Vol.08 花の気持ちになって……

夏を感じるヒマワリ。いよいよ、夏本番。暑い日々が続くので、花にとっては、少々厳しい季節となりますが、ほんの一輪だけでも花があると、心が穏やかになったり、ホッとしたりします。夏の花の代表であるヒマワリは、季節を感じることができ、また元気をもらえる花でもあります。最近では、ゴッホ、モネ、ゴーギャンなどの画家の名前がついた、様々な品種が出回るようになりました。もしかしたら、元気だけでなく、画家の気分を味わうこともできるのかもしれません。

早いもので、このコラムがスタートして約1年が経とうとしています。毎回、“花のもつ不思議なチカラ”をお伝えするべく、様々な角度から少しずつお話していますが、書いている私も、改めてその不思議な力に驚いているところです。

第1回目で、“送り主の気持ちを伝える、フラワーギフト”というお話をした際、あるお客様から、毎年同じ送り先へ、お中元とお歳暮のフラワーギフトを依頼されている、と申し上げました。送り先の方とは、特別な言葉を交わす間柄ではなかったのですが、この1年で、少し嬉しい変化がありました。

すごく楽しめました、とおっしゃっていただけたアレンジ。

すごく楽しめました、とおっしゃっていただけたアレンジ。

送り先は数件あり、遠方は宅配便を利用しますが、私が自分自身で届けられる範囲の場所は、自らの手で配達をしています。もちろん私は、送り先の方を存じてはいませんでした。しかし、毎回お届けをするにしたがって、年に2回は必ずお目にかかるようになり、配達の際に、不思議と少しずつお話をするようになってきたのです。最初の頃は「ご苦労さまです」という、ありきたりの言葉から。しだいに「お店はどちらに? 花屋さんなんですか?」「いえ、ショップはもたず、アトリエで活動していて、オーダーに応じて花を仕入れる形式で……」という具合に。その次に伺った時には、「前回の、お歳暮にいただいたクリスマスのお花、すごく楽しませていただきましたよ」という嬉しい言葉。そして、今では、花に関することを尋ねられたり、また、つい先日は、フラワーギフトのご依頼をいただき、本当にありがたく思いました。宅配便でお届けしている方には、事前にお届け日の都合を伺う電話を入れていますが、回を重ねるたびに、少しずつお話するようになり、一度もお目にかかったことはないのに、まるで知人に季節のご挨拶をするかのように、その方が少しずつ身近な存在に感じられるようになってきました。

きっと、私自身がお届けをしたり、電話をしているので、このような間柄になったのかもしれませんが、もし仮に、届けているものが、花でなくても、はたして同じだったのだろうか、と思うことが時々あります。この季節であれば、楽しんでいただけるのは、1週間ほど。決して長い期間ではありません。でも、生きているものだからこそ、その間をとても大切に感じる。そして、枯れてなくなってはしまうけれど、心に余韻を残す。“花の不思議なチカラ”があるからではないか、と思います。

宅配便なども普及して、大変便利にはなりましたが、自ら花を届けていると、届け先の方の、花を受けとる際の表情を、手にとるように見ることができるので、大変参考になるのです。送り主の気持ちを、上手く伝えることはできたのかしら、と。それが、アナログな仕事のよいところなのかもしれません。もちろん、今まで数多くのアレンジや花束を届けていますから、それほどよい反応にはお見うけしなかったことも、多少はあった気がしますが、届け先の方に、受けとりのサインをお願いし、ふと顔を上げられた瞬間を見ると、涙を浮かべていらした、ということもありました。そういう時は、依頼主からの気持ちをうまく届けられたという思いで、私も感無量になるのです。事前に、花が届くとわかっている場合でも、花には想像を超える何かがあるのでしょうか。感激、というと大げさですが、サプライズに似た何かも、届けているような気がします。

トルコキキョウを取り入れ、クレマチスの流れをいかしたアレンジ。

トルコキキョウを取り入れ、クレマチスの流れをいかしたアレンジ。

そして、花の不思議な力をうまく発揮できるよう、私が気をつけていることがあります。それは、アレンジや花束をつくる際に、花の気持ちになってつくる、ということなのです。あまり現実的な話でないので、驚かれるかもしれませんが、花の気持ちになってアレンジなどをつくれば、必然的に美しいものができあがるのではないか、ということです。例えば、アレンジをつくる際、花や枝を、ふさわしくない場所に配置しても、仕上がりは美しくありません。きっと、そのように配置された花や枝は、「あれっ、僕はこの場所にいていいのかな?」と、まわりから浮いてしまった存在になった気持ちとなり、気分がすぐれないであろう、と思うのです。また、バラなどは、つぼみから徐々に咲いていく花なので、咲いた姿も想像し、その時にバランスがよいことも考えて、アレンジを仕上げるわけです。それほど大きくなかった花が、段々と咲いてくるわけですが、もし隣の花と接近して配置してしまうと、花が咲いた時に、お互いがぶつかりそうになってしまいます。もし自分自身が花として、隣の人とそんなに接近したら「きゃ〜、ぶつかりそう」と、あまり心地よくないのでは、と思ったりするのです。また、花を扱う時も、「私が花だったら嫌だな」と思う扱いはしないように、などとレッスンの生徒さんに話したりもしています。作品を袋に入れて持ち帰る際、花が傷ついてしまう入れ方をしては、作品も台無しです。その際、「私、袋にぶつかって痛いっ」という花の声を聞いてほしいのです。花を紙に包む時も同じです。一瞬、花の気持ちになってみてほしいのです。

このご時世、花のように、実用的でないものは、少しずつ生活から遠ざかっていってしまうのかもしれません。しかし、そんな時こそ、そういうものと触れる、ほのぼのとした時間も必要なのではと思います。豪華な花を、ということではなく、数輪をお皿に浮かべるだけでも違ってくるのではと思います。そして、“花の不思議なチカラ”を発揮できるように、私たちが“花の気持ちになる”ことも大切なのかもしれません。


〜夏の間、花と上手に過ごすためのワンポイントアドバイス〜

デンファレ

デンファレ。数輪の花でも、お家に飾ると涼しげな気持ちに。

暑い毎日ではありますが、少しでも長く花を楽しもうと思うなら、ちょっとしたことに気をつけると、随分違ってくると思いますよ。まず、花を買う時、もちのよさそうな種類を選ぶのも大切。香りに誘われてバラの花を買ったら、すぐにぐったり、などということもありますものね。

基本的に夏の花は、やはり暑さに強いです。夏といえば、やはりヒマワリでしょうか。1、2本を飾るだけでも、存在感がありますね。そして、使いやすいのはトルコキキョウ。品種によって、値段が高めのものもありますが、枝咲きで1本に5〜6輪ついて、もちもよいので、1本買うだけでも充分楽しめますよ。あとは、アンスリウム、そしてデンファレなどランの仲間は、やはりもちがよいです。でも、もちのよい花だからといって、油断は禁物。置き場所はなるべく涼しいところに。ただし、冷房の風が直接あたる場所は、花が乾燥してしまうので、避けてくださいね。

そして、なんといっても大切なのは水かえです。この季節は、特に毎日水をかえて、花を弱らせるバクテリアの繁殖をおさえましょう。花もきれいなお水を飲みたいだろうな、という気持ちになってみてください。ご自身が花瓶の水を飲むことを考えたら、やはり汚れた水では嫌ですものね。ここでも、“花の気持ちになる”です。そして、花瓶の内側や茎のヌルヌルとした部分を、スポンジ等で必ずきれいに洗い、茎先をほんの少し、切り戻してあげてくださいね。

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