RYONはもう何年も、片思いしてる人がいる。
今まで出てきたヤツらはなんだったんだとか、なんだか計算が合わないじゃないかとか、まあそういう細かいことは気にしないとして、とにかくもう5年くらい前から密かに片想いなんである。これはホント。こっちがホント。

で、このたびRYONは、その彼となんと3年ぶりにデートすることになった。
ここは一発なんとかしたいじゃないか。1か月も前からRYONは、策略を練り始めた。

先ずは美しくなろう。RYONはデートまでの1か月間、毎日2回風呂に入った。RYONの肌はムチムチと弾力がつき、自分で触ってもうっとりするくらい、いい感じになった。風呂に入ったらマッサージだ。元来、美しいRYONの脚は、ヌルリツルリととてもいい感じになった。虫に刺されたら、即座に対処にかかった。虫さされや青タンは美脚には禁物である。

スキンケアに続いて、ヘアケアだ。ここ最近、収拾のつかなかった髪型に、ストレートパーマをかけてみた。つやが出てツルリとした髪は、自分で触ってもうっとりするくらい、いい感じになった。

触って気持ちいい体ができあがったら、あとは戦略だ。百戦錬磨の女郎蜘蛛、マキさんに教えを請うた。新宿で待ち合わせなのだが、どこかいいデートスポットはないかと、RYONは訊ねた。何年も片想いを続けるRYONに、彼女はことのほかアツいエールを送ってくれた。
「新宿……?う〜ん。歌舞伎町裏くらいしか思いつかないな。バッティングセンターに行ったら? で、『汗かいちゃったん』とか言って、シャワーでも浴びなさい。近くにすごく綺麗なホテルがあるから。いい? なんとしても今回モノにするのよ! 成功したら、記念品あげるからね!」

ちなみに記念品とは、「祝 キタザワくんゲット」とか書いてあるタオルだそうだ。

も〜〜、い〜くつね〜る〜と〜、日曜日……。RYONは指折りデートの日を数えながらエステに励み、戦略を練った。一時はなんかずっと疎遠な状態が続いていて、「嫌われたかも」などとかわいく落ち込んだりもしたものだ。あの辛く長い日々だけは、二度と味わいたくない。

RYONは結構人見知りだ。知らない人と話をするとき、話題のつかみをすぐに見つけられるように、なるべくいろんな情報を得るようにしている。たくさんできることや知ってることがあったほうがじんせい楽しいし。で、その甲斐あって、現在はまあ不自由しないくらいの話ネタの蓄えがたまってきた。その上、キタザワくん向けの話題もきちんと予習しておいた。どんとこいキタザワくん。RYONはなんの話でもキャッチボールしてみせるぜ!

さて当日。待ち合わせ場所でキタザワくんの姿を発見した。
全身これコットンというサッパリとしたスタイルである。うう、かっこいい。

RYONは開口一番呟いた。
「いい格好してるじゃねーか……」

……これではエロおやじのようである。
しまった、なんてことを言ってしまったのだと後悔であたまがいっぱいになってしまい、頭が真っ白になって結局その後RYONが発した言語は、
「うん」「いいえ」
などのお返事だけであった。

バッティングセンターどころの騒ぎではない。エステなんかしてるひまがあったら、女の子っぽいセリフでも練習しておいたほうが、よほど効果が高かったのではないか。結局、場が持たず酒も飲まずにさっさと帰ってきてしまった。

……いや、そんな失敗をしなくても、もともとRYONはキタザワくんとうまく口が利けないのだった。肝心なことを忘れていた。

マキちゃんは言う。
RYONが喋れなくなった姿など、想像がつかないと。酒を飲まないRYONの姿など、想像がつかないと。……RYONだって、これが1か月待ち望んだデートの結末だとは、想像もしなかったさ。すっかりふてくされちゃって、エステってなに? 風呂ってなに? って感じで、次の日なんか18時間も寝ちゃったよ。

銀座でホステスまでしてたってのに、どうして好きな男と会話のひとつもできないのかな! や〜れやれ。