Vol.06 桜の花とともに迎える、新年度

桜桜の花と出会える季節となりました。桜は、私たち日本人にとって、特別な思い入れのある木ではないでしょうか。日本には、他にも様々な種類の木があり、この季節ですと、木蓮なども白い花を美しく咲かせますが、こんなにも多くの人々に、花の満開を待ちわびられている木は、他に思い浮かべることができません。

桜は、「木」というより、「花」という認識のほうが適切なのかもしれません。桜の花が絵柄となっている便箋や封筒、はがき、箸置きなどは、この季節ならではのもの。桜の花が満開となる季節には、何かそういうものを身の回りに置いてみたり、使ったりしたくなるものです。花が咲く期間はそれほど長くないので、上手くタイミングを合わせないと、ちょっと早かったとか、遅すぎたとなってしまいそうです。そこで、私は、桜がモチーフとなっているものを あわてて買いに行かなくてもよいように、前の年に購入して、備えたりしています。皆様も、来年のこの季節のためにいかがでしょうか。でも、くれぐれも1年経って、購入したことをお忘れにならないように。

ところで、桜はバラ科の植物ということを、ご存じでしたでしょうか。そして、桜の木をよくご覧になってみたことがありますでしょうか。一重咲きの華奢で可愛らしい花に注目が集まって、全体像を見落としてしまいがちですが、よく見てみると、枝はかなり力強く、男性的な印象です。以前、満開の桜の木を絵に描いてみようと、よくよく観察したところ、しっかりとした枝ぶりに、改めて生命力を感じました。それに比べると、花はまた違って女性的な印象です。つぼみがほころびかける様子は、たいそう初々しく、その中から一輪、そしてまた一輪と咲き始めるにつれて、私達の心もソワソワ。徐々に全体が咲いてくるとウキウキ。そして待ちに待った、八分咲き、満開へと続きます。さらに、その後がまた見事なこと。桜吹雪とは上手い表現をしたもので、春の風にのりながら舞い散る桜の花びら。散り際には、なんとも心揺さぶられる余韻を残してくれます。つぼみから散り際まで、それぞれの顔を持ち、私たちの心を和ませ、幻想的な夜桜としても楽しませてくれるからこそ、こんなに愛されるのかもしれません。これこそ、花の不思議な力ではないでしょうか。

桜は、満開までが注目の的ですが、花びらが散り、その後、緑色の葉が出て、いわゆる葉桜という状態となり、秋には紅葉。そして 葉が落ち、また次の春を迎える、という事になります。花が咲く頃だけでなく、桜の花後も、「木」という認識で注目なさってみると、より一層、日本の季節の移り変わりを肌で感じることができると思います。

 御見舞にお届けしたアレンジ

御見舞にお届けしたアレンジ。

お花見として馴染み深い桜は、一重のソメイヨシノ、そして八重桜ですが、生け花やアレンジメントにも枝物として桜を使います。一重咲きでよく使われるのが啓翁桜(けいおうざくら)という品種。花の色は、ピンク色です。この桜には太い幹はなく、形のよい枝が何本もまとまって一つの株を作り、生産されているようなので、枝も太すぎず生け花やアレンジメントに使いやすいのかもしれません。 八重桜は、花びらもたくさんあり、花が大きく濃いピンク色をしていて、華やかです。

以前、4月の半ば頃に退院する方へ、ということで御見舞のアレンジメントを頼まれたことがあります。デザインはお任せします、とのことでしたので、きっと、一重の桜が満開だった頃は、入院されていて、お花見も楽しめなかったのだろう、また、退院なさっても外に出て八重桜をご覧になれるかしらと考え、八重桜を取り入れた季節感たっぷりのアレンジメントをお届けしました。依頼主からの気持ちとともに、桜の気持ちも届いたようです。

また、毎年4月1日には、ある会社の入社式に飾る花を生けていますが、そこには桜の枝を必ず入れています。桜は、つぼみの状態のまま生けたのでは、華やかさに欠けてしまいます。入社式で新入社員を迎えるにふさわしいよう、式典の時間にいちばん華やかな状態になるよう、数日前に仕入れをして、きれいに咲かせた状態で納品します。入社式の時に満開となるように調整するのは、意外と難しく、とても神経を使います。その頃の気温により、花の咲く速度も違いますから、4月1日以前の週間天気予報で気温をチェックするのは欠かせません。また、どのくらつぼみが固い状態で、枝を仕入れるかでも、花が満開となる日数が変わってきます。いざ仕入れをして、4月1日までになかなか咲かないと判断した時は、かなり暖かい部屋に移動させたり、さらには暖房を入れて温度を上げたりなど。逆に、早く咲きすぎてしまっては大変ですから、そのあたりは長年の経験で、ばっちりとタイミングがあうように、水揚げで工夫したり等々、職人技を使うが如く、花と向き合っています。

 真っ白な気持ちをイメージした白い花を取り入れて

真っ白な気持ちをイメージした白い花を取り入れて。

さて、4月1日に入社式が行われるように、4月からは新年度。学校ですと、卒業・入学、そして会社では新入社員が入社したり、人事異動があったりで、環境がかわったりするものです。

新しい年が明けお正月を迎えると、気持ちも新たになるものですが、新年度が近いこの時期は、桜の花も咲き、何となくフレッシュな清々しい気持ちになるものです。4月を機に、何か新たなことを始めようとお考えの方も多いことと思います。そこで、花そのものの話から少し視点をかえて、新年度にちなみ、お稽古事に関する話をしてみましょう。

昔は、女性はお茶、お花 といったお稽古、それも継続的に行うお稽古事をほとんどの方がされていた気がします。現在では、お稽古事のジャンルも様々で、継続的に行うものだけでなく、単発のものなど数多くあります。

こちらのアトリエでもお花のレッスンを行っていて、クリスマス等は単発レッスンも行いますが、通常は、月1回からということで継続的にレッスンにいらしていただいています。やはり、何を行うにも基礎は大切で、繰り返し行っていかないと、なかなか身に付かないものです。基礎がしっかりしていず、何となくできているように見える作品と、基礎がきちんとできている方が作った作品を比べると、やはり差が出てしまいます。吸水性スポンジにお花を挿すアレンジメントですと、お花の保ちさえ格段に違うことがあります。少し話がそれますが、画家のピカソが描く絵は、広く皆様の知るところと思います。抽象的なものを思い浮かべる方が多いと思いますが、彼の初期の頃の作品は、抽象的なものではなく、「あの抽象的な作品を描けるのは、根底にきっちりとした基礎があるから」と思わせるものだったと、記憶しています。

また、アトリエの生徒さんたちを見ていると“継続は力なり”とは本当だな、とつくづく思います。みなさん、初心者で始められる方が多いのですが、1年、2年と年数を経るに従い、確実に上達されているのを実感します。ご本人は「なかなか上手にならなくて」等と謙遜されていますが、知らぬはご本人ばかりなり、というところで、月1回のレッスンでも、始めた頃と比べると随分と上達されています。

実は、私もお稽古事をいくつか習っています。そのほとんどが仕事に関連したものなので、いわゆる趣味とは違うのですが、さらなるアレンジメント技術向上のために現代生け花を、自身の作品を美しく残すために写真を、というところです。また、幼い頃から習っているクラシックバレエは、大切な趣味で、仕事の合間を見つけては、楽しくレッスンに行っています。

“継続は力なり”の成果!? というところでしょうか。

“継続は力なり”の成果!? というところでしょうか。

そして、この数年間は、書道を習っていました。きっかけは、ふとしたことで、実はこれも仕事関連の理由で始めましたが、習い始めてみると、その先生からは、書道の技術だけでなく、私のような教える立場の人間に必要であろう何か、を多く学んだと思っています。現代生け花は、花に関することなので、初めて触れることではありません。また、クラシックバレエも長年習っているので、ほぼわかっていることです。それに比べて、書道は学校の授業では習いましたが、そこからかなりの年月を経ていますから、初めて触れるに等しかったと思います。初めて何かを学ぶ方々が、どのように説明されれば、わかりやすく、しかも楽しくレッスンにいらっしゃることができるだろう、ということを、私が生徒の立場となることで、本当に実感できた年月でした。こういうことを得られるとは、予期していなかったですが、たいそうな収穫でした。このアトリエにレッスンにいらっしゃる方の多くは、初めてアレンジメントを習う方。教える私が、ジャンルは違っても、初心者の生徒という立場で学ぶことができた、有意義な時間に感謝しています。お稽古事に付随した何かを得られるというのも、お稽古事に取り組むことのよさではないかと、実感しました。

そして、気付いてみると、習い始めは、筆の持ち方もおぼつかなかった私が、便箋数枚の手紙まで書けるようになりました。やはり、“継続は力なり”というところでしょうか。少し書けるようになったこの時こそ、これからもそれを忘れないよう、地道に継続することが大切なのでしょう。

花の仕事に携わるにあたり、必要と思われる、他ジャンルのことを色々と学ぼうと思う気持ちがわくのも、花の不思議な力のお陰かもしれない、と思いながら、この桜の季節を迎えているところです。


〜お稽古事を始めるにあたってのワンポイントアドバイス〜

4月なので、お稽古事をスタートしようと思っている方も多いのでは? そこで、途中で挫折しないための、ちょっとしたアドバイスを。せっかく始めるのですから、続けることが大切ですよね。まず習いに行く教室を決めるところから。カルチャースクールもあり、個人の教室もあり、それぞれ特徴があると思いますから、ご自身の目的にあったところを見つけられるとよいですね。多分、レッスン見学ができる教室も多いと思いますので、先ずは見学にいらしてみて、レッスンや先生の雰囲気をご覧になってみてはいかがでしょうか。レッスン自体の内容も大切ですが、先生との相性、いらしている生徒さんの雰囲気なども意外と大切だと思います。ただ、あまりたくさん見学してしまい、迷ってしまうのもいけないので、そこそこに。そして、なによりも、そのお稽古事を行うことで、楽しい気持ちになれそうか、もポイントです。そして、レッスンを始めたら……できるだけ休まない、遅刻をしない、ということも重要だと思いますよ。これ、とっても簡単そうですけれど、結構大事なことなんです。お稽古事は、上達していくことも大きな楽しみのひとつですよね。でも、お休みをしてしまうと、なかなか上達しない、よって次第に楽しくなくなってしまう、というところではないでしょうか。無理なく、でもちょっと頑張って通えそうな教室を選択なさってみてくださいね。

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