相変わらずコンセプトが見えないA代表

3月28日に、今年初めてのA代表の試合(国際Aマッチ)が行われました。
内外の諸情勢から急遽決まった試合にもかかわらず、国立競技場のスタンドがビッシリ埋まっていたのが印象的でした。

試合のほうは、レコバ(イタリア・セリエAのインテル・ミラノ所属)擁するウルグアイに常に先行を許しながら2−2のドロー。ジーコ監督が就任して3試合めの国際Aマッチでしたが、またしても勝利はなりませんでした。

もっとも、この段階での勝利は唯一最大の重要事項ではありません。もちろん、きっちりと勝つことは大事なことですが、これはいわば親善試合でありテストマッチ。本当に勝利を求められるのは、ワールドカップ予選やワールドカップ本大会での熾烈な戦いの場においてなのです。ましてや、はるばる日本に長旅をしてきたばかりでコンディションやモチベーションが万全とはいえない相手チームにいくら気持ちよく勝ってみたところで、それは必ずしも大きな価値あることではない、ということは、もうすでに多くの皆さんがお気づきのことと思います。

テストマッチでは、試合結果よりも、いかにチームが出来上がっていっているか、それを選手や関係者や私たちも確認し、今後の方向性を探っていくことにこそ、より大きな意味があると思います。

海外からわざわざ中田英寿、小野、稲本、中村俊輔、鈴木、高原、そして川口を呼び戻して挑んだウルグアイ戦でしたが、どういうチームづくりをしていこうとしているのか、コンセプトが相変わらず見られないというのが、私の率直な感想です。

ジーコ監督は、選手たちの個性と自主性を重視したチームづくりを掲げていると聞きます。前任者のトルシエが、そのチーム戦術や決まり事の中に選手たちを縛りつけていたように伝える向きが今日でも少なくない中で、従来的な日本のメディアのスタンスなりバイアスとしては、ジーコ監督のそうしたコンセプトをもてはやす空気にあるように感じます。

もちろん、選手たちの個性や自主性を重視するのは大事なことですし、サッカーというスポーツにおいては、前後半45分が始まってしまうと、ベンチ(監督やコーチ)ができることは非常に限られています。そこでは当然にして、いくら素晴らしい選手育成・チームづくりをしていようとも、いかに練り込まれた戦術や作戦を立てていようとも、選手一人ひとりの個性や自主性や能力・判断力が発揮されることなくして、勝利を得ることも、納得できる試合をすることも、ありえないのです。それがサッカー(トータルフットボール)というものです。

そうしてみると、「選手の個性や自主性の重視」というフレーズがことさらに強調されて伝わってくることに、少々違和感を感じてしまいます。実際に、現在のA代表のチームづくりに不安を感じているファンやサポーターもかなり多いようです。

今後のA代表のスケジュールは、今月16日にアウェイで韓国戦があり、5月末には横浜で開催される東アジア選手権、6月には日本で2試合を戦うキリンカップ(うち1試合は大阪でのアルゼンチン戦が予定されています。)と、フランスで開催されるコンフェデレーションズ・カップへの出場と、国際Aマッチが目白押しです。

これらの試合の中で、ジーコ監督の目指すチームづくりのコンセプトや土台や骨格が明らかになってくるのか、注目していきたいと思います。

さて、試合内容についていくつか印象を書いてみましょう。

まず最終ラインです。右サイドバックに名良橋(鹿島アントラーズ)を、左サイドバックに服部(ジュビロ磐田)を置き、センターバックは秋田(鹿島アントラーズ)と森岡(清水エスパルス)という4バックでした。

私はやはり、最終ラインについては不安を感じざるをえません。現状では、アジアの国と対戦しても、1試合に最低1点から2点は覚悟しないといけないような気がします。実際、今年に入って開催された東アジアのクラブ選手権(A3・マツダ・アジアチャンピオンズカップ=ジュビロ磐田と鹿島アントラーズが出場)や、アジアのクラブ選手権(AFCチャンピオンズリーグ=鹿島アントラーズと清水エスパルスが出場)でも、日本のチームの失点が結構目につきました。

思えばワールドカップに初出場した1998年のフランス大会でグループリーグで敗退した後、「守備は世界にも通用した」といった論調が、サッカーファンの間でも聞かれました。アルゼンチンとクロアチアにいずれも1失点だったという結果だけをとらえてのそのような論調に、私は大きな違和感を感じたものです。実は、それから4年間、日本のディフェンスラインはあまり進化してきていないのではないかと感じます。もっと多くの新しい人材が登場してきてくれるることを、期待したいと思います。

ただ、森岡が入ったことで、最終ラインから前線へのフィードが加わるようになったことはプラス要素と思います。

中盤については、先発はいわゆる「黄金の中盤」という顔ぶれでした。中田英寿を中心とした攻撃の組み立ては見所が多かったと思いますが、中盤の底での守備とバランス、中盤の底からの展開力に不満が残りました。

特に稲本については、後半、三都主(清水エスパルス)から中田英寿を経由して渡ってきたボールを鮮やかに叩き込んだ同点ゴールは見事でしたし、その場面以外でも、昨年のワールドカップでも見られた後方からシュートレンジに攻め上がってくるシャドーストライカーぶりは目を引きました。ただその一方で、中盤の底のパフォーマンスについての課題が忘れられないように望みたいと思います。もちろん、それは稲本だけの責任ではなく、小野も含めた中盤全体の問題なのですが。

ウルグアイ戦に限っては、後半、中田浩二(鹿島アントラーズ)が入ってからのほうが、少し修正されたように感じられました。

高原と鈴木の2トップについては、特に高原は、前半、森岡からのロングフィードをヘッド(ヘディング)で鈴木に落とし、そのリターンパスにバッチリのタイミングで走り込みながら、ワントラップしてしまってシュートを相手GKにぶつけてしまったプレーが、たいへん悔やまれます。なぜ、ダイレクトでシュートしなかったのでしょうか。

また、終盤に国際Aマッチ初出場となった黒部(京都パープルサンガ)ですが、中田英寿からのクロスをヘッドで折り返してしまったプレーには、ちょっとガッカリしてしまいました。あそこはゴールを狙って欲しかったところです。

ネガティブな面ばかり書いてしまいましたが、元々守備が堅いといわれるウルグアイに、常に先行を許してアウェイらしい戦いかたをされてしまったにもかかわらず、何とかゴールマウスをこじ開けて追いついた点は、逞しさを見せてくれたかなと思います。もちろん、本当に逞しさを感じさせてくれるのは、試合終盤に動きの落ちた相手から逆転ゴールを奪って見せてくれることなのですが。

いずれにしても、6月まで続くAマッチの連続には、本当に期待して見守っていきたいと思います。

ところで、4月2日には豊田スタジアムで、U-22コスタリカ代表を迎えてU-22代表の試合も行われました。結果は1-1のドローに終わりましたが、やはり現在のU-22は、どうも1試合に何度かは大きなポカをするクセ(?)があるみたいです。阿部勇樹(ジェフ市原)のFKでのゴールは素晴らしいの一言に尽きましたが。

でも、A代表よりもU-22のほうが、意図やコンセプトが明確に伝わってきた印象があります。なんだか飄々としながらも結果を出すチームなのかなあ、と感じたりもしています。U-22が目指すのは、5月初めと今年秋に開催されるアテネ・オリンピックのアジア予選です。

最後にJリーグのことを少し。今年から、J1でも延長戦がなくなりました。リーグ戦なのに延長Vゴールがあったことが、そもそもおかしかったのですが、試合方式についてはやっと国際標準になったことになります。そのためか、中身の濃い90分間が見られているようで、どの試合もなかなか面白い試合になっているようです。お時間があればぜひJリーグの試合にも足を運んで、代表に入って欲しい有望な選手を探してみてはいかがでしょうか。

では、また。(2003.4.7)