先日、ふらっと映画を見に行った。RYONの好きな、制作費が出演料しかかかってないようなシミシミした映画である。映画館に入ると「RYONさん」と声をかけられた。誰だろうと見てみると、……RYONの好きな人であった。

RYONは今、恋をしている。……このコラムでは毎月そんな感じだが、今回はマジだ。マジなので、どういう人かというのは、ばれたらイヤなので秘密である。

「ああ、なんて運命の偶然!」「やっぱり彼とは運命の赤い糸?」……などと思いたかった。思いたかったが、RYONのあたまには松任谷由美の『DESTINY』がぐるぐる回った。

……その日RYONは、美容院でカットされた髪の毛を思いのまま操れずひどい髪型だった上に、誰にも会わないだろうと全身コットン100%の、トータルコーディネート1万円の格好をしていたのだ。

ユーミンはいいよ……失敗したのは「安いサンダル」だけだったんだから……RYONなんか、どこもかしこも全身安物スタイルなのだ。髪の毛変だし。

だいぶ弱気な気持ちになりながらも、お互い連れがいなかったので、一緒に映画を見ることになった。ふ、ふたりでくらやみ……!
が、RYONの好きな人はひとつ向こうの席に座ってしまった。
……。

映画が終わり、RYONは思い切って言った。
「ごごごご飯でも食べに行こぅょ(フェイドアウト)……」

RYONの好きな人は「自宅で食べようと思っていたんだけど……」と言うので、とっさに「RYONもです」と口答えした。
仕方ねーなと思ったのかRYONの好きな人は「じゃあ、ちょっとだけなら……」と承諾してくれた。……おお……。

しかしRYONの好きな人は、RYONが何かに誘う度に必ず「軽くなら」とか「ちょっとだけ」とお断りを入れる。……よほどRYONは深く酒を飲まないと気が済まないと思われているか、本当に軽くしか付き合いたくないと思っているのか、とにかくあんまり考えたくない状態である。

店に入って、RYONは相手に了解を得もせず、勝手に「ナマチュウふたつ!」などと注文した。……ガンガン飲ましてしまえ……。
いろいろ話しているうちに、映画の話題になった。……どうやら、RYONの好みと結構近いみたいだ。

RYONは、この前『ヴァージン・フライト』という映画を見たのだが、それがものすごくよかった。まっすぐ前を見て生きていくときに、こんな風に誰かと心を通わすことができたら、どんなにステキだろうと心震えたものである。……これはぜひカップルで見たい。わんわん泣いたあとに映画館を出て、主人公のふたりの姿に自分たちを投影してみちゃったりして、ふたりで『ヴァージン・フライト・ワールド』に浸るのだ。

映画の話がいい具合に盛り上がってきたので、RYONはRYONの好きな人に、
「『ヴァージン・フライト』、すっごくいい映画だったんだよ。見に行こうよ!」
と、だいぶん下心満々でお薦めした。
RYONの好きな人は明るく答えた。
「なんで?」

……なんで?……なんでって……。
これほど有無をいわせぬ否定が、他にあるだろうか。悔しいのでいつか何かのときに利用しよう。イヤな仕事を頼まれたり、変なことを聞かれたら「なんで?」、だ。

しかも食事をしたあと、店を出てからRYONの好きな人は言った。
「ちょっとだけのつもりだったのに、ちょっとじゃなくなっちゃったな……」

しかし、店を出たのが10時30分。RYONにとっては、全然「ちょっと」である。……よほど、RYONと話すのが苦痛だったのか……。

しかたがないのでRYONは、「ちょっと」で終わってしまった夜の、残りの時間をいつもの通り一人で飲んで過ごしてるのである。……今の髪型も辛いが、片思いも辛い。