野伸二が不参加ですし、福西などもリタイア。決してフルメンバーではありません。 日本VSニュージーランド(6月18日:パリ) オセアニアのチャンピオンと言えば毎度オーストラリアなのですが、今回はニュージーランド。日本のスタメンは、先日のパラグアイ戦とまったく同じ。試合のほうは、中村俊輔の先制ゴールで前半を1-0で折り返し、後半立ち上がり少し押し込まれましたが無失点で切り抜けて中田英寿のミドルシュートと、中村俊輔のヘディングシュートで追加点を奪い、3-0で勝利しました。 ゴールはどれも鮮やかでしたが、前半で少なくともあと2点くらいはとれているはず。試合内容も、ニュージーランドの力量からするとあまり参考にはならず、実戦練習、フォーメーション練習ができた程度に過ぎない、といったところでしょうか。 得点シーンを振り返ってみると、1点めは、右サイドからの大久保の折り返しに、中田英寿、高原、中村俊輔の3人が走り込んでのゴール。2点めは、中田英寿が中央のスペースへドリブルで入って行き、高原と大久保の2トップがシュートコースを空けたところにミドルシュート(高原と大久保は、本当に、意図的にシュートコースを空けたんだと思いたい。それから、中田英寿がドリブルに入った瞬間、私は「中田、シュートだ!」と2度も叫びました。1度にして欲しかったです。中田英寿がローマ時代にユベントス戦で決めた時は確か1度だったのですが)。3点めは、中村俊輔が右サイドをオーバーラップした山田にはたいて、そのままゴール前でダッシュして大きなワン・ツー・リターンでのダイビングヘッド(この時も、高原と大久保にもっとダイナミックな動きが欲しかった)。 …というゴールでした。それにしても、相変わらずフォワードがゴールしないチームです。中盤の選手がゴールするチームは、面白いゲームをするけれども結果がついてこない、というのはフットボールの常なのですが。それから、今大会は中1日で試合が組まれるというかなり異常なスケジュール。それだけに、いかに選手を休ませるかが重要なはずなのですが、日本は3-0とリードした後も選手交替をまったく行いませんでした。大いに疑問の残るベンチワークです。 日本VSフランス(6月20日:サンテティエンヌ) この試合、フランスは「2軍」というコメントが旧来メディアで頻繁に見られました。確かに、ジダンなど世界的なスター選手の何人かは今大会そのものに召集されていませんし、この日本戦のスタメンも、フランスの初戦(コロンビア戦)よりもさらにメンバーを大幅に入れ替えてきました。が、これは「ターンオーバー制」というものです。「2軍」という表現はまったく不適切。フルメンバーではない、とは言えるでしょうが、仮にもA代表です。A代表に「1軍」とか「2軍」という言いかたは当てはまりません。日本のメディアの悪しき慣習は、改めていただきたいものです。 日本はニュージーランド戦とまったく同じスタメン。キックオフから互角と言っていい攻防を展開しましたが、前半終了間際に、フランスのコーナーキックの場面で稲本がファウルを取られてペナルティキックを与えてしまい、これを決められて1-0で前半を終了します。このPKについては、確かに稲本は相手選手を掴んでいたのでファウルなのですが、PKを取るほどのものか大いに疑問を感じました。ただ、この試合のレフェリーは、日本選手の相手を掴むプレーに対して繊細になっている感じがありましたので、不用意だったと言わざるをえません。 が、問題なのは、その前のCKを与えてしまった場面です。宮本の軽率なプレーが原因だったのですが、あれはいただけません。まるで、昨年のワールドカップのトルコ戦で失点のきっかけとなったCKを与えた中田浩二のプレーと同じです。CKになった瞬間、嫌な感じがしたのは私だけではないと思います。 後半に入って、日本は同点に追いつきます。フランスゴール中央やや左寄りの位置からのフリーキックを、遠藤保仁のフェイクから中村俊輔が鮮やかに決めました。中村俊輔の評価をさらに高めたゴールと言えるでしょう(ただ、中村俊輔がFKを決める時はいつも同じコース。段々国際的に知られてくると、コースを読まれてしまうのではないでしょうか。セリエAでは、もう読まれている気がしますが)。ところがその直後、フランスの左サイド(日本では右サイド)深い位置からのクロスに対して、ディフェンスラインの実にまずい位置取りでフランスのフォワードの選手にドンピシャで受けられてしまい、ワントラップから豪快に叩き込まれてしまいます。日本のゴール前に何人もいながら、たった1人に入り込まれてゴールを奪われてしまう、日本のディフェンスの脆さが露になってしまいました。 日本も惜しいシーンが続きます。右に開いて相手ディフェンダーと競り勝った高原が左足でクロスを入れ、2列目から走り込んだ中田英寿がボレーで叩きましたが、残念ながらクロスバーを越えてしまいました。国際的なプレイヤーである中田英寿なら、ぜひ決めて欲しかったシュートです。ただ、全速で走り込んだところに高原のクロスがやや体の横に来てしまい、確かに難しいシュートではあったのですが。この後も、中村俊輔がFKを決めたのと同じような位置から、今度は遠藤保仁が蹴り、惜しくもクロスバーを叩きます。中村俊輔のジダンばりの足の裏フェイントからの惜しいシュートもありました。最後まで積極的な攻撃を見せた日本ですが、残念ながら追いつくことができず、1-2で落としてしまいました。ただ、現地でも日本のパフォーマンスには称賛の声もあったようで、試合自体は良かったと思います。負ける試合ではなく、非常に悔しい試合でした。 日本VSコロンビア(6月22日:サンテティエンヌ) 2戦を終えて、1勝1敗の勝点3ポイント。引き分けでも得失点差で勝ち抜けるという有利な状況で、コロンビア戦を迎えました。中村俊輔が足首の怪我で欠場、稲本もサスペンション(累積警告)で出場できず、中盤の底は遠藤保仁と中田浩二に、中盤前目は中田英寿と小笠原に、その他はまったく変更なしのスタメンで臨みました。スタメンとしては、どうでしょう。怪我や累積警告で使えない2選手のところに別の選手を当てはめただけ。他の9人は、中1日で3連戦となる選手ばかりです。しかも、「負けなければよい」試合。もっと考えたスタメンがあったはずです。 日本は決定的なチャンスをいくつか掴むものの、モノにすることができません。ですが、コロンビアの攻撃にもさほどの脅威もなく、このまま0-0で十分引き分けられると思った矢先、宮本が大きなミスを犯してしまいます。遠藤保仁との連携におけるミスで宮本だけの責任ではないという向きもありますが、ボールを取り返そうとプレスをかけてくる相手選手の前でヒールパスをするなどというのは、「やってはいけないプレー」です。そのボールを右サイドを突破されて折り返され、中央のコロンビア選手に決められてしまいます。 そのシーンも、日本のディフェンダーが3人も前にいながら、コロンビアのフォワードの選手はあえて後ろにボールを戻し気味にして振り向きざまに意表を突いたシュートを放つという、日本のフォワードならできないスキルとアイディアでした。また、右サイドを突破されるところでも坪井がチェックに行ったのですが、もう少し対処方法があったようにも思われます。結局、このまま追いつくことができず、日本はよもやのグループ・リーグ敗退となってしまいました。決める時に決めておかないと、こういうことになるものです。 今回のコンフェデで、日本も新しいメンバーが戦力として計算できることが確認できた部分があります。遠藤保仁をはじめ、フォワードの大久保、サイドバックの山田、センターバックの坪井などです。その意味では、選手層の充実について一定の手ごたえを感じることができたと思います。 その一方で、小笠原や中田浩二など、中心になるメンバーと思っていた選手たちの中に、残念ながら期待外れだった選手もいます。海外移籍も噂されるクラスなのですから、もっと貪欲なプレーを欲しかったと思います。より高いレベル、より厳しい環境でプレーする道を選択してくれることを期待するしかないのでしょうか。 また、システム・フォーメーションとしては、現在の4-4-2でこれからも行くのでしょうか。間違いなく4バックは続けるでしょう。今大会でもあらためて感じた日本のフォワードの現在の能力レベルを考えると、日本のウリである中盤の豊富なタレントをもっと生かすほうが相応しいようにも思われます。また、中盤でも稲本のように、得点力、攻撃力はあるけれども守備やバランスや持続性に不安がある選手を有効に生かすためには、どうすればよいのでしょう。そこで、例えば4-5-1(4-2-3-1または4-3-2-1)のシステムにしてみるのも、1つの方法かもしれません。3バックの時は1トップでは攻撃の枚数が少な過ぎてしまいましたが、4バックならば、1トップにしてもそうはならないように思えます。 「決定力」についても、現在の日本の選手たちの能力や才能や選手層を生かした攻撃スタイルの模索に、もっと分析的に取り組んで欲しいと思います。フランスだって、1998年のワールドカップで優勝していますが、その前の94年のワールドカップで予選敗退した後、フランスチームとしての攻撃スタイルを生み出すべく分析と研究を重ねて(もちろん、そうした分析・研究だけによるものではありませんが)、今日の攻撃力をモノにしてきた経緯があったと記憶しています。 また、メディアでも采配を疑問視する声が出始めたジーコ監督ですが、私からすると、ジーコ監督が就任した時点ですでに予想されたことです。本来ならばもっと適任者がいると思うのですが、とは言え、ここはもうしばらく様子を見るしかないと思うのです。もちろん、スパッと監督交替すれば大したものですが、日本の流儀というか性質として、それはありえないでしょうから。ただ、このようなチームづくりでは、2005年に予定されている2006年ドイツ・ワールドカップのアジア予選は、たいへんな苦戦が予想されるでしょう。 そのことを強く念頭に置きながら、私たちファンもサポーターも、メディアも、そして日本サッカー協会関係者も、日本チームの強化を真剣に考えていく必要があると思うのです。監督交替のタイミングについても、何かの国際大会(例えば、来年開催が噂される先ごろ延期された東アジア選手権とか、2004年のアジア・カップとか…)での成績を評価判断して監督交替を考えるよりも、何らかの客観的な診断・分析をもって監督問題を議論して欲しいと思います。何かの国際大会で優勝しようと敗退しようと、ワールドカップやワールドカップ予選の前では、それは何の意味も持たないのです。すべての道は「ワールドカップ」なのです。これもまた、フットボールの世界の常識です。世界のフットボールの「リング」は、本当に厳しいのですから。 最後に、今大会中に急逝したカメルーン代表のマルク・ビビアン・フォエ選手のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。 (2003.7.4) |