RYONはこのところ、大好きな男の子と中距離メール交換を行っている。毎日毎日、それはそれは社説ぐらいの長さのメールを書いては送信、読んでは返信、という毎日である。そんなある日……。

RYONが家に帰ってくると、留守電のランプが点滅していた。「ああ、また編集者からの原稿の催促か。胃が痛てえな」などと思い、憂鬱な気持ちで再生ボタンを押した。ピー。

「もしもしRYONちゃん? 俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」

RYONの頭は白くなった。
何かの間違いではと思い、発信者の番号を調べた。……南野くんの番号だ。間違いない。RYONのあたまの中からは、先ほどまで遊んでいたロン毛チャパツくんなど、アンドロメダよりも彼方へ飛び去った。

脳みそも心臓もグツグツ沸騰して、周りの景色が映画の画面のように平たくなった。ななななんで南野くん?? 普段、電話なんかかけてこないのに!再生ボタンを押した。ピー。

「もしもしRYONちゃん? 俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」
ああこれは確かに南野くんの声だ。

でもなんだ「RYONちゃん」って??
普段南野くんはRYONを「名字+さん」で呼ぶ。名前なんか、知ってたのかというくらいの勢いである。これはどういうことだ南野くん。ピー。

「もしもしRYONちゃん? 俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」

急いでRYONは南野くんに電話をかけた。
「……こちらは、NTTドコモです。おかけになったお客様は現在、電波の届かない……」
ああ! 世界で一番いやなメッセージが!!

結局その日は朝まで眠れず、床でゴロゴロとのたうち回って過ごした。
「もしもしRYONちゃん? 俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」
「もしもしRYONちゃん? 俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」
「もしもしRYONちゃん? 俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」

そして、どうしたらいいのかわからないまま3日間。南野くんからメールが届いた。

……何事もなかったかのような内容であった。ついRYONも何事もなかったかのような返事を出してしまった。……ああ、この寝不足をどうしてくれるんだ、南野!

そんなことをしているうちに1週間、2週間と日が過ぎ、今さら「あの電話はなんだったの?」などといきなり切り出すのも変な感じになってしまった。メールで電話関係の話に持っていき、「電話といえば……」などと書こうとするのだが、どうもそのチャンスがやってこない(仕事の原稿だったら、持ってきたい話に内容をリンクさせるのなんか簡単なのだが……くぅ)。

友だちにも「酔ったときに電話するなんて、よほど気になる相手じゃなきゃしないだろう」などと言われ、1か月ほどのたうち回った。

「もしもしRYONちゃん?俺、南野。ごめん今酔ってる。また電話します」
(そう、RYONはこの留守電を消さずにとっておいたのだ)。

そして先日、とうとう南野くんに会う用事ができた。つらつらととめどない話をしながらRYONは、まんじりと電話の話を切り出すチャンスをうかがっていた。

なんの話をしていたか忘れたが、こんな南野くんの言葉が飛び込んできた。
「俺さ、女から言い寄られると、引いちゃうんだよね。しつこかったりジメジメした女ってダメだしさ。『あれ、覚えてる?』とか過去の話を持ち出されたりすんのもイヤだね」

……。

留守電を消さずにとっておくことほど、ジメジメしつこい行為があるだろうか。しかも本人酔っぱらってたなら覚えてない確率大じゃないか。

結局また何事もなく面会を終え、別れ離れになったRYONであった。どうしたらいいのか、誰か教えてくれ。