RYONはここんところ、貧乏ひまひまだったので、派遣のお姉さんとして一般事務というヤツをやっていた。

が、その営業所では、一般事務なぞ単なる使いっぱなんである。何故か出社したら営業部員の机を拭いてやらなければいけないことになったり、
「いや〜、RYONさんはパソコンが出来るから、今まで手作業だったものがパソコンでやってもらえて楽だなあ」
という感じになってしまい、やたらと無茶な頼み事が多い。RYONはキミたちのお母さんでもなければ、あんたらに楽させるためにパソコンを勉強したのでもないぞ。なんせマイペースなRYONに、他人の補佐の仕事は向かないのだ。

契約満了になり、やっと終わったかという気持ちで、穴の空いた胃だの腸だのを抑えつつ所長さんと面談をした。この所長さん、40歳そこそこですでに所長という異例の出世株、将来有望のデキるヤツだ。とにかくすごい数字の売り上げを出すらしく、頭脳明晰である。しかし物腰は穏やか、紳士なのだ。深い……!って感じのおじさまであった。

RYONは大変可愛がってもらっており、ちょくちょく外出させてもらったし、なにやら色々見込んでくれているようだった。「やめたい」というのは少々気が引けた。

「キミはやる気があるし、ぜひここに残って販促の担当をしてもらいたい」
というありがたいお言葉をいただいた。
が、やはりRYONの目標がモノ書きである以上、ここを続けるわけにはゆかないのだ。そして、やはりRYONにはこの事務所が合わなかったことを切々と説明した。RYONはどうしても、自分の都合のいいように人を使う、この事務所の人たちとは仕事はやりたくなかった。実際、事務員の退職率は大変高い。……申し訳ない、所長さん。

すると所長さんは深く頷き、
「そうか……君は、血液型は何型だっけ?」
「Aですけど……」とRYONは答えた。

「うちの事務所はみんなB型だから、A型の君はやりづらかっただろうね……」

RYONは、血液型の性格判断というのが大嫌いだ。だいたい根拠がない。最大限譲ってあったとしても、子供は親と似たような性格になるものだし、血液型だって似たようなのが計算されて出てくるのだから、統計を取れば、血液型ごとに傾向が出てくるのかもしれない。が、問題を直視せずに、血液型に根拠を求めるような、安易な考え方が気に入らないのだ。

所長さんはさらに直球を投げてきた。

「でも、A型とO型は相性がいいんだよ。……僕はO型なんだけどね……。……あと君、星座は?」

……。
さてRYONは、なんの心残りもなくなり、さっさと退出してきたのであった。