RYONはこの前、大学の授業を終えて帰ろうとしたところ、男の子に声をかけられた。いつもだったらナンパは適当にあしらうRYONですが、その時はまじめに対応してしまいました。その男の子は、まるでラルク・アン・シエルのHydeそっくりな、美しいお顔をしていたからです。

話してみると彼は今映画を撮っているそうで、それに出演してくれないかという。
面白そうという好奇心ももちろんあったが、何よりも彼はHydeと同じ顔をしてる、愛らしい容貌の男の子である。二つ返事でオッケーした。

大学で会ったのだが、彼は実はモグリの学生なのだそうだ。早稲田を受験したが落ちてしまったので、授業だけこっそり受けに来ているという。……なんと向学心あふれていることか。

ある日、台本ができたから読んでくれ、と言われて、RYONはHydeモドキくんにウキウキ会いに行った。台本を手渡され、RYONは食い入るように見入った。

……すげえ汚い字だ……。
しかも漢字の横棒が一本多いなどの誤字は当たり前、書かれている文字を想像力を駆使して解読しなくてはならない、新手の台本なのだ。

街で偶然見かけたRYONに、Hydeモドキくんは一目惚れする。あと2回バッタリ会ったら、彼女とは運命に違いない……そう思っているところに、RYONとバッタリ会う……そんな台本だった。

「ねえあなた、なんて名前?」RYONが訊ねる。
「Hydeモドキだよ」
「Hydeモドキ? かっこいい名前だね! ねえ、付き合おうよ!」
なんで名前がかっこいいと付き合いたくなるのかRYONにはさっぱりわからないが……。しかも台本に出てくるふたりの名前は、しっかり本名なのだ。これはなんだか恥ずかしいぞ。

Hydeモドキワールドはまだまだ続く。
「僕は今まで、男は拳で女を守らなきゃいけないと思っていたんだ。体も小さくて細い僕には、それができないんだって、ずっとコンプレックスを持っていたんだよ。でも今は、男に生まれてよかったと思っている。だって、男に生まれていなかったら、人を好きになることはできなかったから!」

……拳で守られても、ゴツゴツしてて居心地悪そうだなあとかいうのは、高度なツッコミである。……なんで男に生まれてなかったら、人を好きになれないのだ。RYONは女だから、人を好きになれないのか? 「女を」とか「君を」とかならわかるが……。それにしてもこのセリフ、単なる自分の悩みごとだよ。

しかも台本にはキスシーンまである。RYONは躊躇して言った。
「……これは今、彼氏がいるから難しいかな……」

「え!? 彼氏いるんですか??」
驚愕! って感じの驚きかただ。……まあ、なんでか知らないけど、このテのことはよく言われるんだ。しかしさらにHydeモドキは続けた。
「どういう風に付き合ってるんですか!?」

……なんでそんなプライベートなこと、他人にべらべら喋らなきゃいかんのだ。

「RYONさん、24歳の夏は、一度しかないんですよ……」HydeモドキはRYONに訴えかけた。

……?? 24歳? 確かに数年前、RYONは24歳の夏を過ごした。確かにそれ以後二度とやってこないような感じではあるが……。

台本を読んでみると、RYONは24歳翻訳家、転職を決めたがそこの上司に身体を迫られて悩んでいる、という設定だった。

という設定だった、ということは、RYONは24歳翻訳家でそこの上司に身体を迫られて悩んでいる人だと思われている、ということのようだ。彼は、RYONの言う『彼氏』が、どうやら転職先の上司のことではないかと危ぶんだらしいのだ。

「親に立派な機材を買ってもらったから、ビッグにならなきゃいけないんです」モドキは言う。

……それじゃあRYONも、立派なMacを買ってビッグになろうかな。ビッグになるにはまず形から、なのかな。

「日本でやることはもうないんです。俺はハリウッドに渡って、映画界を変えますよ」
エド・ウッドを輩出したハリウッドである。無理なことではないのかも知れない。……しかし、彼の才能を信じ、ひたすら尽くしたエド・ウッドの奥さんのようには、RYONはなれないだろう。

美人は3日で飽きる、という。
Hydeモドキくんは、本当に美しい。キメの細かい肌、サラサラのチャパツ、大きな瞳、浮き出た鎖骨。……が、彼を目の前に、5分もするとRYONはいつもホームシックにかかってしまう。

台本を読みながら、なんて感想を言おうか必死で考えるのだが、「ラストはさ、蠅になって飛んでっちゃうのはどう?」などと、どうしてもギャグしか出てこない。とても真面目な対応ができないのだ。

RYONはこんな言葉を思い出した。
「天は二物を与えず」。……彼の容貌の美しさをもう少し減らしてもいいから、中身を濃くしてあげたらよかったのに……。つい、RYONの目頭はアツくなるのだった。