Vol.10 「花」という共通語が縁での不思議な出会い

アレンジ猛暑の延長のような暖かい日々が続いていたかと思ったら、急に寒さが増してきました。東京でも、ふと街路樹をみると、ハナミズキが秋らしい色に紅葉しています。

紅葉のハナミズキで思い出すのは、昨年の今頃のこと。ふとしたことから知り合った、ベルギー在住の、日本人フラワーデザイナーである栄久子さんが、日本に一時帰国されるということで、このアトリエに滞在していただき、私の生徒たちにレッスンをおこなっていただきました。その時に使った花材のひとつが、紅葉したハナミズキの葉でした。

レッスンの内容は盛りだくさんで、生花のアレンジが2点、そして、アイスフラワーを一輪使った小さな壁掛けでした。アイスフラワーとは、フリーズドライの花です。通常ドライフラワーというと、少し縮んでしまう印象がありますが、アイスフラワーは、切りたての花をベルギーの特殊な冷却方法で凍結乾燥し、美しさを保存するもので、彼女がレッスンのためにお持ちくださったのです。内容の濃いレッスンと、レッスン後のベルギー料理(栄久子さんお手製のものと、私がレシピを調べてつくったもの)、そしてベルギービールに生徒さんたちも大喜びしていた、1年前の光景が思い浮かびます。

アイスフラワー

アイスフラワーを使った壁掛け

さて、食べものに話がそれてしまいましたが、紅葉のハナミズキの葉をどのようにアレンジに取り入れたかというと、葉を丸め、まるで葉が器にみえるかのようにアレンジしたのです。ナチュラルでありながら、少しスタイリッシュな、日本ではあまりお目にかかることのできない、ベルギーらしいアレンジでした。花は、市場で仕入れましたが、ハナミズキの葉は、レッスンの当日、公園の落ち葉を、たくさん拾って帰り、活用しました。紅葉の葉であれば、特に種類は問わないとのことでしたので、どんな葉でもよかったのですが、ちょうど時期的にハナミズキの葉がいちばん美しく紅葉して、形も最適だったので、アレンジに取り入れたというところです。

日本、特に東京で、アレンジメントのレッスンで使う花材といえば、花市場や花屋さんで調達することがほとんどだと思いますが、ベルギーでは自然から調達できるものをうまく利用してアレンジ等に取り入れ、ステキな素材に変身させることも多いようなのです。ハナミズキのような紅葉の落ち葉、枯れ枝、石……。何気なく前を通り過ぎてしまいそうな自然の産物ばかりですが、見方を変えると、素晴らしい素材になるものなのだと思います。まさにこれこそ、“エコ”なのではないでしょうか。ただ、それには、つねに自然の移り変わりを目でよく観察して、肌で感じていなければいけないのだと思います。ここ、東京では、自然が少ないから、と思いがちですが、そんなことはないようです。注意深くみていると、まるで宝の山を前にしている程になるのかもしれません。

リエージュの花店

リエージュで訪れた花店にはクリスマスらしいアレンジが……

以前、フィンランドに在住していた、日本人のフラワーデザイナーを訪ねた際、彼女も同様のことをいっていました。彼女が言っていたことは、アレンジや花束をつくるために切り落とした茎や葉も、手を加えればステキなオブジェになる、ということ。そして、それらを発見する目をもつだけでなく、頭を使って、何ができるのか考えることが大切、ということだったのです。ベルギーとフィンランドで、国は違っていても、同じヨーロッパ。何か共通するものを感じました。そして、日本でいう“もったいない”の精神も、もしかしたら少しだけそれに通ずるのかもしれません。

ところで、ベルギー在住のフラワーデザイナー、栄久子さんとは、どのようにして出会ったか、ということですが、最初にお目にかかったのは、一昨年の11月のこと。今から2年前です。雑誌の取材も兼ね、私がベルギーを訪れた際に、初めてお目にかかりました。その取材は、ベルギーのある都市で、花屋さんを含めたお店を2軒取材するというものでした。首都のブリュッセルには、別な友人がいて、その彼女が事前にリサーチしてくれたおかげで、ブリュッセルでの花屋に関する取材は、出発前にうまく段取りをつけることができていました。

リエージュの教会

教会内の美しいキャンドルをみて……

あと1都市をぜひ、と思っていたわけですが、ほかに心当たりもなく途方に暮れていました。でも、もしかしてドイツに在住していたフラワーデザイナーの友人であれば、何か手がかりがあるかもしれない、と思って問い合わせたところ、紹介していただいたのが、栄久子さんでした。それが何と出発の2週間前。その後、メールでご挨拶するところから始まり、ベルギーに到着してから電話にて連絡を取り、リエージュという、ベルギー南部の古都の駅改札にて初対面を果たすに至ったのです。在ベルギー30年以上という彼女に連れていっていただいた花屋さんは、まるで美術館を思わせるようなお店。そして、お話を伺った花屋さんのスタッフも、プロ意識を持った魅力的な方で、そのお話のすべてを通訳してくださったのが、彼女でした。お忙しい中を、初対面の私のために時間を割いてくださり、取材をすべてスムーズに進めてくださいました。ほかにも私のためにたくさんのご尽力いただき、その日お世話になったことをすべてあげたら、数えきれないくらいで、感謝の言葉もみつからないほどでした。長いようで短い、あっという間の一日でした。

取材を終え、栄久子さんともお別れし、リエージュ駅まで戻る途中に、街を少しだけ観光しようと入った教会で、その日の1日のでき事をひとつひとつ思い浮かべて感謝したこと、そして夕暮れ時の、リエージュの街の美しい光景は忘れられません。

こうして、ふとしたことから知り合った私たちですが、これも2人には花という共通語があり、そして花に不思議な力があるからこそのご縁があり、初対面から1年後に喜ばしい再会を果たすことができたのではないか、と思っています。


〜海外で花屋さんを訪れる際のワンポイントアドバイス〜

海外で花屋さんを訪ねてみるのも、なかなかよいですよ。その国では、どんな花を売っているのか、また美しくディスプレーされている店内をみるのも楽しみですね。そして、花屋さんを訪れると、旅行者でなく、その土地の住人という気分にも浸れる気がしますよね。

以前に申し上げたかと思いますが、花屋さんと一口にいっても、お店によって様々な特徴がありますから、できれば事前に、その土地のオシャレな花屋さんを調べていかれるとよいですね。そして、店内をみるだけではなく、できたら花を買ってみると、より一層、旅行の楽しさが増すことでしょう。ホテルなどでは花瓶を貸してくれるところもあると思いますが、小さなバスケットや花瓶に入ったアレンジを買ってみるとよいと思いますよ。せっかくなら、その花屋さんならではの、特徴が出るものがよいと思うので、例えば、花を1種類だけ指定して、あとはお任せするとか、可愛らしくとか大人っぽくなどの形容詞でお願いする、なども面白いかもしれませんね。可愛らしい、大人っぽいをその国によってどう表現するかの、文化の違い!? までみえてくるかもしれません。お花をホテルに飾って旅行も一段と満喫できることでしょう。

そして、とても大切なことをひとつ。あまりにステキな店内に、思わずカメラを向けてしまう、ということがあるかもしれませんが、これは禁物です。必ずお店の方に、店内の写真を写してよいか許可をいただいてから、シャッターをきるようにしてくださいね。

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