RYONは、テニスが相当好きだ。
勉強もあんまり、家事もあんまり得意じゃない中で、テニスだけはちょびっとできるからである。そのため大学のテニスサークルに入ってるのだが、そこがいまや消える寸前のろうそく状態、テニスサークルだっつうのに、テニスするヤツが全くいない。当然練習も行われない。

テニスもできず、テニス仲間も見つけられない(ということはかっこいい男の子もあんまり見つからないということである)。何のためのテニスサークルだか。
これは、そんな悲しい気持ちになっていたRYONの物語である……。

とある仕事で打ち合わせに行ったときのこと。担当のカンジさんは珍しくRYONより年上の男性だった。年がら年中、目を細めてるような感じの、おとなしい大人のサラリーマンって感じの人であった。ふと話をしていたら、彼はテニスをするということで、アツいテニス論議をかもし出した。

RYONは大喜びで叫んだ。
「えーっ! 今度やりにいきましょうよ!」
カンジさんは、何度も「本当ですか?」「本当ですか?」と聞いた。

RYONは、
「コートを取りますから、いきましょうよ。いつがいいですか?」
と叫んだ。
カンジさんはまたも繰り返した。
「ほんとに行くんですか?」と念を押す。
先走ったかなと思ったRYONは急いで、
「あ、もしかして、なんかまずいですか?」
と何の気なしに聞いたら、
「ええ……。妻がね……でも、黙っていればわからないことですから……」

……。
ちょっと待て。妻に黙っていなければいけないようなお誘いをしたか?
「いや、そういうつもりはないですよ。面倒くさいのは嫌いだし」
と急いで訂正した。カンジさんは、
「ええ……。大丈夫ですよ……。浮気するときはいつも、きちんと相手に浮気だって先方に了解を得てますから」

「……あの……私は単にテニスを……」
「ええ……妻はテニスをしませんから……」

世の中には、男女といったら即色気、という人もいるらしいと、四半世紀とちょっと生きてきて、RYONは学んだ。これ以上なんと説明しても無駄だろう。それはRYONに「ジャニーズ顔はかっこよくない」と説明をするようなもんである。

「ジャニーズ顔」=「かっこいい」、「女」=「エロ気」というような回路が出来上がっちゃってると、それ以外のプラグをつなぐのが難しいのだ。そしてカンジさんは「RYONはあなたに惚れてるの」という電波を受け取ってしまったらしい。

「あ、いや〜、4月のスケジュール、まだわかんないですよね、残念だな!」
などといきなりいいわけをして、RYONは別れの挨拶をはじめようとした。
カンジさんはつぶやいた。

「僕が都合のいいときに電話をしますよ……妻がいないときに」

RYONはホラー映画をほとんど見たことがないが、きっとこのくらい怖いんだろう。うかうか自宅にいて、かかってきた電話に出た日には、とても恐ろしい出来事が起こりそうなので、しばらくは現実逃避にわっかい男の子と遊んでいよう。な〜む〜。