Vol.12 花束を持つ男性、素敵です

赤バラ新しい年が明けて、はや2か月が経とうとしていますが、みなさまこの冬はいかがお過ごしでしょうか。

この季節は、クリスマスやお正月に匹敵するほどの行事はありませんが、新しい年が明けるとすぐに、デパートなどでは、バレンタインのチョコレート商戦が始まっていました。今年は、バレンタインデーが平日だったこともあり、“義理チョコ”が復活などといわれていましたが、実際はどうだったのでしょうか。最近では、女性の友人同士でプレゼントしあう“友チョコ”や、自分自身へのご褒美の“自分チョコ”などもあり、様々な用途が広まりつつあるようです。これも、チョコレート業界の苦肉の策かしら、と思うところでもありますが、こういうことを機に、様々なことが元気になればよいのかな、とも思います。

さて、日本では、バレンタインデーのプレゼントといえば、女性から男性にチョコレートを贈るのが定番となっていますが、海外では、男性が女性にプレゼントを贈るのが一般的なようです。中でも、花を贈ることが多いようで、とくに赤いバラは、その代表でもあります。ニューヨークの花屋では、一年で最も忙しいのは、母の日ではなくバレンタインデーである、といわれているようです。

花瓶入り花束

贈られた花束は、こんな風に花瓶に飾って……

ところで、日本では、男性が女性に花をプレゼントすること、さらにいうと、花屋に出向いて花を買い、自らの手で女性に渡すことは、あまり多くないように思うのですが、みなさんのまわりではいかがでしょうか。バレンタインデーに、男性から花を受け取った女性が、はたしてどのくらいいらしたのか調べてみたいところでもありますし、花屋にいるお客さんといえば、ほとんどが女性の気がします。

日本の男性が、海外の男性に比べて、花を贈ることが少ないのは、男女を問わず、花をプレゼントすることにかかわる、文化の違いにもあるのだと思います。

アメリカに住んでいた方から聞いた話ですが、たとえば、どなたかのお宅を訪ねる際にお持ちするのは、圧倒的に花が多いそうです。日本の場合は、お菓子などの食べ物が多い気がしますが、アメリカなどの場合は、様々な人種の方がいらっしゃり、信仰している宗教も違います。となると、食べ物をお持ちしても、その方の宗教によって、召し上がれないものがあったりするからなのだそうで、そういう点からも花を贈る、ということに行き着くそうなのです。

また、フランスに住んでいらした方のお話でも、どなたかのお宅を訪ねる際にお持ちするのは、やはり花が多いとおっしゃっていました。しかも、差し上げるのは、アレンジメントではなく、花束だそうです。そして、その花束を花瓶に入れる役割を担うのは、奥さまというわけでもなく、そのお宅のご主人だったり、家族の方だったり、つまり男性がその役割を果たす、また手伝う場合も多いそうです。受け取った花束の大きさなどから、どの花瓶に飾るのがふさわしいのかを瞬時に判断し、その花瓶を迅速に出して、花束を花瓶に飾ってお客さまとともに眺める。この作業が、いかにスムーズになされるかで、そのお宅の、家族間のコンビネーションのよさを垣間みることさえできる、という話を聞いたことがあります。

花を持つ男性

ニューヨークのグリーン・マーケットにて

また、外国では、プレゼントに限らず、男性が自宅に飾る花束などを持って、颯爽と歩く姿を見ることが、多いように思います。ニューヨークのグリーン・マーケットや、ロンドンのコロンビア・ロード・フラワー・マーケットなどでは、男性が自宅用と思われる花を買っているのを見かけ、微笑ましく感じた覚えがあります。

さて、日本ではどうでしょうか。私は、男性のお客さまから、女性宛への花束やアレンジメントを頼まれることが時々ありますが、こちらが花屋でなくアトリエとして活動しているということもあり、男性が花束を受け取りに来るのではなく、私が届け先にお届けすることがほとんどなのです。そして、やはり花を依頼されるのは、女性のほうが圧倒的に多いのです。

以前働いていた花屋では、ごくまれに男性のお客さまが、プレゼントの花を買いにいらしていました。きっと、花の不思議な力に誘われて、花をプレゼントしよう、と決心されていらしたのでしょう。若い方、年配の方ともにいらっしゃいましたが、どの方にも共通していたのは“恥ずかしそうにしていた”ということでした。花束をつくる前に、用途や希望をうかがうのですが、そのお応えも非常に短く、結局「わからないから、適当に」という場合も多かった気がします。私の想像では、どうも花屋の店内にいらっしゃること自体も恥ずかしいご様子で、花束をつくっている間は、お店の外に出てしまう方もいらっしゃいました。花束ができあがり、お渡ししようとすると「紙袋に入れて」とおっしゃる方もいらして、でも、袋の大きさも限られているので、無理矢理入れると花が傷ついたり、リボンが押されたりすることを説明した覚えもあります。「それでもよいです。ちょっと恥ずかしくてねぇ」とおっしゃって、こちらとしては泣く泣く紙袋に入れたことがあった気もします。さらには、大きさの関係で、紙袋にはどうしても入らないと説明すると、その花屋はデパート内の花屋だったのですが、仕上がった花束を、デパートの包み紙で包んで欲しいと言われたこともありました。確かに、大きな花束を持って歩くは気恥ずかしい、というのがわからないわけでもありませんが、「花束を持って歩くのは、とても素敵ですよ」と声をかけたい気持ちでした。

花束

このような花束だと男性も持ちやすいのでしょうか。

でも、これも10年以上前のこと、今では花屋の店構えも開放的な雰囲気になっているので、少しは店内に入りやすくなったのではないでしょうか。ただ、やはり気恥ずかしい男性の気持ちはあまりかわっていないようです。箱の中にビッチリと花が入り、フタがしまっているボックスフラワーは、かわいらしくて女性に人気のようですが、中身が花だとわかりにくいこともあって、男性客が購入しやすいと聞いたことがあります。

日本の男性が、花束を持って歩くことに抵抗がなくなるまでには、まだもう少し時間がかかりそうですので、私たち、花に携わる人間が、持ってすてきだと思われる花束を手がけていくことも大切なのかもしれません。

もうすぐホワイトデー。バレンタインデーとは逆の、ホワイトデーに、もし男性が自らの手で、花束をプレゼントしてくれたとしたら、きっと感激だと思います。そして、花を買おうと考え、花屋に出向き、花束を持って歩いた男性のその勇気に、大きな拍手をしていただきたいと思います。


〜持ちやすい花束を依頼する際のワンポイントアドバイス〜

男性は、大きく仕上がった花束を持つのが、ちょっと恥ずかしいのかもしれませんね。そこで、花屋さんに依頼をする際に、大きくならないように、とあらかじめリクエストすることも大切かもしれません。おそらく花屋さんが事前に聞いてくれるとは思いますが、大きい、小さいの基準も違うかもしれませんので、「このくらいの大きさが希望」というように、手でしめしたりするのもよいと思いますよ。小さい花束では貧弱になるのでは、という心配があるのかもしれませんが、花がたくさん詰まったようなブーケスタイルの花束は、同じ分量の花を使っても、花と花との間に空間がある、縦長タイプの大きな花束に比べ、コンパクトにまとまりますし、しかも、可愛らしく仕上がりますね。また、縦長タイプの花束でも、少し高価な花を取り入れて、スタイリッシュにまとめれば、男性が持つ際にも、持ちやすいのではないでしょうか。これらは、女性が花束を依頼するときにも、同様だと思いますので、ご参考になさってみてくださいね。

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