今日、RYONは貧乏だったので、アルバイトをした。1日こっきりの仕事だったので、適当に楽しみながらやっていたのだが、そこに、雑誌編集をしているという、定年間際のおじさまが来ていた。
いちおう、RYONはライターなどという名前の仕事をしているので、ここは一発名前を売ってやろうと、色々とアピールをした。「仕事とは」「人間とは」。RYONは一見あたま悪そうだが、実は色々と自分なりの世界観を持ってるんだよ〜ん、ということを、切々と訴えた。さあ、仕事をくれ。 しかしそれが、チ〜ンと、違うところに響いちゃったようなのである。
「君のように、自分をしっかりと持っている女性は珍しいね。どう? 一緒に夕御飯でも食べに行かないかい?」
……いや……夕御飯ではなく、仕事をくれよ……。
いや待てよ。普段、年下の男の子ばかり相手にしていて、知識的にも人間的にも刺激の少ない生活をしているが、これは、RYONに新しい視点を植え付ける、絶好のチャンスではないか。夕御飯ついでに仕事ももらえるかもしれないし、RYONはついていくことにした。
「人間、自分で経験できることって限られているからね。たくさんの絵画や書物に触れることで、あらゆる経験を疑似体験することは、とても大切なことだよ」
はあ。確かにそうだわ。
「やっぱり、自分に多くを与えてくれる人とつき合いたいものだよね」
まあそれは、自分の心がけ次第だが、そうだよな。 さっきから、うんとかすんとかしか返事のできないRYONである。これではいかん。少しくらい場を盛り上げないと。しかしおじさまは続けた。
「例えば、10万円のスーツを買ってもらうとか、高級なレストランに連れて行ってもらうとか」
あれっなんか、雲行きが怪しいぞ? またもや返事ができない。……それにしても、「多くを与える人」ってそんな直球でいいのか?
「そういえば君は、パソコンに詳しいんだよね。僕もいろいろとやってるんだよ」
さすが編集者。新しもの好きの、チャレンジャーだ。あのようなお年になってパソコンにトライするのは、かなりの努力が必要であろう。RYONは前向きな努力家が大好きだ。この際歳の差なんて、見ない振りをしようか? (いろいろ買ってくれるようだし)しかしRYONは、マックユーザーなので、ウィンドウズはよくわからない。正直にそう言うと、
「そうか……。……マックとLotus1-2-3って、どう違うのかな?」
…。
……どう……違うんだろうか……。結局また、返事のできないRYONであった。無口になったRYONは、早々にご飯を平らげておいとましてきた。んで結局、こうしてひとりで飲みに行くのである。……ふぅ〜……。物知りのおじさまならいいけど、知ったかぶりはいやだよ…。