敗れたけれども素晴らしい戦いだったメキシコ

アルゼンチンに延長戦の末に敗れたメキシコですが、いや〜素晴らしかった。

細かいパス回しでボールをどんどん動かして、選手たちがどんどん連動して動く、どんどん選手が沸いてくるように出てくる。ボール回しの中で安易にボールを失ったりしない。アルゼンチンの攻撃に対しても、決して慌てることなくツボを押さえた守備で、決定的なピンチになりそうな場面でも、そうでもなさ気に凌いでいく。決して身体能力的に秀でているわけではない。でも運動量が落ちないこの試合ぶり…これこそ日本がやんなきゃいけないフットボールじゃないのか?

試合を決めたのはアルゼンチンのマキシ・ロドリゲスのスーパーゴール。

私はグループリーグが終わった段階で「いちばん目についた選手は誰か?」と聞かれて真っ先に名前を挙げたのがマキシ・ロドリゲスだった。ただ、いわゆるファンタジスタではない、むしろ労働者タイプ。汗かき役。いわゆるスーパースターのタイプじゃない。それでもこんな意外性のあるゴールを決めて見せるのだから、日本の単なる(文字通りの)労働者型とは全然違う。

この試合ではメキシコの素晴らしいパフォーマンスに、本来の攻撃力発揮とは行かなかったアルゼンチン、次は乗ってしまっているドイツだ。

ドイツは明らかに「穴」はあるのだが、それがボロ出ないでここまで来ている。何だかんだ言いながらも結構勝ち進んで行くのだろうか。この日の両チームの出来を見る限りでは、一転してドイツ有利のような気がする。

日本代表4年間の総括(その3)…「組織か個か」? そういう問題じゃない

どうもこういう時だけ、したり顔で出てきていっぱしの事を言う“評論家さん”がいるよね。そういう連中、普段からサッカー見てんのかね?

曰く…
・日本は個の力では劣るのでこれまで組織で戦ってきた…で今回、個の力を押し出したが個の力が劣っていた…とか。
・ジーコのやり方はブラジルには適用できるかもしれないけど日本には時期尚早だった…とか。
・トルシエの時から一転していきなり自由や応用を選手に求めたのがうまく行かなかった…とか。

だからね、そういう「組織か個か」っていう単純なハナシじゃないのさ。

そう、個の力もまだ劣っている。だからと言って、それを補うだけのために組織サッカーやってきたんじゃないのだ。そういう理屈をこねているだけで、ちゃんと見てないな、よく知らないな、ってわかるんだけど。

個の力も組織性も同時に両方必要なのだ。組織を考える時には個の力のことも同時に考えているし、個の力を生かすために組織もあるのだよ。

いい? 同じ4-4-2のフォーメーションだったとしよう。選手が入れ替われば、同じ4-4-2でもシステムや戦術が変わってくる。だからね、組織を考えるときには選手の個性も考えているわけ。今大会のブラジルだってよく見てごらん、守備のやり方とか、ちゃんと規律や戦術が見て取れる。

ジーコはそもそも、組織戦術を持ち合わせていなかったということ。
ジーコのやり方が日本にとって時期尚早だったのではないということ。


ジーコの4年間を否定して組織頼みに戻したら日本サッカーは退行する…とまで言ってくれる“評論家さん”もいる。イヤ、だから「組織頼み」に戻るわけじゃない。

でもジーコの4年間は「組織か個か」というハナシじゃなくて、無為な4年間だったとは言わざるをえないよ。フットボール戦術の「進化」としては、ね。

4年に一度のワールドカップは、世界的にも各国的にも一つのターニングポイントであり、フットボールの進化や変化を見極める時なんですよ。だからそこでは「戦術本」が形にされたり、フットボールを科学として「検証」「研究」したりするわけ。

今回の日本代表チームは、何らフットボールとしての進化は残せなかった。ジーコ監督の日本代表チームとして「戦術本」に書けることはほとんどない。ちなみに過去の日本代表でも、そのレベルはともかくとしても、とにかく「戦術本」に書ける内容はあった。

だからこの4年間、日本のフットボールの進化はもしかしたら止まっていたか、いくつかの経験を積んだからほんの少しだけ積み上げたか、という程度でしかない。

私は残念ながらそう思っている。(2006/6/25)